表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

終章・ヴィーの選択

             ♡




 マーク陛下が勝った。そういえば槍に毒が。ヴァイオレットは慌てて従兄を振りほどいた。ナナコが陛下の傷に触れる。  


「痺れ薬だね!待ってて。今消すから!」


「ありがとう」


 その時、玉座の間に白い服の一団がなだれ込んで来た。


「神の審判は下った!新皇帝の誕生である!」


 神官長っぽいおじいさんが叫んだ。王冠と笏、宝玉を持った神官が陛下を囲む。彼らは有無を言わさず、陛下の頭に王冠をかぶせた。更に手から剣を取り上げ、笏と玉を押し付ける。


「何の真似だ!」


 陛下は王冠を脱ごうとした。だがぴったりとはまって取れない。


「なぜ脱げない!?」


「古代の魔法使いが作った聖なる王冠じゃ。暫くは脱げん」


 おじいさんは陛下に聖水を振りかけると印を切った。これって即位式だよね。強引だけど。ヴァイオレットたちが困惑していると眼鏡がやってきた。


「おめでとうございます。第88代皇帝となられたマーク陛下です。皆さま、拍手!」


 奴が宣言をする。つられてパラパラと騎士たちが拍手をした。ハルク兄さまも手を叩きながら訊いた。


「説明してくれ。ミロ」


「こちらはイーオン帝国の神官長殿です。かねてより前皇帝の暴政に抵抗運動をしておられました」


 前皇帝は神殿や貴族にまで重税を課し、払えぬ者を次々と処罰していた。その不満のはけ口がケイオス出兵だった。眼鏡はオダキユの神殿を通して帝国の反皇帝派と結んでいたのだ。


「疑心暗鬼で身内まであらかた処刑したんじゃ。もう皇族は1人も残っておらん」


 神前決闘の結果、見事マーク陛下が勝利を掴まれた。神は我らをお見捨てではなかった…。おじいさんは泣いて平伏した。神官達も倣った。その中心で陛下が怒鳴った。


「私はケイオスの王だ!皇帝になどならんぞ!」


 でもねえ。王冠かぶっちゃったし。世界最大の帝国だよ。案外良いんじゃない?陛下なら良い皇帝になれるんじゃね?両軍の騎士たちの顔がそう言っていた。

 

 また扉が開いた。見るからに大貴族の一団が入って来る。彼らは陛下の前にずらりと跪いた。


「我ら一同、陛下をお支えすると誓います!」


「誓うな!」


 陛下は王冠と格闘しながら拒否する。また別の一団がやってきた。武器は持っていないが将軍クラスの武人たちだ。


「我ら一同、陛下に忠誠を捧げます!」


「捧げるな!」


 最後は100人以上の美女たちだ。ハーレムの女たちだろう。


「私たち全員、陛下のものでございます!」


「要らん!」


 断り疲れた陛下は玉座に座らされた。多くの臣下が恭順し、帝国はケイオス・オダキユ軍に下ったのである。




            ◆




 マークは無理矢理皇帝に即位させられた。ハルクたちはオダキユに戻った。マークの身辺警護とミロード卿だけが帝国に残っている。


 巨大国家である帝国の皇帝の仕事は膨大だ。書類の山がマークを眠らせない。前皇帝が暴君となったのも分かる。一々事情を汲んでいては身体が幾つあっても足りないからだ。


「ケイオスに帰してくれ。お願いだ…」


「早く多くの皇族を儲ければ楽になりますよ」


 今日だけで何回目かの懇願を眼鏡に流される。子を儲ける前に死にそうだ。


「息抜きに後宮に行かれては?」


 そんな暇があったら寝る。第一、女たちには暇を出した。ミロード卿が新たな書類を差し出した。


「皇后の候補です。選んでください」


「ヴィオレッタ姫だ。他は要らん」


 見もしないでマークは言った。求婚の返事をもらえぬまま別れてしまった。早く仕事を片付けてオダキユに行かねば。焦る気持ちを押え、新皇帝はペンを走らせた。




            ♡




 季節は秋になった。ヴァイオレットは読書を楽しんでいた。帝都であの本の続きが買えたのだ。


「お客様?私に?」


 実家の執事が呼びに来た。応接室に行くと少し瘠せた陛下がいた。


「ご機嫌よう。陛下」


「久しぶり…」


 元気が無い。病気かしら。ヴァイオレットはナナコを呼んだ。


「疲れてるだけだよ!大丈夫!」


「そう?帰りはポンタでお送りしますね」


 その前にアシノ観光の続きをするのはどうかしら。提案すると陛下は頷いた。




            ◆




 マークはヴィーと遊覧船に乗った。警備の都合上貸し切った。2人きりで求婚するつもりだ。


「なのになぜ貴様がいる?」


 赤毛の騎士が彼女に張り付いている。


「婚約者でもない男と2人きりにさせるか」 


「…」


 こいつは護衛騎士だ。空気なんだ。そう言い聞かせ、マークはヴィーの前に跪いた。


「結婚してほしい。ヴィー、いやヴィオレッタ姫」


「それは…」


 断ろうとしている。彼は奥の手を出した。


「“ヒカル皇子物語”の作者を宮廷に迎えた。彼女の作品を読み放題だ」


 皇后になってくれたらね。ヴィーの目が零れんばかりに見開かれた。彼女はマークに手を伸ばした。


「喜んで!」


 


            ♡




 憧れの作家に釣られて陛下の求婚に応えてしまった。精霊たちと静かに暮らそうと思っていたのに。ヴァイオレットはまた嫁ぐことになった。今度は帝国だ。


「ケイオスはどうなるんですか?帝国の一部になってしまうの?」


 ポンタが帝都とアシノを瞬時に移動させてくれる。今は帝都で陛下と式の打ち合わせ中だ。ふと気になったことを訊くと、陛下は気まずそうに答えた。


「君の身代わりをしていた下女がいたんだ。父の子を身ごもっていてね…」


 前王の御手付きが王子を産んだ。マーク陛下の異母弟となる。その赤子を跡継ぎにしたい。陛下はそう言って頭を下げた。彼はもうヴィーがヴァイオレットだと知っている。書類上はヴィオレッタ姫となりややこしい。


「母親に罪はありません。幸せにしてあげてください」


 ケイオスは王宮も王族も一新された。幽閉の記憶も過去だ。ヴァイオレットの未来はここにある。彼女はまた思い出した。決闘のご褒美を忘れていた。


「魚釣りには行きませんの?陛下」


 陛下は「ブフゥッ!」とお茶を吹いた。


「すまん…人前では話さないでくれ」


「私はいつでも良いですよ?」


 物事には順番が、いや良いって言うんだから、とかブツブツ陛下が呟く。ナナコが耳打ちした。


「マークってさムッツリだよね!」


 ポンタのつぶらな瞳が「消す?コイツ消す?」と語る。消しちゃダメよ。


「このケダモノ、斬って良いか?」


 ディーまで剣を抜こうとする。ダメだってば。陛下とディーが睨み合う。本当に相性が良くない。ヴァイオレットはため息をついた。でも嬉しい。彼らは私を守ってくれている。


「みんなで行きましょう。一番大きな魚を釣った人の勝ちよ!」


 未来の皇后は朗らかに笑った。


(終)

お読みくださり、ありがとうございました!新生イーオン帝国に栄光あれ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 名前の由来が酷いwww しかしそのおかげでヒロイン以外に普通の名前だったマークが(あ、こいつメインキャラやな)ってすぐ判別できた [気になる点] 悪いのは母親でマークは無実ってことになって…
[一言] ナナコと組んでポンタも使えるイーオン帝国無敵ですな…!? アシノコ見てる余裕あったのかしら。いいところなのに。 まさかの原作者あの方とは…!更科ちゃんも読みた過ぎて焦がれたくらいだからしゃー…
[良い点] 定期的に美味しいスコーン祭を開いてくれるイセターンや雑多な知識の塔ニクノキヤが戦火に包まれなくてよかった。 [気になる点] 途中、姫はこのまま眼鏡あたりと穏やかな第二の人生を送るのかなと思…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ