似たような名前だらけで憶えられない
「……兵士達が通さないからここにいてほしい。そう言われていたのね」
二人の男に話かけるファンクライア。
椅子に座っているのが夫。立ち上がり剣を構えているのが愛人なのだろう。
「そうだ! 兵士達! なにをしている!!! なぜここまで通した!!!」
夫であるガリルヴァンテが叫ぶ。
しかしここの街の男、ガで始まる名前だらけで憶えずらいな。
「ガザリィアランに嵌められたらしいわね。あなたも私も」
「なに!?」
その言葉に愛人であるガンラブトは不敵に微笑み
「それをガザリィアラン様がお伝えしたのですか?」
「いえ。勝手に気付いたわ。否定はされなかったわね」
どういう事だ?
嵌められた? ファンクライアは元々夫の事が不満で飛び出た。それのなにが嵌め……
「……あ。そういうことか」
ガザリィアラン。この領地の重臣。
ターミルも彼の甥の手配で付けられた。
もし、目の前のガンラブトもガザリィアランの部下だとするならば
「そういうことよ。ガンラブトもガザリィアラン様の推薦。まあだからご本人に直接文句も言えなかったんだけど。しかしそれならば疑問もある。私の放置は七年前からよ? 愚弟が結婚したのは二年前。全然年数が合わない」
ガザリィアランの命で、ファンクライアを放置させるよう領主を操り、そして我慢の限界になったファンクライアを出奔させる。
それは仕組まれたこと。
だが年数が合わないだろうというファンクライアの疑問に
「お前が言っていたがミアハルレットという正妃は以前から妃になるために訓練をしていたと言っていた。結婚は二年前でも、その前から傾向があったとかではないか?」
詳しいことは分からんが、あの老人の瞳を見て思ったことは
「あの老人のことは会ったばかりでよくは知らない。だが相当な執念と執着があるのは見て分かる」
その瞳に輝いているのは執着。これを為さないと死んでも死にきれぬ。そんな執着。
「……ど、どういうことだ? ガザリィアラン殿がどうしたというのだ?」
混乱している夫のガリルヴァンテ。
本当に名前が似すぎてて、初めて会う俺は顔と名前がイマイチ一致しないのだが
「……そうね。そうだわ。そもそもは愚弟の相談をしたのが先よ……嫁入り前に、あの子は色々大丈夫か、姉として不安だと。当時まだ幼いとはいえ、本当に女と触れるのが苦手で、男に夢中のように見えたし……」
七年前のファンクライアは15。
弟は確か5つ違うと言っていたから当時10歳か。
まだそういう心配は早い気もするが、皇族とかはまた違うんだろうな。
なにしろ跡継ぎ問題は深刻だろうし。
「ガザリィアラン様はその心配を以前からしておりました。先帝から既にその気はあったのです。このままでは帝国は大混乱になると。そのため私を遣わせました。ファンクライア様を怒らせろと。この帝国の歪みを救うのはファンクライア様の怒りしかない、と」
夫の愛人、ガンラブトの言葉に天を仰ぐファンクライア。
そして混乱している夫のガリルヴァンテ。
「……腹立たしいったらありゃしない。皇帝の姉を手玉にとって、自分の思い描いていたことをやらかそうって? あのバカ、今から殴りにいきたいわね。どうせ仮病でしょ? あいつ」
あのバカは重臣ガザリィアランのことだと思う。
「私は如何様にもしてください。ファンクライア様には無礼ばかりしました。ですが、ガザリィアラン様は帝国のためを思ってやられた事です。どうか御慈悲を」
頭を下げる愛人ガンラブト。
それに大きく溜め息をつくファンクライア。
そして
「……闘技に出ろ。デアグレン。闘技にする。闘技場でガンラブトをぶっ飛ばして、それでこの恥は晴らしたということにしよう。腹立たしい事ばかりだが、とりあえずはそうする。公衆の前で恥をかかせる。それで終わりにする」
皇族は大変だな。それが浮かんだ言葉。
結局ファンクライアは嵌められたというのが答え。それは帝国をよりよくするため。
そのために、ファンクライアが他の男、オーガー族と呼ばれる異種族と結ばれようともそれはそれ。
酷い話だと思うのだが
「ファンクライア。お前が望むならそうしよう。俺は一介の闘技士。帝国のことなど知らんし関係ない。だが、俺の女が困るなら助けてやる。それだけだ」




