ガザリィアランの策略
しゃべり終わるとガザリィアランは倒れ込むように崩れ落ちた。
慌てて兵士達が担ぎ上げる。
もうガザリィアランの体力は残っていない。
だが、その瞳に力は入っている。
「お嬢様、ファンクライア様。この愚臣のお願いで御座います。お嬢様に恥をかかせ続けた大罪は、家臣の私に存分に御座います。更に恥をかかせるかのような真似になり詫びもしようもない。ですが、もうスロイト家を救うにはこれしかありません……」
「……ガザリィアラン。あなたがそこまで頼むならば、私から断ることは出来ません。ですがこのお腹の子は間違いなくそこにいるデアグレン。オーガー族の子供ですよ。オーガーを後継者と指名などすれば大騒ぎになる。それこそ後継者争いが起こりましょう」
それにガザリィアランは大きく頷き
「お嬢様。仰る通りです。理想は人の子を立てないのは当然です。ですが、これ以上お嬢様に恥をかかせる訳にはいきません。そこをどうにかするのは我々家臣の仕事です。お嬢様は好きな男性と子を為してください」
家臣の仕事。
しかし俺から見てももうガザリィアランはもう持たない。
ファンクライアはラクトリアという、彼の甥に何度も相談していたと言っていた。
そしてラクトリアは彼に相談した。
直接ファンクライアがガザリィアランに相談しなかったのは、恐らく「死にそうだから」だったのではないか。
これ以上負担をかけたくない。それに甥であるラクトリアに話せばある程度伝わるだろうと。
だが解決は出来ずファンクライアは出奔した。
そして夫と愛人を糾弾しにきたファンクライアに、死ぬ間際の身体をおして話をしに来たと
「……ファンクライアが出奔する前に、その話は出来なかったのか?」
俺はボソッと呟く。
出奔前ならばオーガー族の子供が、などと揉める必要もなかったろう。
現領主を追放して、ファンクライアを立てる。ファンクライアは一旦離婚させ、それなりの地位の男をあてがえばいい。
今こうやって話ができるならば、当時も出来ただろう。そんな思いが出ていったのだが、ターミルに睨まれる。
「……ガザリィアラン様は、いつ亡くなられてもおかしくない病状。見てもらえばわかるように、このようにお話されているのが奇跡なのです」
まあ今よりも更に悪かったと言うことか。
まあそれなら……
ふと、ファンクライアを見ると顔をしかめている。
「……そうよね。ラクトリア様を介してでも、それは出来たはず……」
ファンクライアはターミルを睨む。
「……ラクトリア様からの推薦だったわね、ターミル」
「…………………」
ターミルが伏せて黙る。
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その光景に
「……ふふふ。いや、流石はファンクライア様が見込んだ男。気付きがいいですな」
ガザリィアランは含み笑いをする。
「ガザリィアランさま!?」
ターミルの叫びを手で制し
「帝国のためです」
「……まさか仮病? 凄いこと考えるのね……」
ファンクライアは天を仰ぎ
「分かったわ。今更なにもない。デアグレン行くわよ。予定通りあのバカどもをぶっ飛ばす。その先の事はそのあと決めるわ」
兵士達が味方になったらしい。
俺達を守るように固まって城の中を進む。
それはいいのだが
「誰もいないな」
まだ廊下ではあるが、誰ともすれ違わない。もう逃げたのか?
ファンクライアは俯いたまま黙っている。
長く広い廊下を抜けた先に
「ファンクライア!!!」
二人の男が待っていた。




