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化け物

 ファンクライアが一方的に喋っただけでヴェリュビアエットはなにも喋っていない。

 アピールと言うならば、ヴェリュビアエットにもなにか喋らせるべきなのだが


『ぶ ち の め せ』

 手のサインで、ファンクライアとターミルがとっとと試合始めちまえと煽る。


 ファンクライアは音声拡大装置を手放してないし、本気でこのままやっていいらしい。


 バァゼルも鐘に向かってハンマーをおろそうとしている。


 ヴェリュビアエットは顔を真っ赤にしてなにか言っているが歓声に紛れてよく聞こえない。


【カーーーンッッッ!!!】

 響き渡る鐘の音。


 俺はヴェリュビアエットめがけて突進する。


「このオーガーが!!!」

 ヴェリュビアエットは俺目掛け蹴りをはなってくる。


 正直綺麗な蹴りだと思う。動作に無駄がない。

 魅せるための蹴り。


 俺は避けることもせずそのままヴェリュビアエットの蹴りを胸板で受け止める。


【ガスッ!!!】

 打撃音がするが

「なっ!?」

 俺はビクともしない。


 それはそうだ。

「闘技士を舐めるな。バルバレイならば蹴りでも俺を吹き飛ばせていたぞ」


 闘技士は受けるのが仕事。胸板は特に分厚くしている。鍛え上げた筋肉は身を守る。


「この蛮族がぁぁっっ!!!!」

 そのままヴェリュビアエットは裏拳で攻撃をしてくる。

 その動きも美しい。綺麗な裏拳。

 なのだが


【バシンッッッッ!!!】

 俺はそれを食らってもビクともしない。


「闘技士というのはな」

 俺はゆっくりと前進する。


「よ! よるな! 化け物!!!」

 化け物。そうだ。


「何百回と相手から叩きのめされても、当たり前のように立ち上がる化け物なんだよ」

 ヴェリュビアエットを掴む。


 顔面をボコボコにしてやれと言っていたな。

 だが俺の本分は闘技士。それも投げ技で魅せる闘技士だ。


 だから。


「よく目に焼け付けておけ!!! これが!!! これが真の男の技だぁぁぁっっっ!!!!」


 ヴェリュビアエットの両手首を掴んで、背中側に引っ張り上げる。

 ヴェリュビアエットを掴んだ状態で飛び上がり、体重を乗せて顔面から叩きつける技。

 ダブルアーム式フェイス・バスター。


【うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!】

 ヴェリュビアエットを抱えたまま飛び上がった俺に浴びせられる歓声と悲鳴。


 一撃で決める。

 だからこそその一撃は魅せる技。


 跳躍してからの落下による衝撃に、俺の体重も乗る。


 このまま地面に落下すれば当然顔面はヤバい。

 この技は大分前に開発が終わっていた。だが使う機会がなかったのだ。


 闘技士にはやれなかった理由は、この技は両腕を固めているので手を使った受け身を取れない。また顔面から落とすのだが、落とし方にも問題があって、この落とし方だと顔面にぶつからざるを得ないのだ。


 またかなりの威力もあるため、これで決まりかねない。強敵相手のフィニッシュ技としていずれ出そうとは思っていたのだが。


 受け身が取れない欠点も、素人からみれば一緒だろう。


 俺は本気で、こいつの顔面を破壊するつもりで勢いよく


【ガスッッッッッッ!!!!!!!!】

 ダブルアーム式フェイス・バスターをぶち込んだ。



 ヴェリュビアエットは悲鳴をあげることもなく、逆さまの態勢から、ゆっくりと崩れ落ちる。


 言うほど顔面は傷付いていない。

 だが追撃は無用だろう。


 ファンクライアがゆっくりと近づき、ヴェリュビアエットの顔をじっと見る。


 そして、ファンクライアは闘技場の一つの場所を指差し

「愚弟!!!!! その目に刻んだか!? お前の憧れた!!! お前が甘えた男は一撃だ!!! 話にもならん!!! お前は皇帝なんだ!!! 帝国を背負う男だ!!! 甘えなど許されんのだ!!! 逃げずに帝国を背負え!!! 皇帝の責務から逃げるな!!! 分かったか!!!」


 ファンクライアの叫び。

 甘えか。男色にハマった理由は、皇帝の責務から逃げて甘えたかった。そんな理由だったんだろう。


 俺は腕をあげ観客に応える。

【うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!】


「ヴェリュビアエットを責めなくていいぞ!!! 俺が強すぎるだけだからな!!! 強者も! 強者を好む女も歓迎だ!!! いつでも来い!!!」

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