14.推しと幸せと時間稼ぎと
人気のない場所を割り出して、マイク越しにネムと会話をする。
ちなみに、今の俺は1ファンとしてネムと話しているから、ネムの呼び方は配信者としての名前である「夢」にしてある。
「で?夢ちゃんは特定が怖いんだって?」
『そう。皆に迷惑を明けたくなくて……』
「なるほどな。……まあ、夢ちゃんの性格だとそう思うのかもな」
俺だったら、相当なかの良いやつでもいなあい限り周りの迷惑とか気にしない。巻き込まれたら困ると思うのは、ネムか一部の家族くらいだな。他の友人は……まあ、そこまで気にしてないな。
俺って、結構薄情だからな。
「なら、俺がある程度手伝おう」
俺の場合は良いとして、今はネムの考えを改めさせなければいけない。
ちょっと提案をしてみる。
『手伝う?』
「ああ。これでも俺はハッカーの端くれだからな。出回る情報を抑えるくらいはできるぞ」
『本当!?』
期待のこもった、弾んだ声が聞こえてきた。それは素直に喜べることなのだろう。本人にとって実害もないしな。
ただ、そうやって喜びはしたんだが、
『で、でも、結局は遅れさせるだけで、上手くいかないんじゃないの?』
不安は解消されない。例え俺が動いたとしても、時間稼ぎにしかならないと考えているようだ。
ここで俺がどういう事ができて、どういう手を打てばどうなるって言う話をしても理解が難しいしあまり信用もされないだろう。それなら、
「時間稼ぎはできるから、とりあえず少し待ってみないか?しばらく経ってから安全かどうかは判断すれば良い。……それに、模試ここで自殺しようものならニュースとかで取り上げられて、それはそれで学校の連中に迷惑が掛かると思うぞ」
『え?そう、なの?』
理解していないといった様子だ。
……本当にこいつはインフルエンサーなのかって思うほど読みが浅すぎるな。
「そうだろ。屋上から飛び降りて自殺なんかすれば、いじめが起きたのかとか疑われるだろうし、調べた結果もし夢ちゃんだってことがバレたら余計にその騒ぎは大きくなるだろう」
『……そ、そんな』
逃げようとしてもどうにもならないのに、命を投げ出そうとしてもそれはそれでダメ。難しい話だ。
が、それでも俺はやれる。ネムに二度と「わたしか」とか言わせない!
なんて、俺が意気込んでいると、
『色々と怪しいところはあるが、イレイサーは信用しても良いと思うぞ』
『まあ、私たちも助けてもらった身だからね』
『そ、そうですね。イレイサーさんはいい人……ではないですけど、悪い人じゃないですから!』
俺が助けを求めた3人も動いてくれた。
ただ、飛應甲子に関してはちょっとその発言は不適切だと思うんだよな。今言うことじゃないだろ、それ。そこは良い人っていっておけよ!微妙な空気になるだろうが!
『そ、そっか……私も、イレイサーさんが悪い人じゃないのは知ってる。………信じてみようかな。イレイサーさん。お願いしてもいい?』
ネムに尋ねられる。
推しに頼られるって、なかなかないことだよな。今まで頑張ってきて良かった(泣
「勿論構わないぞ。支援しよう。……とりあえず連絡することがある場合はそっちのスマホに行くと思うから、送り主がイレイサーとされているものはチェックするようにしてくれ」
『わ、分かった』
よしよし。
これで、とりあえず暫く時間稼ぎはできるだろう。本当はここで解決まで生きたかったが、今はココくらいで我慢するしかないだろうな。後は、結果で示せるように頑張ろう。
ということで、ネムに対しての話はここまでで良いとして、
「よし。では、3人とも今回は助かった、報酬は指定の口座に送るから確認してくれ」
『わ、分かった』
『ほ、本当にくれるんだ』
『人の自殺を止めてお金が貰えるって……とても複雑な気分です』
雰囲気的には、報酬が貰えなくても良かったみたいな感じだな。確かに普通の完成では、クラスメイトの自殺を止めたら100万手に入りますとか微妙な気持ちになるものだろう。
もちろん、俺はラッキーぐらいにしか思わないと思うが。
『また何かあれば連絡する』
『わ、分かった。できる限り従おう』
『私も、できる範囲であれば』
『わ、わわわ、私もです!』
3人の返事が聞けたところで俺はマイクのスイッチを切り、ドローンのスピーカの権限の持ち主をゼロワンに戻、
「「「「オオオオォォォォォ!!!!!!!」」」」
いきなり外から、大きな声が聞こえてきた。耳に響く。
俺は耳を押さえながら、改めてスイッチを切った。
……あんまり長く話していても、一緒に昼食を取っていた友人達に怪しまれかねないからな。俺の話すところは短く済んで良かった。
『皆様オ疲レ様デシタ』
俺に権限を戻されたゼロワンの声が聞こえてくる。
『あっ。もしかしてゼロワンに戻った?』
『もうイレイサー消えたんだ』
※※※
「ビ、ビックリでしたね。夢野さんが有名な人だったなんて」
「……そう?」
「そうだよ。ま、ちゃんと黙っとくから安心して良いよ」
「……ありがと」
「いやいや。あたし達友達でしょ?」
「……そ、そっか」
「わ、私も友達で良いんですか!?」
「……良かったら、友達に」
「は、はははははは、はい!勿論です!宜しくお願いします!!」
「……ん。よろしく」
「い、色々頑張ります!……そ、それと、さっきから月島さん黙っていますけど、何かあったんですか?」
「ん?いや、何というか……イレイサーが消えるギリギリの所で、大声を誰かが上げていただろう?」
「ああ。はい。そうでしたね。部活か何かで」
「聞き間違えかもしれないが、あの声がスピーカーからも聞こえた気がしたんだ」
「「……え?」」
「……それ、私も聞こえた」




