帰って来れない
「そう言えばデアグレンさんってまだ帰られて来ないんですか?」
大陸最強と呼ばれる闘技士アン・ミカエル。
ゴブリン族のマネージャー、ウロポロスに語りかける。
ミカエルはあまり試合を組まれない。
30日に一度程度。それだけミカエルと戦うには順序と名声が必要となる。
「あいつはなー。俺も早く帰ってきて欲しいんだが。なんか色々あってなー。ラウルブグはもう帰ってくるんだが。あいつ本当に帰って来れんのかな???」
ウロポロスは困りながら返答する。
ウロポロスとしても戻ってきたラウルブグとデアグレンをアン・ミカエルと当てるつもりだった。
ラウルブグはバルバレイと契約をして、こちらの大陸に来てラウルブグと戦い、アン・ミカエルとも戦う。
「バルバレイさんという方は強いので?」
「強い、強い。ガチ勝負でも良いぐらいだ。デアグレンに敗れたが、あれはデアグレンとの相性が悪すぎただけだな。体格に勝る相手にやる技の数が少なかった。ラウルブグやミカエル相手なら相当強いぞ。楽しみにしているといい」
それに頷くミカエル。
「分かりました。それであの田舎もののクソブスは???」
「……田舎もののクソブスじゃないんだ。お前もあの合唱団の連中に毒されすぎだ。バルバレイの応援に来てくれるぞ。お前、多少盛り上げるアピール程度ならいいが、ニフェルアリュアはあくまで帝国公認の踊り子。無礼をするなよ。分かったな」
話合いが終わって表に出るウロポロス。
溜め息をつきながらゼミラからの手紙を改めて読む。
デアグレンはこっちにしばらく戻れない。代わりにバルバレイが来る。そのあたりはラウルブグのマネージャーのゼミラが動いて取りまとめた。
ウロポロスは先にこちらの大陸に戻って来ていたのでゼミラに色々お願いをしていたのだが
『デアグレンは帝国を揺るがす大問題になっている、帝国改革に巻き込まれてしまっています。改革の中心人物は皇帝の姉のファンクライア。それと子を作ってしまったので……。多分戻れませんよ。ファンクライアもデアグレンを手放す気が無いようで』
「……そんなこと言われてもなー。デアグレンはあくまで闘技士。返してくれないものか。とは言え俺が行ったところで帝国の話に口出しもできんしなー。なんか解決されないものかな」
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ガンラブドとの戦いは一方的だった。
というか、ガンラブド自体は策が上手くいった時点で使命を果たした扱いである。
ワザとファンクライアを怒らせて「このままでは帝国はおかしくなる」と弟である皇帝への警告をした。
これを為された段階でガンラブドの目的は達成したわけで、その後の負けっぷりもちゃんと
「調子乗っていたやつがみっともなく負ける」という演技をしていた。
「しかし、こんな演技をされたところで、納得するのか?」
俺は試合終了後ファンクライアに話を聞いたのだが
「……皇族というのは、こういう陰謀やら策略が日常なのですよ。それに引っかかるやつが間抜けなだけです。私だってある意味陰謀をしていた立場です。自分はやったおいて、やられるとムカつくは道理がたちません。あくまで表向きかけられた恥を注いで終わりにする。それはそういう意味です」
その後にゾッとするような妖艶な笑みを浮かべ
「まあ、私は執念深いので。ずっと怨みはしますけどね」
それから数日経って、俺達はヘルパスト・ガーデリングに戻った。
女達の出産を安らかにするために、そういった施設の多い大都市ヘルパスト・ガーデリングが良かろうと決めた。
ファンクライアの街からそんなに距離も無かったから女達の負担もそうでも無かった。
ファンクライアはこの城で過ごせと勧めてくれたが
「いや、俺はあの城の連中見たら殴りそうだしな」
という事で移動。
幸いな事に女達は誰も流れなかった。
12人の女達は次から次へと子を産んでくれた。
俺は元々親に捨てられた、というか親に食糧にされそうになった子供だった。
そのせいか知らんが、親としてちゃんとしたい。そうは思っていた。
なのだが産まれてきた子供達を見ると
「なんでこんなに可愛いんだ!!!」
よく考えたら赤子のオーガー族なんてあまり見たことがない。
産まれてきた子供達は男女関わらず愛くるしく、俺が本当に父親か? と疑うほど。
なのだが育ち方からしてもオーガー族なのは間違いない。
しかし女が多い。
男は3人。女は9人だった。
オーガー族の女って、珍しいのになんでだ?
と不思議にはなる。
「少し落ち着いたら元いた大陸に帰りたいが」
ウロポロスも待たせているだろう。
ファンクライアの用はちゃんと付き合った。なので女達と子供が落ち着いたら戻りたい。
問題は
「帰してくれるのかな。ファンクライア」




