5.加害者と被害者と幸せと
はののんも面倒くさいやつの1人であったことが発覚した。まさか「私が幸せになる資格なんてない」を2回も聞くことがあるとはな。高校デビューした俺の周り、幸せになれないやつ多すぎないか?
あの台詞、略して「わたしか」とかで覚えてても良いかもな。何とは思うが、これからも同じ台詞を聞く可能性もあるし。
まあ、そんな言葉を聞いて心底面倒くさく思いながらも俺は友人であるはののんの情報を、月島玲のときと同じように調べた。
結果として見つかったのが、
「……いじめ、か」
いじめの経験があったようだった。それを引きずっているらしい。
いじめの経験とは言っても、いじめられた経験ではなく、いじめた経験だ。
詳しい事情を説明していこう。
いじめが行なわれたのは中学生の時。今のはののんは陽キャなギャルっぽいが、あれでもかなり成績は優秀で、その頃の志望校は今行っているところより2つほど上のところだったようだ。
だが、そこでいじめが発覚してしまい、志望校のランクを下げなくてはならなくなった。
大まかに客観的な事実を述べればこういった感じだな。
とはいえ。はののんもいじめたくていじめたわけではないようだ。というか、いじめたつもりはなかったらしい。
勉強で忙しくて、雑用などを1人の同級生に任せていただけというつもりだったようだ。
それをはののんの友人達数人で行っていたものだから、負荷が大きすぎていじめと認定されてしまった。
勉強に目がいきすぎて、周りの他のことに目を向けられなかったわけだな。周囲が自分たちをどう見ているか分からなかった、ということだ。
「……まずは、いじめられた方の状態を確認しないとな」
俺はいじめられたのが誰かの確認もしている。驚いたことに、こっちも同じクラスにいるらしい。
学校側が配慮とかしなかったのかと思っただが、学校のランクを堕とす代わりにそういうことを中学が報告しないと言うことになっていたようだ。それはどうかと思わなくもないが、今回は役に立ったな。
すぐにそっちの確認もできる。
「まずは話しかけるところからいくか」
それは同じクラスなら簡単なことだ。挨拶をするなりなんなり、できることはある。
あまり記憶には残っていないが、調べてかなり地味で引っ込み思案な性格だと言うことは分かっている。変に近づきすぎると怯えられて嫌われるだろう。だが、その時の反応によって、いじめがトラウマになっているかどうかなどが分かるかもな。
ただ怖がるだけなら良いが、そうでない場合は……
「まあ、やってみなければ分からない」
俺は友人のために一肌脱ぐことにする。
ドローンで確認したところによると、はののんは部屋の中でひたすら謝罪の言葉を繰り返していた。あそこまで心を痛めているなら、何もしないのは友人として良くないだろ?
と言うことで早速話しかけようと思ったのだが、
「……遅刻か」
「ん?どした?」
「いや~。何でもない」
「そか?」
友人達と雑談をしながら待っていたのだが、遅刻してきやがった。そのため、朝の挨拶は不可能だったんだ。
また明日にするかぁ~と、思ったのだが、ターゲットが1人で行動を始めた。どうやらぼっち属性持ちなので1人での行動が多いようだ。
他人にバレずに接触が可能で助かる。
「……あっ。俺ちょっと花摘んで来るわ」
「「「ぷっw」」」
俺が抜ける言い訳を言ってみたところ、思いのほかウケた。
ただ、ネムだけ吹き出すことは泣くにやっと笑みを浮かべただけで、
「お~。私はチューリップほしい」
「チューリップ?私はチューリップ組ですってアピールすんのか?」
「……私は幼稚園生じゃない」
「じゃあ、保育園生だな」
背が低いためかなり年下に見えるネムを揶揄い、俺は教室を出る。
そして、いじめられっ子を追いかける。ぼっち属性持ちは人通りが少ないところが好きみたいで、ほとんど誰も通らないだろう物置の影のような所に移動し、スマホを見始める。
そしてぽつりと、
「私が幸せになる資格なんてない」
……こいつもか。
「わたしか」、略称を考えてて良かった。
※※※
あの子をいじめた私が許されるわけがない。
私は間違えた。受験勉強というものにとらわれて、周りに目を向けられなかった。受験よりも大事なものがあったはずなのに、それに気づけなかった。
そんな私が、幸せになれるわけがない。いや、幸せになんてなってはいけない。
あの子はまだ、あんなにも寂しそうだから。あの子は今、ひとりぼっちだから。
※※※
あの子の将来を潰してしまった私が許されるわけがない。
私は間違えた。一生懸命に勉強している皆の役に立っていたのに、それをあの揚げ足取りが上手いだけの害悪な母親に知られてしまった。才能のあった皆の将来を潰してしまった。私の母親とか言う害の固まりに、私が隠し通せなかった所為で。
そんな私が、幸せになれるわけがない。いや、幸せになんてなっちゃいけない。
あの子は今、私と同じ程度のレベルの低い場所にいるのだから。私に気を遣って、わざと勉強が得意でないフリまでしているのだから。