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1.長女と幸せと side獅童楓

俺は獅童(しどう)(かえで)。大学3年生。経営学部に通っているぜ。

母親を幼い頃に失い、父親も再婚した末に亡くなってしまった。今は義理の兄弟達と共に過ごしているぞ。生意気なのもいるが、基本的に妹たちはかわいいし弟もかわいげはないが嫌な人間な訳でもない。

身内に不幸はあったが、幸せな状況とも言えた。


()()()()を基準にすれば。


だが、はっきり言えば俺にはこの幸せは大きすぎた。異世界だと思われる場所でいくつもの命を奪ってきた俺には、幸せすぎたんだ。

あれだけの命の上に立っておきながら、こんな平和な幸せを手にすることなど合ってはならないように思える。罪悪感が、重く重くのしかかってきた。


俺には、前世の記憶がある。この世界にとっては異世界に当たる場所で、傭兵として活動していた記憶が。

前世でも俺は女だったが、傭兵と言うことでなめられないためにもしゃべり方や一人称は荒くなっている。その名残がこっちに転生してきてからも残っていて、このからだが小さい頃はよく揶揄われたものだ。

とはいえ前世でもそうだったのだが俺だってべつにかわいいものが嫌いというわけではなく、オシャレをしたいと思うときもあった。この体は見た目も良いし、かわいい服がよく似合う。見た目と中身にギャップがなんて言うこともよく言われるが、他人の評価などどうでも良いから気にしてはいない。


俺はこれで満足している。

だが、やはり、やhりこの満足感は、俺の心を強く縛り付ける。

俺は楽しく家族と過ごす時間以外は、ひたすら奪った命に対して謝り続けた。そうしないと、罪悪感で心が押しつぶされそうで。


「せめて、せめてこの力が誰かの役に立てば……」


俺うつろな目で掌を見つめる。そこには、ゆらゆらと揺れる炎が。

この世界に来ても、前世の力が使えるんだ。魔法も、武器術も。

……だが、所詮その力でできることなんて戦うことだけ。こんな力、役に立ちやしない。この世界は前世とは比べものにならないくらい平和だって言うのに。

戦争が起きている国もあるみたいだけど、結局そこに参加しても俺が大量の死人を出すことになる。どうしたって、平穏にはいかない。


「あぁ~。俺、何のためにこんなところにいるんだろ……」


10年以上、そう思い続けて過ごしてきた。

ずっとそう思ってきたが、ある日転機が訪れる。あの日は、小雨が降っていて、心も天気も薄暗かった。大学の帰り道をとぼとぼと歩いていると、


「危ない!」


「え?」


後ろから声をかけられた。俺は振り向き、驚くことになる。

目の前に、黒い不定形の怪物が迫っていたのだから。怪物は口のようなものを大きく開けて俺を飲み込まんとしていた。

全く気付いていなかった。だからこそ、勝手に体が凄いしまう。


「危なぁぁぁぁぁ…………ああああぁぁぁ!!?????」


俺に声をかけてきていた少女の声が、焦りから驚愕に変わる。

それもそうだろう。怪物は、俺が咄嗟につい力を出してしまい反応することもできずに真っ二つになってしまったのだから。

見た目は恐怖感を煽るものだったが、力はたいしたことなかった。


「えっ!?凄っ!?」


少女は驚きで固まっていた。

だから俺は、話しかけられる前に逃げる。俺がこんな力を持っているなんて世間にばれたら困るからな。逃げるのに夢中で地面の水溜りを踏んで走ってしまったから靴を駄目にしてしまったな。


そんな日が、俺のこの世界での人生の1つの転機となった。なぜかそれからその怪物と遭遇する頻度が多くなり、何度も怪物を倒すことになったんだ。あんなのにポンポン遭遇するんだから、俺は運が悪いのかもしれないと思ってるぜ。

そして同時に遭遇することが多くなったのが、その怪物と戦う存在。


あの怪物と戦うのは、異論なやつがいた。

ドレスっぽいものを着て、魔法のようなもの(俺が使う魔法とは違う)を使う少女達。ミリタリーっぽい服を着て、銃や手榴弾と言った現代兵器を使う少女達。そして、変なスーツを着た所謂ヒーロー的な存在。

あのときは焦っていて気付かなかったが、最初に怪物と戦ったときに声をかけてくれた少女は魔法少女(?)だったんだよな。


まあ、そんなものたちと時には協力しながら、怪物退治をしているわけだ。

俺は、個人情報とか諸々がバレないように普段は銀色の鎧を着て戦っている。魔力を固形化して加工すると作れる鎧で、瞬時に装着できる優れものだ。

隠密関係のスキルと合わせると装備もバレずに行えるし、非常に便利だ。誰にも、俺が鎧の中身だとバレたことはない。


「……でも、結局使うのは暴力なんだよなぁ」


俺は襲われて返り討ちにしている。

が、結局暴力を使っているのは確かだ。そして、その暴力を使って人間ではない怪物とは言え、命を奪っていることも。人助けにもなるとはいえ、平和的な解決ができないことも。


そんな俺に、幸せになれる資格なんてないよな。

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