15.推しと幸せとエピローグと
「そういえば、ゼロワンを使ったんですか?」
「ああ。使った」
「どうでした?不具合とかは」
「とりあえずなかったな。ログを確認して映像を見返してゼロワンとやりとりをしてみて、しっかりチェックをしようとは思っているが」
「分かりました。じゃあ、今日はその仕事ですね?」
「ああ」
放課後。いつものように月島一恵と作業を行なっている。今日はゼロワン、正式名称高性能多機能AI01を始めて使用したから、その間に問題が起きていなかったかとかの確認だな。本格使用するにはこうやって使ってみて問題を見つけて1つ1つ修正していく必要がある。
……因みに、こういうデータも取っておいて、修正用AIプログラムって言うのを最終的には作る予定だ。
「……今回使用した件でお前の娘の方に100万入るようにしてある」
「あっ。分かりました。100万ですね…………しかし、結構な額ですね。そんなに重要だったんですか?まあ、だいぶ借りたのでまだまだ借金返済には足りないですし良いんですけど」
自然と口から出た、と言う風な月島一恵の様子だ。
だが、その言葉は、
「へぇ?借金を返せなくて良かったなんて、変わってるな」
俺は自分でも分かるくらい人の悪そうな笑みが浮かんでいるのが分かる。
そんな俺の顔に怯えるようなこともなく、それとは逆に月島一恵は顔を赤くして、
「ち、ちちちち、違います!決っしてこの関係を続ける良いわけがなくなったら困るとか思ってませんからね!わ、私としても、借金なんてすぐに返したいですから!」
そうは言うが、慌てようがひどすぎて嘘が丸わかりだ。
相も変わらず俺が笑顔を浮かべてみていると、月島一恵は居心地が悪そうな、それでいてどこか期待したような視線を向けてきた。……どうやら今日は襲う気分ではなく襲われたい気分らしい。
「……ちゃんと仕事はやれよ」
「わ、わわわわ、分かってますよ!」
月島一恵は慌てたような様子でそう返した。ただ、その後浮きかけた腰をそのままにして仕事をしたため、立ち上がるのが辛そうだったが。
お陰で、ワンサイドゲームだった。もう帰る頃には色んな意味で足腰が立たなくなっていたな。
で、放課後がそんな感じで過ぎていき。その後は家に帰ってネムのための作業だ。適当に邪魔そうなのを間引いて、情報を消していく。1日だけではネムも効果を感じられないだろうから、こういう作業を1突き進めれば良いだろうな。
……あっ。あと、ネムにメールで指示を出しておこう。色んな所で写真を撮らせて、居場所の特定をややこしくさせないとな。
そんな風にして1週間ほど経ったんだが、
「治樹。ごめん」
「ん?」
突然、ネムが俺に謝ってきた。
俺はよく分からず首をかしげる。ただ、すぐに思考は悪い方に行った。まさか、俺に別れを告げて本当に命を投げ出してしまうのではないかと。
が、
「……ごめんなさい。折角グループにまで入れてくれたのに、私、自殺しようとしちゃった」
「は?」
いきなりの告白に驚く、と言う風な演技が咄嗟に出た。
まあ、
驚いたのは確かなのだが、驚いた内容がネムの認識とは少し違うだろう。俺が驚いたのは、ネムが自殺しようとしたことを打ち明けたからだ。
「冗談だろ?」
「……ううん。ちょっっと、色々あって」
「ほ、本気で言ってんのか?ドッキリとかではなく?」
「……うん。本気。だから、その、ごめんなさい。でも、私、ちゃんとこれからは自殺しようなんて考えないから。許して」
「ゆ、許してって言われても……まあ、分かった。許してやるよ。二度とそんなこと考えんなよ?」
「……うん!」
ネムは笑顔で。今まで見てきた中でも、とびっきりに眩しい笑顔で、頷いた。
あぁ~。推しが今日も尊い。
「理由は聞かない方が良いんだよな?」
「……うん。ごめん」
「いや、気にすんな。言いたくない秘密の1つや2つ誰にでもあるもんだろ」
心底申し訳なさそうに下を向くネム。だが、事情は知っているし、俺は気にしない。そこで励ましにでもなるかと思って声をかけてみれば、
「誰にでも……治樹にも、あるの?」
「え?俺?」
なんだか方向性が変わってきた。強い好機9審を宿した表情で俺を見てくる。俺の表情が引きつるのを感じた。
俺が顔をそらして少し後ろに後退すると、ネムはその普段は眠そうな顔を輝かせて、
「……教えて」
詰め寄ってきた。とても距離が近い。これがガチ恋距離というやつか。
そんなネムに俺がどう対応するか難儀していると、
「ん?どしたの?」
「ど、どどどど、どうしたんですか!?」
「きょ、距離が近い!まさか2人、付き合っているのか!?」
ネムを助けるのに協力してくれた、というか、協力させた3人がやってきた。この3人とネムもなんだかんだ仲良くなってるからな。そろぞれ何か抱えるものがあるもの同士共感できるのかもしれない。
俺がそんなことを思っていると、ネムは3人に対してニヤリと笑みを浮かべ、
「今、治樹の秘密を教えてもらうとか」
「「「治樹(獅童)(獅童君)の、秘密!?」」」
3人は目を見開いて俺を見る。
俺はそれに首を振り、
「誰にでも言いたくない秘密はあるって言ったら、ネムが教えろって言ってきたんだよ!……でも教えるわけないよな?」
「「「「えぇ~」」」」
俺が拒否すると、ネムだけでなく3人も残念そうな顔をしてきた。
それからそれぞれネムほどではないが距離を詰めてきて、
「良いじゃん。教えてよ」
「き、気になります!」
「どうせ獅童のことだからたいしたものではないんだろう?ほら、話してみろ」
「ん。話すべき」
興味津々な様子だ。
あと、月島玲の発言はなかなかにひどい。俺の秘密はお前の秘密でもあるんだがな。
……まあ、軽薄そうな演技ができているということでよしとしよう。
「だから、言いたくないから秘密なんだろうが!言わねぇよ!」
「えぇ~。良いじゃん」
「ん。もったいぶらずにさっさと話す」
俺の拒否など無かったモノのように強引に聞き出そうとする4人。
その中で、ネムは、そして、3人も楽しそうに笑っていた。これは、俺が助けたからこそ見れた笑顔。そう考えると、なんだか悪くないような気がした。
たまには人助けなんかも、悪くないかもな。
誰にだって幸せになる資格はあるんだから。
第1部 完!
夕方くらいに登場人物関係の設定を投稿します。




