2.長女と幸せと
長女の楓が異世界からの転生者である。それは、かなり前から分かっていたことだった。
たまたまドローンの試運転で家の周りをぐるぐるさせていたら、楓が魔法を使ってるところを見てしまったんだよな。しかも、楓はドローンに気付かなかったし。
だが、だからといって俺は何も楓の助けにはなってやれなかった。
俺自身が楓の秘密を知っていると言って接触した場合、危険性がないかどうか分からなかったから。俺は、割と臆病なんだよな。
悩んでいる楓に何もしてやれない俺は、本当に臆病だ。
「でも、今日からはちょっと違うな」
そう。
今までの俺とは違うのだ。というか、俺が作ってきたものが今までとは違うのだ。だからこそ、楓の助けになってやれると思う。
「……行ってこい。ゼロツー」
俺が使うのはドローン。
何度も飛ばしてきたものだが、今までとはひと味もふた味も違う。何せ、ネムを助けるときに使ったゼロワンの改良型が搭載されているのだから。
ここから先は、全て改良型である高性能多機能AI02の動きに掛かっている。俺は悪いことが起きないように、そして、何か起きたとしても俺と関係があるとバレないように祈りつつ、ドローンのマイクが拾う音に耳を傾け、カメラの披露映像を眺めた。
『……やっぱり、俺が力を使うのは辞めた方が良いのか?でも、それだと……』
『随分とお悩みのようですね』
『っ!?誰だ!?』
後ろからゼロツーが声をかけ、机に座って思い悩んでいた楓が振り向く。その手にはどこから取りだしたのかは知らないが、手斧が握られていた。
しかし、ゼロワンを使ってから少ししか立っていないのに、随分と話し方が流ちょうになったものだ。ネムに話しかけたときは機械音声っぽさがもう少しあったんだがな。
テストの時に聞いたから分かってはいたが、実際本番で動かしてみるとその凄さをより鮮明に感じられるよな。
『そこまで警戒しないでも構いませんよ。所詮は私、ドローンですから』
『ド、ドローン?何でこんな所にドローンが……はっ!?まさか、あいつらの手先か!?姿を見せずに手先を送り込むだなんて、学習しない奴らだな!』
どうやら、楓はゼロツーを敵の手先だと勘違いしたらしい。楓の戦ってる相手も、怪物を生み出しては自分で戦わずに逃げるようなやつだからな。
こんな怪しい無機物が来たらそう思うかもしれない。
『いえいえ。私はあなたの敵ではありませんよ』
『的じゃない?それなら一体俺に何のようだ?』
楓はずっと警戒を解いていない。
だが、とりあえず話はできそうだ。
『ではまず、自己紹介をさせて頂きます。私は高性能多機能AI02。ゼロツーとお呼び下さい』
『ゼロツーね。了解。……しかし、AIなのか』
『ええ。AIです。そんな私があなたの元に送られてきたのは、私の制作者様があなたに興味を抱いたからです』
『俺に、興味を!?』
さっと体を腕で隠すように動く楓。
普通にやればかわいいのかもしれないが、手に持った斧がミスマッチだな。
『興味と言いましても、それはあなたの体というわけではなく、あなたが持つ技術に対してです』
『俺が持つ、技術?』
『ええ。あなたの持つ魔法に制作者様は興味がおありなのです』
『……なるほど』
苦々しい表情をする楓。
ゼロツーは的でないとはいえ、自身の持つ力に興味を持ったもの。下手なことをして捕まって人体実験でもされたら、などと考えているのかもしれない。
『ご安心下さい。特に危害を加えるつもりはありませんので」
『……信用できるとでも思ってんのか?』
『ええ。思っていますよ。なにせこの世界であなたのような魔法を使える存在は他に見たことがない。魔法少女などとは別のようですし、そんな世界に1つしかないサンプルに下手なことをしてデータが取れなくなっては困りますから』
『……ちっ。そうかよ』
そう言われると納得するしかないようだ。サンプルなどと言われて納得したくはないようだが、納得するしかないな。
ゼロツーもそれが分かっていての行動だろう。
『ただ、今回訪れたのはもう少し踏み込んだお話がしたいからです』
『ん?踏み込んだ話?』
おっと。ゼロツーが本題に入ったな。
ここが上手くいくか行かないかで、この先の展開が変わってくる。できれば俺としては成功させて欲しいところだ。
『単刀直入に聞きますが、例の怪物を作っている存在の居場所を知りたくはないですか?』
『……はぁ?』
楓は眉をひそめる。
気持ちは分かるな。楓も含めて世の中のヒーローみたいな連中は一切その居場所が特定できていないのだから。
あいつは現われることがあっても決して直接戦うことはないチキンだ。怪物を使って足止めをしてくるため追跡は不可能だと思われている。
だが、
『やつは監視カメラにバッチリと写っていましたよ。変身を解くところは流石にカメラの外でしたが、そこはドローンによりバッチリ撮影しました』
『本当か』
『ええ。本当です』
『なら教えろ。嘘だったら承知しないぞ』
『おぉ~。怖い』
ゼロツーはさして怖がってもいないだろうに、そんなことを言ってのける。
楓はイラッときてそうだな。
『ハハハッ。そんなに怖い顔をしないで頂きたい。勿論場所は教えますが、私としてはその対価を頂きたいのです』




