13.推しと幸せと side夢野マクラ
昨日投稿するものを間違えたので、今日は2話投稿します。(2023/7/31)
私が動画を投稿し始めたのが4年ほど前。まだ、小学生のときだった。
最初の頃はあんまり見られてなかったけど、1年ほど経ったところで急に人気が出てみるみるうちに登録者数は増えて、人気は高くなってきた。そこで調子に乗って配信まで始めて、さらにそこで人気を得た。
学校とか勉強とかはダメダメだったけど、それでも将来は生きていけると思えるくらいのお金は得られた。こういうのを、幸せって言うんだろうと思ってた。
『シカシ、問題ガ起キタノデスネ』
「そう」
だけど、そんな生活は一転してしまう。
中学3年生の時。所謂、身バレというものをしてしまった。
顔や本名まではなぜかバレずに済んだけど、住所とか出身校とかはバレた。私を見ようと家に集まる人が何人もいて、本当に大変だった。
集まっている人の中には何かものを投げたり落書きする人までいと、色んな人に迷惑をかけた。学校にまで乗り込んでくる人もいたし、私は怖くて怖くて仕方がなかった。
『ソレモ仕方ノナイコトデショウ』
「そう、だよね……」
だから、辞めて欲しいと言ったのに。
SNSで、そう言ったのに、それの返答として来たコメントは誹謗中傷のものばかりだった。しかも、更にその日から行為はエスカレートされていって、来る人まで増えた。
『嫌ガル素振リヲ見セレバ、嫌イナ人間ハ余計ニ事態ヲエスカレートサセルモノデスネ』
「うん。そうなん、だね」
それに私は耐えきれなかった。
身バレしたのは中学の最後の方だったから、幸いなことにそこまでひどい事になはならなかった。学校に乗り込んできた人が出て以降は学校に行かず、引っ越す場所を探した。
幸いなことにというか、皮肉なことにと言うか、今までの活動のお陰でお金はあったから、引っ越し先の条件は絞らなくて済んだ。
できるだけ遠くへ。できるだけ、私のことを知らない人がいるところへ。私はそんな所へ向かいたくて、引っ越し先も全く知らない土地の学校にした。
『ソレガココ、トイウワケデスカ』
「そう」
高校に入ってみたけど、まだ周りの視線とかそういうものが怖くて上手く友達を作ることができなかった。
そんな風な状態で上手くいかないまま数日過ごしていたけど、そこで初めて話しかけてくる人が。それが、獅童治樹。私が配信で話した夢、というか、目標その者みたいな人。
誰にでも臆せず絡めて、それでいて困っている人がいたら積極的に助けてくれるタイプの優しい陽キャ。彼が話しかけてきて、そして、陽キャグループに引き込んでくれたお陰で、まるで私も陽キャになれたみたいになっている。
『良イ話ミタイニナッテイマスガ、ソレデモ自殺シヨウトシタトイウコトハ問題ガ他ニアルトイウコトデスネ?』
「……そう」
そんな恩人とも言える彼に、そして、グループのメンバー達に、迷惑をかけたくない。そう思った。
引っ越して転校して、居場所の特定を難しくした。だけど、そのはずだったのに、それでも私の引っ越し先とかが特定されそうになっていた。
私の住む地方は、すでに分析されていた。
『ナルホド。割リ出サレテ、マタ中学ノ時ノヨウニナッテシマウノガ怖イ。トイウコトデスネ』
「うん」
私はためらうことなく頷く。それが私の気持ち。
もう誰の迷惑にもなりたくない。だから、コン粟田氏なんて、ここで命を落としてしまった方が良いに決まってる。周りに迷惑をかけてばかりの私なんて、生きてる資格も、幸せになる資格もない。
『ソウデスカ。デハ、私ノ制作者ニ一度交代シマスネ』
「え?」
私の口から困惑の声が漏れる。
でも、それを待たずにゼロワンは消えた。消えたと行ってもドローンの姿がなくなったわけではなく、その喋る相手としての機能が消えただけ。
ただ、代わりにというべきか、
『久しぶり。いや、初めまして、というべきか。俺の名はイレイサー。夢ちゃんが困ってるみたいだったから、手を貸しに来たぞ』
「イ、レイ、サー……」
イレイサー。
私はその名前を噛みしめるように頭の中で反芻する。
だって、その名前は、その名前は私の大切な、
「イ、イレイサーさん、なの?」
『ハハハッ。イレイサーさんなの?と聞かれても、どのイレイサーかはわからなんが、俺はイレイサーだ。一応、夢ちゃんのファン1号だと思っている』
「……ほ、本当に、イレイサーさんなんだ」
イレーサー。その名前は、私の大切なファンの人の名前。
私が活動を始めて最初にファンになってくれた人であり、私が活動を続ける中で心の支えになってくれた人。伸びなかった小学生時代に辞めなかったのは、彼(たぶん男の人)がいたからこそ。
「……ほ、本当にイレイサーさんって、私の個人情報知ってたんだ」
『まあな。推しに嘘はつかない』
一度言われたことがある。
私の個人情報は簡単に分かってしまうから、もっと隠しておいた方が良い、と。
その時はまだ私もその言葉の大切さに気付いていなかったけど、今なら分かる。あのときの時点で、ほとんどの私の情報はイレイサーさんに知られていたと言うことが。




