2.復讐と幸せと side月島一恵
「玲………………」
私はただ呆然とするしかなかった。
送られてくる動画を眺めて。私の娘が、自身の父親を殺害するのを見つめて。
私の名前は月島一恵。娘である玲と2人で暮らしている。というか、暮らしていた。今は私がストレスで病気だって診断されて、精神病棟に入っている。
それでもまだどうにかなったはずなのに、どうしてこんなことになったかと思い出せば、それは数分前まで遡ることになる。
「……玲には、苦労をかけるわね」
病棟の窓から外界を眺める。
本当は病院の中を散歩でもしたいところなんだけど、偶に発狂しながら走り回る人もいて怖い。話によると病棟には縛りつけている人までいるらしくて、私の耳には今でもそんな人だろうと思われる人の叫び声が聞こえてくる。
こうして病棟とは関係のない外界に意識を向けないと、私の心は壊れてしまいそうだった。
「礼を1人にするのは忍びないけど、これからの生活を考えると……」
私が働けない所為で、正直私たちの生活は苦しい。
もし私が仕事に復帰できるようになれば、生命保険にでも入って事故で死んだということにして娘にそのお金をあげようかとも考えてるくらい。私の命で娘が幸せに暮らせるなら、痛みを感じながら死ぬのも許容できる。きっと私の体はひどい状況になって例に見せることすらできないだろうけど、それでも私は……
『Hey!今ちょっと良いか?』
「っ!?な、ななな何ですか!?」
私が角度を決めそうな所で話しかけられて、思わず肩がはねる。そしてバッ!と後ろを振り返ったけど、私の目に人の姿は映し出されない。
その代わりに、
「ド、ドローン?」
『あぁ。そうだな。俺は『イレイサー』だ。宜しく』
「よ、宜しくお願いします?」
一切ぶれることなく空中で静止しているドローン。そのドローンは、イレイサーと名乗った。
凄い怪しさ満載なんだけど、
『あっ。病院で電子機器が動いてるってバレたマズいから、内緒にしてくれよ?』
「は、はぁ。まあ、構いませんが」
『そうか。それは良かった。それで、早速本題に入らせてもらうんだが」
そう言ったイレイサーが見せてきたのは、娘の映像。
最初は娘を誘拐でもして脅してくるのかチオ思ったけど、どうやら違うようだった。映像では、イレイサーが誘導して、娘にナイフを持たせている。そして、たまたまなのかは分からないけど、通りかかったあの男に向かって走って行き、何度もナイフでめった刺しに。
「玲………………」
そして、冒頭の私に戻る。
『くくくっ。愛されているな。娘に』
「そ、そうね。でも、復讐なんて……」
私は目線を下げる。
復讐なんて何も生まない。そう言いたかったけど、私の心の中で、何か靄のようなものが晴れたような。つきものが取れたような、そんな感じがした。
復讐は、少し私の心を軽くしてくれたようにも感じる。
そう考えて悩み始める私に、
『あぁ~。復讐の善悪なんて今はどうでも良い。それよりももっと建設的な話をしないか?』
イレイサーはそんなことを言ってきた。
「建設的な話?」
『あぁ。単刀直入に言うが、お前は今金がないんだろう?』
「っ!?……その通りよ」
それに関しては間違いない。
あの子を身ごもったときから、ずっとお金なんてない。生むときにも仕事は休まなきゃいけなかったし、生んでからもお金は掛かったし、しかもあのときはまだ私は高校入学手前で、大した職場にも入れてなかった。それにもかかわらず、身ごもった段階で職場からは、というか、あの土地にいられなくなってしまったし。
そんな風に子育てをしてたら高校にも行けず、割の良い仕事もできず、お金はギリギリの所で推移していた。その状況で入院をしたものだから、ひどい状況なのは間違いない。
『それでなんだが、俺がお前に金を貸してやっても構わない』
「ほ、本当!?」
それが本当なら、願ってもない話。
まともな金融機関では信用性がないとか色々言われてお金を借りることはできなかった。だから、今までお金を借りるなんて言うこともできてない。それでも貸してくれるって言うなら。
『本当だ。因みにお前の娘の方にも話はしてあってな。、あいつには100万貸すことになっている』
「ひゃ、100万!?」
『ああ。100万だ。そして、お前にも同額を貸してやれる』
100万。それは私にとってはとてつもない額。
でも、これからの生活を考えれば、そのくらいの額は必要だと思う。だから、
「……お願いします。貸して下さい」
私は即決して、頼み込んだ。
「良いだろう。お前の口座に200万ほど振り込まれているはずだから確認しろ」
「あ、ありがとうございます」
確認しろと言われても、正直困る。
病院にいてスマホがないからそこから確認もできないし。、入院中だから銀行に向かうわけにも行かない。
そして、それに加えてお金を借りられるのはとても嬉しいんだけど、
「あ、あの。返せるかどうかは……」
今は仕事がない。これからどこかに就職したとしても、生活しながら借金を返済していけるとおも思えない。
『あぁ。それなら、仕事くらいこっちで作ってやる』
「へ?」