踊り子ニフェルアリュア
山道で夜の移動は致命的。
俺達はなんとか日中の間に山を下りきり、麓の集落に駆け込めた。
「助かりました!!!」
「こちらの宿と酒場を貸切ましたので是非!」
旅団達が接待をしてくれる。
俺はランとフルを両脇に抱えて酒場で飲む。
「奢りだそうな。いっぱい飲もうな」
『はーーーい♡♡♡』
しかし過去にも女を囲うオーガーを見たことがあったが、あれの意味が分かった。
女を囲っていると自分が優れた存在のような気がする。
闘技士として、いつも恐怖と向き合っている俺としては、こういう自信はとても心が安らぐ。
ランとフルにキスをしながら酒を飲んでいると
「……オーガー族はゴブリン族を囲うことが多いと聞きましたが、あれだけ強いあなたもそうなのですね」
目の前の女性。
人族だ。見た目踊り子に見える。
踊り子は選ばれた職業。
国が認定しないと名乗れない。厳しい訓練と教養を身につけた上で名乗ることが出来る。
その踊り子は国からの認定の印の宝石を首に付けていた。
襲われた旅団にいたらしい。
もしかしたら彼女目当てだったかもしれないな。踊り子の誘拐は金になる。
「オーガー族が、とかは関係無いな。俺はこの二人と酒を飲むのが大好きなだけだ。たまたま二人がゴブリン族というだけの話」
それに二人は誇らしげに宝石を見せびらかす。
自分達は貧しいゴブリンではないぞ。そういうプライドに見える。
「……それはそれは。せっかくなので救われた御礼に舞を披露しようかと」
「それはいい。国認定の踊り子の舞を見られる機会など滅多にないからな。是非お願いしたい。お前たちも一緒に見ような」
『はーーーい』
そして金貨を10枚差し出す。
「御礼という事だが、このような場所で舞ってもらうリスクは闘技士として理解しているつもりだ。これはそれの対価として受け取ってほしい」
踊り子はその金貨を見ながら
「……さすが闘技士。とても紳士的で素晴らしい事ですわ。この金貨は有り難く頂きます。それでは……」
踊り子がかかとで床を踏み音を鳴らした。
その音で酒場の雰囲気が一変する。
酒を飲み騒いでいた連中の視線は踊り子に集中する。
その視線の真ん中で、踊り子は舞う。
そこは汚い酒場。
それなのにまるで広いステージの上で舞っているかのようなダイナミックな動き。
音もなにもない。
彼女がただ舞っているだけ。
響くのは床を鳴らす音。
それだけなのに目を離せない。
「…………」
闘技の前説で最近は歌や舞が主流になってきたと聞く。
これを見るとそれは実感する。
これは凄い。
『カンッッッ!!!』
最後、靴の音と共に彼女は静止した。
『うおおおおおおおおおっっっ!!!』
酒場は大騒ぎ。
彼女は俺の出した金貨を受け取り
「あなたの試合の前説でも踊りたいですわ。その時はこれの十倍は頂きますが」
それに俺は笑い
「是非。是非。その程度、彼女達の宝石代ですから」
踊り子が去った後、ランとフルは俺にべったりくっついていた。
「あの女性格わるいですー」
「騙されちゃいけませーん」
性格悪いか。見るからに「なんでゴブリン族なんてかこってんの???」というのを隠そうともしていなかったからな。
「人族は傲慢なやつが多いからな。ゴブリン族は無条件で醜く劣ると思っているんだろう。俺から見ればお前たち二人はあの踊り子より美人なんだが」
『えへへぇぇぇ♡♡♡』
もの凄い嬉しそうに二人はキスをしてくる。
「それはともかく、あの舞はすごかったな。前説か。ウロポロスと相談するかな」
「金貨100枚なんてぼったくりですよー」
「なに、最近の前説は凝ってるからな。前説目当てで客も来るらしい。儲かればウロポロスはなんでもするさ」
襲われていた旅団もレンバルダを目指していたらしい。
そこから先は襲われる事もなく無事到着した。
ウロポロスも別のルートで猛スピードで移動したらしく、同じ日に到着。
「前説なんだが、今ちょうどこの街に踊り子がいる」
「踊り子? ああニフェルアリュアのことか。なんだお前も知っているのか?」
「たまたま襲われていたところを救ったんだ。御礼として舞ってもらったんだが、素晴らしかった。金はかかるが彼女にやってもらったらどうだ? と思ってな」
それにウロポロスは頷き
「ニフェルアリュアにお願いするのはもう決まっていたんだ。お前の試合ではなくメイン試合だがな。お前の試合でも舞ってもらえるか交渉してみよう」
試合までは時間がある。
俺は郊外で訓練をしていた。
「すごーーーい!!!」
「かっこいーーー♡♡♡」
ランとフルも付いて来たのだが、二人は日陰でくつろいでいる。
ふと思ったが
「会った時よりも美人になったな」
二人には宝石や服だけでなく、肌を癒やす蜜水なども用意した。
また食べ物も果物など高級品を与えるようにしたら、肌がスベスベ、テカテカするようになってきたような気がする。
あと単純にふっくらした。俺はふっくらした方が好みだからとてもいい。
「嬉しいです♡」
「毎日美味しいものだべれてー♡ しあわせー♡♡♡」
そのまま二人は俺に抱きついて
「あん♡♡♡ 逞しい匂いがするー♡♡♡」
「汗ふきまーす♡♡♡」
可愛いな。
酒場で気に入ったから連れ出しただけだが、思った以上に良い。
俺はニコニコしながら二人と戯れていた。
「アピールなんだかな。やはりニフェルアリュアは格があってメイン試合のみでないと色々失礼だと思うのだ」
ウロポロスからの話。
「そういう話ならば納得する。構わない」
「お前もかなり頑張ってもらっている。この前のドルグゥゥアとの試合は評判になっていてな。ドルグゥゥアは次もまた殴り合いなんだが、次は勝つシナリオだ。あのスタイルでメイン試合を作れそうだと思案している」
なるほど。つまり
「頑張ればメイン試合になれる。だからこの試合を盛り上げろ、と」
「その通りだ。それでアピールなんだがな。お前が連れまわしている二人いるだろう? あれを使ったらどうだ?」
二人を使う?
「あの二人が笑い物にされるのは嫌なんだが」
「違う。女に宝石をつけさせ、贅沢をさせている。それを皆に見せ付けるというだけでアピールになる。俺も街で見かけたが、ゴブリン族の成金という感じで中々悪くない。笑い物にはならんと思うぞ」
「ウロポロスがそう言うならばそうしようか。二人に話をしてくる」