ファンクライアの演説
今回のアピールはファンクライアがメインになる。
なのだが「全員連れてきてください」とファンクライアが言うので、皆で入場する。
全員孕んでいる女達なので、旅団にお願いしてそのまま馬車で入るようにしていた。
闘技場に入ってくる大量の馬車達。
観客はそれにどよめきながらも、ヴェリュビアエットは腕組みをしながら黙って待っている。
ゆっくりと、ファンクライアが馬車から降りて、その指にはめられた指輪をかざす。
まだローブを目深に羽織っているので、その姿は隠されている。
だがその晒された腕。
「……その身の証しは確かにファンクライア様。ですがそのような腕では無かったかと」
ヴェリュビアエットが口を開く。
「今から身を晒せば理解もされよう。幸いこの場には貴族も皇族もいるようだ。私は我が帝国への警告としてこの場に来た。改めて話をしたい」
ファンクライアは闘技場のスタッフから渡された音声拡大装置を受け取り
『親愛なる皆様にお伝えしましょう。私はアーチェウロウタ帝国、栄光の七代目皇帝アヴェンス・グロアリア・デア・アーチェクロウタの姉、ファンクライア・ディルフィン・ロア・スロイト。既に降嫁した身ですが、皇族として、皇帝の姉として。帝国の病を、過ちを正す使命がある。それを伝えに、そして』
ファンクライアはゆっくりとヴェリュビアエットを指差し
『帝国が滅びに向かう元凶となるモノについて話をしたいと思う』
【うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!!】
既にファンクライアがなにを話すのか? はここにも伝わっていた筈だ。だが、実際にそうなのか? というのは聞いて見なければ分からない。
観客達は、実際に行われる皇帝の姉による帝国批判というイベントに興奮している。
『私は15で嫁入りをして、7年間。未だに、一度たりとも夫に抱かれたことがない。それは私だけではない。妾もだ。女性は全員抱かれなかった。性的不遇ならばまだ救いもある。夫はガンラブドという男に夢中になり、女には一切手をつけなかったのだ。そのガンラブドが女に手を出すなと言っていたからな』
【ザワッッッ!!! ザワッッッ!!!】
観客達のざわめき。
『私一人寵愛されないだけならば、まだ救いはあるだろう。子がいれば家は繋がる。だが女とやっていないのだから、当然子は出来ない。そして先頃夫から相談された。後継に養子を入れたいと。そしてその養子というのはガンラブドがとある女と性交して出来た子供だ。ガンラブドは男色もするが、女も抱くからな。普通に隠し子がいた。そいつの子供を立てたいと』
観客達のざわめきがどんどん大きくなっていく。
この話は俺も聞いてなかった。
そしてファンクライアは震える声で
『……私はまだ22だ。子は産めるのだ。当たり前だがすぐに言った。私は子を産めます。抱いてください。私がどうしても嫌だと言うならば妾でも構いません。彼女達もあなたをずっと待っているのですよ?』と。その回答が……』
ファンクライアは声を大きく震わせ
『……ガンラブドと子を為してくれないか? これに私はブチ切れた。私をなんだと思っているのだ。貴族の地位をなんだと思っているのだ。お前が誰を好きだろうが関係ない。だが、恋人を喜ばすために妻を捧げる??? 自分は手を出さないが、恋人には手を出させる??? この時我慢の限界を迎え、私は城から出奔した。その後一度たりとも夫から追っ手が出されなかったのが答えだろう。私の存在など、夫から見ればその程度なのだ。だがな。これは一貴族のお家問題。とある貴族のスキャンダルに過ぎない。帝国全体から見れば大した問題でもない。最悪スロイト家がお家取り潰しになっても帝国は揺るがない』
【ザワッッッ!!! ザワッッッ!!!】
騒ぎは終わらない。
恐らくこの後になにを語られるのか、観客は理解しているのだ。
『だが、この乱れは私スロイト家だけの問題ではない。この男色による乱れは皇族に食い込んでいる。つまりだ。愚弟アヴェンス・グロアリア・デア・アーチェクロウタも同じことをしている。正妃ミアハルレットに一度たりとも寵愛していない!!! 彼女になんの咎があるのだ!!! なぜ愚弟はあの可憐で優しいミアハルレットに手を出さんのだ!!! 理由はお前だ!!! ヴェリュビアエット!!! お前が愚弟を縛っているのは分かっている。幸い愚弟はまだ若い!!! 今からならばミアハルレットへの寵愛を初めても遅すぎないし、子も十分できる!!! だが今を逃せば帝国は!!! 大混乱を巻き起こす!!! もし夫のような決断を愚弟がすれば帝国は大混乱だ!!! 私はキレて城を飛び出たが!!! あの可憐で優しいミアハルレットならば!!! 屈辱を飲み込んで応えるかもしれない!!! だがそれではダメなのだ!!! そんなもの当然後でバレる!!! 皇帝の血が流れない子が、黙って即位となれば!!! 当然後継争いで血は流れる!!! なんとしてもこれを止めねばならない!!!』
ファンクライアの絶叫。
観客達はそのファンクライアの行動一つ一つを引き込まれたかのように見ている。
『私は! 我が身をもって警告と変えるためにここに来た!!! もしも夫がいうように!!! 夫以外の子でもいい! それを立てる! そんなものが通るのならばなにが起こるかだ!!! この私はそこにいる闘技士デアグレンにこちらからお願いをして抱いてもらった。彼の条件はただひとつ。好みになれ。それだけだ』
ファンクライアが手を上げると、各馬車からゆっくりと女達が降りる。
【うわぁぁぁあああああああああっっっ!!!!!!!】
全員明らかにぽっちゃりしているが、お腹も大きくなっている。
オーガー族の子は赤子の時から大きい。
ゴブリン族や人族では、まだ日は経っていなくとも十分お腹が膨らんでくる。
見た目で妊娠しているのがすぐに分かる。
特に最初に妊娠したランは顕著で、もう産まれるのでは? というぐらいに膨らんでいるのだ。
『見ての通り、彼はオーガー族。好みは太った女だ。当然私も彼に合わせた』
そして、そのローブを脱ぎ捨てた。
【うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!】
俺の好みになったファンクライア。
肉が全体につき、柔らかい脂肪に包まれたその身体。俺から見れば魅惑的な外見なのだが、人族から見れば「太っている」らしい。
そして彼女のお腹も膨らんでいる。
そのお腹を愛おしげに撫でながら
『これが帝国の末路だ。帝国を変えねばこうなる。皇族以外の、皇帝の愛娼の好みでこうも変えられてしまいかねない。私は自覚的に、自らの意思でこうなったから恥でもなんでもない。だからこの身をもって警告に変えてきた。これをあのミアハルレットにもさせるつもりなのか? これが私からの警告だ。そしてヴェリュビアエット』
ファンクライアは再びヴェリュビアエットを指差し
『お前が帝国を腐らせる。我がお腹に宿る子の父デアグレンが、お前の腐った性根を正してくれよう。そして…………愚弟!!!!!』
ファンクライアは、観客席の一席を指差し
『お前の目を覚まさせてやる!!! デアグレンが覚まさせてやる!!! よく目に焼き付けておけ!!! これが本物の男だ!!!』
【うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!!】
観客の大歓声を聞きながら、俺はゆっくりとヴェリュビアエットの方に歩き出した。




