メイン試合への道
二人とアピールの打ち合わせをしたのだが
「よろこんでー♡」
「がんばりまーす♡」
と乗り気だった。
今回は勝ち試合。
相手はレンバルダ闘技場専属の闘士。
「アークレイだ。レンバルダを護っている」
専属の闘士というのは、その闘技場から動かず常にこの場所で戦い続ける者。
そうなるには観客を飽きさせないパフォーマンス力と、どんな相手がきても試合を成立させる実力が求められる。
また郷土愛ではないが
「この街が最高である」という思い。そういうのが無いと成り立たない。
アークレイは人族の戦士。
だがかなりの筋肉を身につけ、体格も人族にしては大きい。
「今回の戦いは俺の負けとの事だが。どう戦えばいい?」
アークレイは街を護る闘士。そうなれば一方的な試合は出来ない。
それをやればアークレイの格が落ちるし、その結果怒った観客に俺がなにをされるかも分からない。
大体街の闘技士との戦いというのは五分の勝負になる。
「ああ。お互い身体が大きい。ここはこの肉体を見せ付けるような、ド派手な一戦が良かろうと思ってな」
アークレイはオーソドックスな闘技士と聞いている。たがら互いが交互に技を掛け合う闘技の基本のような試合をする。
ただどの技も派手なものを使う。
普通は地味な技を掛け合ってからド派手な技に繋げて盛り上げるのだが、この試合はお互いがメイン技を連発する。
いくらかかる技を知っていようが、痛いものは痛い。
耐久力がないと耐えられない。
だがこの二人なら大丈夫だろう。そういう話だ。
「それでいこう。よろしく頼む」
試合当日。
今回のアピールは二人を出す。
そのためにウロポロスにお願いしていた。
入場口から多くの人族の男が担ぎ上げる台の上に、優雅に座っている二人のゴブリン族の女二人。
二人は宝石を嬉しそうに見せびらかしている。
そして、それに合わせ演奏隊が甘美な音を鳴らしていく。
そして俺が
「いいか! よく聞け!!! 俺は成功者だ!!! 闘技士のエリートだ!!! このようにな!!! 囲った女には贅沢をさせ!!! 着飾らせている!!! 今日の戦いを見て惚れた女は付いてきてもいいぞ!!! もっともこいつらの下だがな!!!」
「キャハハハハ!!! 奴隷としてなら歓迎してあげる!」
「私達の方がえらーーーい♡♡♡」
二人は抱き合って笑う。
それに観客は
『ぶーーーーーーー!!!』
『アークレイ!!! 生意気なオーガーをぶっ飛ばしてやれ!!!』
観客はいい感じに盛り上がる。
また二人を見下すような罵声もない。単純に傲慢で生意気なオーガーをぶっ飛ばせ。
そういうノリだ。
そしてアークレイと向き合い。
「かかってこい!!!」
俺達は組み合って戦い始めた。
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「最近のデアグレンの戦いっぷりは素晴らしい。客の評価も高い。次はメイン試合を考えております」
ウロポロスは試合中に打ち合わせをしていた。
今回の試合はシナリオ段階も二人に任せきりだった。ウロポロスはそれよりもやることがあったのだ。
それが今後のデアグレンのマネージメント。
「ミカエルは常に勝つチャンピオン。それだと今後は困る。その手前に勝ったり負けたりする強者が必要。それは論を待たない。デアグレンはそういう枠という理解でいいのかな?」
「仰る通りです。デアグレンは非常に優秀な闘技士。ミカエルは確かに強いが闘技士としての経験はそこまでではない。その圧倒的な強さで駆け上がりました。デアグレンはミカエルには敵わないが、闘技士としての上手さがある。儂としてはデアグレンをメイン試合を張る格に上げて、様々試合を組ませた方がいいと思っております。そうすれば他の皆様の闘技士の格も上げることが可能です」
ウロポロスが話しているのは、闘技という競技を支援しているスポンサー。
立場的にはウロポロスは彼等から依頼されてマネージメントをやっている雇われの関係。
そのスポンサーは裏社会の人間もいれば王族もいる。
今打ち合わせしているのもとある王国の王族の一人。
「しかしウロポロス。君の子飼いの闘技士ばかりがメイン試合だと不満が溜まる。マネージメントする連中は一人ではないのでな」
ウロポロスはそれに大きく頷き
「当然そうです。だからこそ私はデアグレンの才能を知りつつもメイン試合を組ませるところまではいかなかった。ですがご覧ください。アークレイ相手にここまで見事な試合を演出できる闘技士は他におりますか? アークレイはオーソドックスな闘技士です。それがこのような盛り上がりになる」
観客は総立ちになっていた。
二人は初手から、吹き飛ばし、投げ技、パワーボムと、連続して派手な技を叩き込んでいく。
そのたびに歓声があがり、観客達は勝敗を忘れ叫んでいた。
「ハッキリ言えば。儂の子飼いがメイン試合ばかり組むのは他が無能なだけでしょう。逆もしかりです。儂の子飼いが力足りずならば、客の評価が低くなり、メイン試合から外れるのは当たり前の話です。そこに不満などない」
ウロポロスの話に
「そうだ。我々は慈善事業ではない。有能ならば金を出す。それだけだ。ウロポロス、良いだろう。デアグレンをメイン試合に上げろ」
「ありがとうございます!!! ……それで、対戦相手ですが……」
「お前が決めていい。子飼いでもいいぞ?」
「ありがとうございます!!! 必ずや盛り上げて参ります!!!」
ウロポロスは何度も頭を下げる。
その王族の男は立ち上がり
「お前の金が必要だ。たっぷり稼げ」
試合は予定通りデアグレンの勝利。
だが、双方の派手な技に観客は満足しブーイングは殆どなかった。
「いよいよデアグレンがメイン試合か。相手は予定通りラウルブグだ」
ラウルブグはミカエルとも対戦したウォーウルフ。
戦闘能力は非常に高く、ウロポロスのマネージメントではない闘技士だが、ウロポロスの依頼で何度か呼んだことがあった。
とにかく強いが戦い方の問題であまりメイン試合を組むことは少ない。
ウロポロスは打ち合わせが終わるとすぐに闘技場内の控え室に向かう。
そこには人族の女性がいた。ラウルブグのマネージャーをやっているゼミラ。
「どうでした?」
「デアグレンのメイン試合は了解してもらった。対戦相手もこちらで選べと。ラウルブグにお願いしたい。日程調整を頼む」
その言葉にゼミラは満面の笑みになり
「もちろんです! ラウルブグはいつでもいけますよ! 会場はどうしましょうか?」
「ファーリスト王国の王都でやろう。ミカエルも再会を喜ぶぞ。今回はガチ戦闘ではないからな? そこはラウルブグによく言っておけ」
「ええ。お任せください!」
「これは前金だ。準備も金がかかるだろう。契約書は王都で渡すが、先に取り決めだけ伝える。今回はラウルブグに勝たせる。全部で三戦やるが、二戦は反則でデアグレン、三戦目は反則無しでデアグレンだ。三戦まで引っ張るからそこは十分伝えておけ。前回のように負けるのは嫌だとかは許さんからな。金は一戦あたり1000金貨。前金は300金貨渡しておく」
「メイン試合はやはり額が大きいですね! 前金も助かります。万全の準備をさせますので!」
「ああ、頼んだ。儂も期待してるよ」
ラウルブグのマネージャー、ゼミラは前金を持って近くに待機していたラウルブグと打ち合わせをした。
「王都のメイン試合ですよ! 久しぶりの大きい試合です! 三連戦ですからね!」
ゼミラはニコニコしながら話をするが
「ウロポロスからの試合か。今回も実力勝負でいいのか?」
ラウルブグの問いかけにゼミラは満面の笑みのままラウルブグに顔を近づけ
「そんな訳ないでしょう。どこの世界に勝ち負けが分からないメイン試合、それも三連戦もさせるバカがいるんですか?????」
ゼミラの迫力に少しビビるラウルブグ。
「今回は、負けたくねーとか言わせませんからね。きっちりと前金まで用意してもらっています。三戦のうち初戦は勝利しますが、残り二戦は反則負けと負け。闘技士だから構いませんね?????」
笑顔のまま顔がくっつく勢いで喋るゼミラに
「……相手は誰だ。王都というのはファーリストの王都か? ミカエルではなかろう?」
「場所は正解。相手はオーガー族のデアグレンです。ご存知で?」
それにラウルブグは頷き
「ああ。猛者と聞いている。そうか奴もウロポロスがついているのか」
「ミカエルとも挨拶させるそうですよ? 私はあの筋肉女はもうこりごりですけどね」
ミカエルとの戦いでラウルブグはかなりの怪我をして、本調子に戻るまで時間がかかったのだ。
だが「あのミカエルと互角だった」という評判からその後の対戦相手には困らなかった。
なのだが、ラウルブグの「猛者と真剣勝負したい」という欲求はミカエル戦後強くなり、なかなか試合が成立しなくなってきたのだ。
マネージャーのゼミラはラウルブグ専属。彼の試合が組めなければ生活できない。
そんな矢先に出てきたのがこのメイン試合の話。
「結果的にはカスみたいな試合を組んでいないことで、格は上がったわけです。収入はかなり減りましたが、この三連戦が成立すれば全部で3000金貨。元は十分すぎるほどとれます。しかもメイン試合を成立させれば今後もそういう話がまた来ますからね。本当はミカエル戦後もそういう話はあったんです! もう我が儘言わないように!!!」
そして金貨300枚入った袋をラウルブグに押し付け
「もう前金は預かりました。今更嫌だは絶対言わせませんからね!!!」
ゼミラの迫力に
「わかった。わかった。闘技士としてしっかり仕事をするよ。そうと決まれば打ち合わせの日程を頼んだ」