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7.加害者と被害者と幸せと side被害者

はぁ~。まただ。また、遅刻してしまった。また、竹中さんに悲しげな顔をさせてしまった。

きっとあの顔の原因は私。私が遅刻して、顔にクマなんて作ってる所為で心配をかけてしまっている。たぶん、トラウマがどうとか考えてるんだと思う。

でも、実際はそうじゃない。


そうじゃなくて……


『随分と悩んでいるようだな』


「ふぇっ!?」


突然声が聞こえて、変な声が口から出てしまった。

私は恐る恐る、声のした後ろに振り返る。そこにいたのは、


「ド、ドローン?」


『ああ。俺は「イレイサー」だ。よろしく』


「え?あ、あの……はい。よろしくお願いします」


よろしくしたくはないけど、こんな高性能なドローンを作れる相手にそんなことを言ったって意味なんてない。何がやりたいのかは分からないけど、たぶん抵抗なんてムダ。

抵抗するなら向こうで勝手に何かをされる可能性がある。

これでも私は格の違いというものをしっかりと知っているから、何が危険で何がムダなのかは分かる。、


「イレイサー、さん?は、何のご用ですか?」


『ふむ。意外と落ち着いてるな。……単刀直入に言えば、お前のいじめの経験についての話だな』


「っ!」


胸に痛みが走る。

それは私の苦しんでいることだから。そして、竹中さんを苦しめてしまっていることだから。


「い、いじめが、どうかしたんですか?」


それでも私はできるだけ余裕を保って、イレイサーと名乗るドローンの向こう側に尋ねる。いじめという単語で心を揺さぶられたけど、だからといって必ず悪いことが起こるわけじゃない。

そんな私の思いを知ってか知らないでか、


『お前は、いじめた奴らを恨んでいるか?』


イレイサーは逆に私に、そんな質問をしてきた。

質問を質問で返すな!って言いたいところだけど、なんとなく向こうがこれから言いたいことは分かる。きっと、恨んでいるなら、復習がしたいのか。とか、復習するなら手伝ってやろうか、とか言いたいんだと思う。

でも、それはとっても的外れ。だって私は、


「全く恨んでなんていません。……ぎゃ、逆に、私の方が恨まれているのではないかと思うくらいです」


『ほぉ?なるほど』


私の言葉に、納得したような声を出すイレイサー。

全く何を考えているのか読めないし、分からない。でも、なんとなく私の今に大きな影響を与えてくるのではないかという気がした。

そんな私の気持ちは知らないだろうけど、


『なら、お前は現状に満足しているか?』


そんなことまで質問が来た。

だから、私は素直な言葉を口にする。


「私は……満足してません。あんな風に皆の未来を潰したくなかったしあんな暗い顔をするんじゃなくて皆には輝いて欲しかった!そして、竹中さんに今みたいな辛いそうな表情を浮かべて欲しくなかった!!……だから、満足してるわけ無いじゃないですか」


『ふむ。なるほど。いじめの加害者とされた元クラスメイトの未来が輝いて欲しい。そして、竹中羽野に暗い顔をさせたくない。この2つが大まかな望みか?』


私の心の叫びは、イレイサーにたいして興味もなさげに扱われる。

でも、その扱われ方でも、何か大きな変化が起きそうだった。


「そう、ですね。根本的には私の母親をどうにかしないといけないですけど、今のところはそれが望みです」


『そうか……良いだろう。その望み、叶えてやる』


ドローンの向こう側で、イレイサーが黒い笑みを浮かべるのが想像できた。

頭の中でそんなイメージをしている中、


『付いてこい。外に出るぞ』


イレイサーがそんなことをいってくる。急いで私は支度をして、外に出た。

だって、イレイサーはいじめのことを知っているから。逆らえるわけがない。ここで逆らっていじめのことが世間に知られてしまえば、竹中さんを含めた皆の未来が本当に潰えてしまう。そんなの、あってはいけない。私の所為で未来を潰すなんて、一度だけで充分!


『こっちだ』


玄関先で待っていたイレイサーに付いていき、私は夜の道を歩く。

今まで怖くて夜には出歩いてこなかったけど、なんだか歩いてみるとこんなのも悪くないような気がした。これからイレイサーにされることによってはそんな認識は大きく変化するかもしれないけど、今はとても楽しく思える。


昼に見る近所の景色とは大きく変わった光景。蛍光灯の光が暗闇の中で認識可能な空間を作り出し、時たまに私の気配をセンサーが察知して強い光が放たれる。なんだか、夜に盗みに入って現場をバッチリ捕らえられてしまった犯人のような気分。

夜の風が私の髪をなびかせ、心地良い程度に体熱を奪っていく。


「どこに向かっているんですか?」


『……すぐに分かる』


行き先を尋ねたけど、イレイサーは明確な答えを口にしなかった。私は肩をすくめてその後ろを付いていく。答えがあってもなくても、私にはこうする必要があるから。

大きくはない不満を抱えながらも、私は歩く。

ただ、目的地に着いたとき。私は大きく心が揺らいだ。抱えていたちっぽけな不満なんて吹き飛び、後悔と、恐怖と、様々な感情が渦巻いて私を襲う。

それでも私は、例え相手にぶたれようとも言わなければならない。


「「ごめんなさい!!」」


声が重なる。


あぁ。やっぱり向こうも謝ってきた。

竹中さんは、何も悪くないというのに。

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