6.加害者と被害者と幸せと side加害者
「ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
部屋の中。私はひたすら謝り続ける。
誰も見ていないし誰も聞いていないし、この謝罪に意味なんてないけど、それでも私は謝り続ける。少し前まではこの時間まで勉強をしていたけど、今はそんなことすら手に付かず、ひたすら謝ることしかできない。
そうしないと、私の心が罪悪感で押しつぶされそうだから。
「私が、私が愚だったから……」
思い出すのは、今日も遅刻してきたあの子の顔。
眠れなかったのか、目の下に深いクマができていた。きっとあれは私の所為。私がいじめなんてして、トラウマを植え付けてしまったから、眠れなかったんだと思う。
深い後悔にさいなまれながら、私は謝り続ける。誰もいないのに。
いや、誰もいないと、思っていたのに。
『随分と思い詰めているようだな』
「っ!?だ、誰!?」
突然かけられた声に驚く。
私は顔を上げて辺りを見回すけど、部屋の中に人はいな……って、窓の縁に何かいる!?
「な、何!?」
『何、か。難しい質問だな。これはドローンであるが、そういう事が効きたいわけではないのだろう。……とりあえず名乗るとすれば、俺の名前は「イレイサー」だ。よろしく』
「よ、よろしく?」
よろしくと言われても、私はよろしくしたくない。こんな怪しさ満点で怖い何かとよろしい関係とか嫌!
って、思ったんだけど、
『竹中羽野。お前、過去にいじめの経験があるようだな』
「っ!?」
体が震えるのを感じる。
それは、私を苦しめる真実であり、過去の私が今の私の首を絞めている証拠。
本来は隠されていることのはずだというのに、なぜかこのドローンのイレイサーという存在は私の過去を知っていた。
「な、なんでそれを?」
私はどこでそれを知ったのか、なんでそれを知ってるのかを尋ねる。
でも、ドローンから聞こえてくる声は、
『なんで?そんな理由なんてものはどうでも良いだろう?それよりもお前、いじめが世間にバレたら困るんじゃないか?』
「っ!?そ、それは!」
私は良い。私の行いで私が苦しむのは、当然のこと。あって当然の罰。
でも、それが社会にバレてしまうのは困る。だって、私の周囲の人にまで危害を加えてしまうから。お母さんやお父さん、弟たちに、新しい友達達。そんな色んなな人達に迷惑をかけてしまう。
それは嫌だ。
「な、何が目的?脅して私の体でも狙ってるわけ?」
嫌だけど、もしそうなら従うしかない。私の体1つで私の大切な皆を守れるなら、私はそれで良い。
と、思ったんだけど、
『ん?べつにそういうのは求めていない。それよりも、お前にはある場所へ向かってもらいたい』
「ある場所?」
『ああ。その場所には、俺自身が連れて行こう。行けるのであれば、このドローンに付いてこい』
「……分かった」
行けるのであれば、なんて言うけど、私には選択肢がない。バレたら困るのは私で、主導権を握っているのは向こう。向こうが満足するまで、私は向こうの求めるままに動くしかない。
私は手早く準備をして、部屋から出る。
「……お母さん。ちょっと友達が困ってるみたいだから、出掛けてくるね」
「え?あぁ。……危ないから早く戻ってくるのよ」
お母さんに出掛けることを伝えて、すぐに外に出る。玄関先では、すでにドローンが空中に気持ち悪いほど綺麗に静止して待ち構えていた。
『こっちだ』
ドローンそう言ってなめらかに、1㎜の傾きすらないというように空中を移動していく。
どうでも言いことだけど、高い技術力を感じた。
「ねぇ?何が目的なの?」
移動する仲、少しでも情報が欲しくて私はイレイサーに問いかける。
体が目的ではないというなら、何が目的だというのか、私にそれ以外の価値があるとも思えないし、イレイサーの目的が不思議でならなかった。
『目的、か。強いて言えば俺の自己満足なのだが……』
でも、理由を聞いても分からなかった。
自己満足とか、何を言っているのか分からない。自己満足のために女子高生を夜に外へ連れ出すなんて、意味が分からない。本当に何がしたいんだろう?
『……さて、そろそろ目的地に着くぞ。気合い入れろ』
「わ、分かった」
気合いを入れろと言われても、正直何をどんな風な気持ちにしておけば良いのかさっぱり分からない。
これから何が起こるかも分からないのに,気合いを入れられるわけがない。
そんなことを考える余裕が、ついて行っているときにはあった。
でも、その余裕はすぐに崩れ去ることになる。イレイサーが連れてきた目的を目の前にして。
体が震えるのを感じる。強く激しい感情が私の仲で渦巻くのを感じる。位何かが頭を蝕んでいき、視界が真っ暗になる。
それでも、それでも私は、
「「ごめんなさい!!」」
全身全霊で謝罪し………………あれ?被った?