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帝都制圧

            ♡



 両親を殺された陛下の怒りは分かる。だからと言って帝都が燃えても困る。ヴァイオレットはあの本の続きが読みたかった。


「おそらく“盗み”の仕組みもバレてます。わざと毒入りの糧食を奪わせるかも。同じ手はもう使えませんね」


 ミロードが軍議を仕切る。参加者はマーク陛下、リトナード将軍、ハルク兄さま、それにヴァイオレットだ。凄く少なくなった。


「連合国の皆さんはどうしたの?」


「彼らはここで待機するそうだ」


 彼女の疑問に陛下が答えてくれた。結局、ケイオスに付いていくのはオダキユだけだった。


「僕たちが勝ったらそれで良し。負けたら帝国に尻尾を振る。勝ち馬に乗るつもりなのさ」


 兄さまは肩をすくめた。ヴァイオレットは呆れた。


「まあ。勝つに決まってるじゃない。馬鹿ね。みんな」


「何か策があるのですか?無いですよね」


 眼鏡が決めつける。無いけどさ。頬を膨らませて奴を睨んでいると将軍に笑われてしまった。


「まず7カ所ある城門の制圧。“転送”で兵を内側に送り込みます。これはオダキユ側が受け持ちます」


 ポンタは転移と転送の両方が得意だった。ヴァイオレットの膝上で狸は頷いた。


 次に騎士団の兵舎から武器を奪い、無力化する。


「どうやって?イーオンの騎士は特殊な体術を使うと言うぞ」


 無手でも強いとか。陛下が訊くとナナコが飛び上がった。


「幻覚を見せるの!敵がお母さんに見えるんだよ!」


「…なんと卑怯な…」


 陛下は不服そうだが将軍がこれを受け持つ。そして陛下と兄さま率いる本隊が一気に皇城を制圧する。ヴァイオレットも本隊に加わる予定だ。それを聞いた陛下と兄さまが「危険だ!」と反対した。


「大丈夫だ。俺がヴィーを守る」


 突然、ヴァイオレットの横に赤毛の騎士が現れた。


「誰だ!?」


 陛下と護衛たちは剣を抜こうとした。だが鞘に張り付いたように抜けない。


「コイツはディー。あたしのお兄ちゃん!」


 ナナコが陽気に紹介する。ヴァイオレットも初対面だ。


「ディーの特技は“鉄壁”。どんな攻撃も防ぐよ!」


 剣を抜こうとあがく騎士たちを、ディーとやらは鼻で笑った。陛下がものすごく怖い顔で睨んでいる。同盟にヒビが入りそうなので、彼には一旦消えてもらった。とにかく兄さまの許可も得たので軍議はお開きとなった。




            ◆




 赤毛の男は挑戦的な目でマークを見た。ヴィーが命じると消えたが、整った顔なのが殊更に忌々しい。天幕に戻ったマークは荒々しく椅子に座った。将軍が苦笑している。


「人間ではありませんぞ。ご案じめさるな」


「私は別に…」

 

 心配していない。断じて違う。だが彼女の側にいる男は誰であれ気に入らない。


「それを嫉妬と言うのですよ。わっはっはっ!」

 

 将軍は豪快に笑うと帝都の地図を広げた。これもヴィーが奪ってきた軍事機密だ。決行は明日。マークは将軍とケイオス軍の動きを確認した。




            ◆

 



「よくぞ此処まで追い詰めてくれたな。褒めて遣わす」


 本隊が玉座の間に踏み込んだ。城門は呆気なく開き、騎士団は母親に無力化された。皇城に辿り着くまで損害は無い。ヴィーの魔法のお陰だ。


 イーオン皇帝は大柄な初老の男だった。鎧を纏い、長槍を手にしている。戦う気だ。マークは油断なく剣を構えた。


「お初にお目にかかる。ケイオス王マークだ。我が国への侵略の礼を言いに来た」


 2人は睨み合う。皇帝はヴィーに気付いた。


「その方が魔女か。儂に付け。何でもやるぞ。皇后にもしてやろう」


 彼女は驚いて従兄の後ろに隠れた。妖精と何やら話している。皇帝は更にハルク王子にも甘言を弄した。


「オダキユ王家を準皇族として遇しよう。魔女が皇子を産めば外戚となろう」


「黙れ!!」


 マークは激怒した。聞くに耐えぬ。


「決闘だ。イーオン皇帝!」




            ♡




 ヴァイオレットはナナコに囁いた。


「このおじさん、頭大丈夫かしら?」


「ハーレムでチヤホヤされてるから、常識無いんだよ!」


 ハーレム。輝く美貌の皇帝ならアリなんだけど。現実はゴツいおじさんかぁ。夢が壊された。ガッカリしていたら、ディーが肩を突っついた。


「何?」


「ケイオス王が皇帝と戦うらしいぞ」


 兄さまの肩越しに剣と槍を構える2人が見えた。


「え?一対一で?」


 いつの間にそんな事になったんだろう。兄さまも何故止めないのか。戦は此方の勝ちなのに。意味無いよね。


「マークは怒ったら止められないから。放っておいて良い」


 兄さまは淡々と占領の指示を出している。ヴァイオレットは老若2人の支配者たちの闘いを見守ることになった。




            ◆




 皇帝は槍の達人だった。マークとて腕におぼえはある。互角のまま打ち合いは続いた。しかし剣を持つ腕に異変を感じる。


(おかしい。身体が…)


 重い。槍が掠ってからだ。毒か。皇帝がニヤリと笑った。鋭い突きを払い、敵の懐に飛び込む。マークの打ち込みを槍が受けた。そのまま押し合う。


「マーク!頑張って!」


 ヴィーの声が聞こえた。初めて名前で呼ばれた。感動で力が湧いてくる。だが押し負けそうだ。マークはがくりと膝を付いた。


 その時、ヴィーがとんでもない声援を送った。


「負けるなっ!()()()()()()()()()!!」




            ♡




 マーク陛下が負けそう。皇帝は卑劣にも穂先に毒を仕込んでいた。かすり傷を受けてから陛下の動きが鈍い。


(どうしよう。何か良い応援を…)


 ヴァイオレットはふいに思い出した。男は若い娘と魚釣りに行きたがる。きっと陛下もそうだろう。


 楽しみがあれば頑張れるはず。彼女は大声で叫んだ。




            ◆




 マークは凄まじい力で槍を跳ね返すと、返す刀で皇帝の(ヘルム)を断ち割った。勝負はついた。振り返ると、ハルクがヴィーの口を押さえている。


「それは本当か?ヴィー」


 彼女は頷いた。分かってないな。しかし言質は取った。マークはハルクに言った。


「ヴィオレッタ姫に正式に婚姻を申し込む。姫の意思は聞いたとおりだ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 確かにナナコは強そうだ…!
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