領地を支えた重臣からの願い
ファンクライアのいた街に到着した。
「なんだ。良い街じゃないか」
話を聞いているともっと乱れているのかと思った。現に帝都は街並みから「停滞しているなにか」を感じていたのだ。それは失政なのかどうなのか分からない。
だが民はあれだけ熱狂的に俺達の戦いに殺到した。
この停滞をどうにかしてほしい。そんな願いだったような気がするのだ。
一方でこの街。ヘルパスト・ガーデリングとまではいかないが街中は綺麗で活気に満ち溢れている。
統治は行き届いていると思う。
「政治とは難しいもので。主がだらしない方が上手くいくことがあるのです。愚弟は愚臣を重用し、忠臣を遠ざけたので問題が起こりそうになりました。この領地ではラクトリア様の叔父にあたるガザリィアラン様の威光が輝いています。領主がなにもしなくとも、家臣はカザリィアラン様の威光を恐れながら、敬愛し日々の仕事を誇り高くこなしている。まあだからこそ私の七年は放置されたんですけどね。これで政治の乱れがあれば流石にラクトリア様が無理やりなんとかしてた思いますよ」
ファンクライアの話。
主は男に溺れ、統治する意思はなくとも重臣の威光で物事は上手く進んでいた。
だからこそファンクライアの必死な願いも重要視されなかった。
「ですがカザリィアラン様はもう病床から起き上がれない。亡くなったらどうなるのか。残念ながらラクトリア様では代わりにならない。この領地は乱れるのは間違いない。そのための世直し要素もあるのですが、まあその前に私にこれだけ恥をかかせたあのバカ共に制裁しないと」
そういうことをしっかり言う分まだマシだな。綺麗事ではなく
「むかつくからぶっ飛ばしてくれ」
その程度の話。
俺に帝国の世直しみたいな話をされても困るだけだしな。
その街なのだが
「どうするんだ?」
試合を組まれている雰囲気もない。
どうやって戦いにいくんだ?
「そのまま城に行きますよ。観客は私一人いれば十分ですから」
城に乗り込むと言っても。当たり前だが兵士達に止められる。
ファンクライアとターミルがいると言っても、ファンクライアはかつての面影は残っていないし、ターミルはあくまで侍女。
しかもその用とやらは知れ渡っている。
俺が領主の愛人をぶっ飛ばす。そんなもの兵士が許すわけもない。
だが兵士達もかなり困惑しておりこちらに向かって攻撃しようとはしない。あくまでも囲んでこれ以上進ませまいとしているだけだ。
「デアグレン。遠慮なく進んでください」
ファンクライアが言うのだが
「アホか。兵士を吹き飛ばして進んだりすれば、お前や女達の安全は保証されん。出直せ」
兵士達に
「俺は無理に入るとか望んではおらん。だがファンクライアの怒りは理解してほしい。それこそ話し合うように領主に伝えられないか?」
俺の言葉に、後ろから
「……お嬢様、この老身が故の不努力。お詫びもしようもありません」
兵士の後ろから響く声。
人族の老人の声。
それにファンクライアは背筋を伸ばし立ち上がり、ターミルも敬礼の姿をする。
二人がこれだけ緊張する相手。
先程のファンクライアの話も合わせれば
「……ガザリィアラン様。歩けるまで回復されたのですか……」
ファンクライアの震える声。
だがその老人は兵士達に支えられながら辛うじて立っているにすぎなかった。
「……ラクトリアから何度も相談はされておりました。ラクトリアには話をしたが彼には無理だった。誤解されないでください。ラクトリアが無能だったのではない。彼は彼なりに忠実な努力をした。責められるは我が身です」
老人は息も絶え絶え。
とても立って歩くのは無理だと俺も思う。
だがそれを誰も止めない。
皆は待っているのだ。この老人がなにを語るのか。
「ファンクライア様。屈辱を屈辱として飲み込み、城に帰ってきてください。この身は長くない。話は聞きました。皇帝を諫め、帝国を正したと。我が領地にはあなたが必要です」
「……ガザリィアラン様……それは……」
ファンクライアの帰還。ここまでやっておいて、帰ってこいか。この老人も身勝手だな。そう思ったが
「ガリルヴァンテとガンラブドは追放します。あなたが領主となり、そのお腹の子を後継者として立ててください。他にこのスロイト家を救う手段はありません。ファンクライア様は皇族の血筋。それだけでスロイト家を継ぐ資格はあります。例え父親がなんであっても」
ファンクライアが領地を継げ。
その話にその場の全員が絶句した。




