皇帝の愛人
闘技場に着いたので、肩に担いだ女を下ろしたら
「このまま連れていってください!!! 私も試合見たい!!!」
というので連れていくことにした。
また途中で幼子が5人ほど楽しそうにしながら着いてきたので一緒に招き入れた。
男もいるがまあよかろう。
「デアグレン!!! いよいよだぞ!!! ここはそこまで人数が入らん分入場料がアホみたいに高くした!!! それなのに満員だ!!! 取り分楽しみにしておけよ!!!」
ハシャぐバァゼル。
「その前に対戦相手について喋れ。俺は誰と戦うんだ」
それにキョトンとした顔をしたバァゼル。
「あれ? 言わなかったか。相手はな……」
「ヴェリュビアエットですわ」
後ろから来たファンクライアとターミル。
「知ってたのか? ファンクライア」
「先程移動中に叫んでるやつがいまして。ヴェリュビアエットが相手とは中々洒落がきいています。顔面ボコボコにして再起不能に追い込んであげてくださいな」
ヴェリュビアエット。
「誰だ? この国の闘技士か? バルバレイよりかは強くは無いのだろう?」
バルバレイはこの大陸最強の闘技士。
ならばそれよりも劣るはず。
だが首を振るバァゼルとファンクライア。
バルバレイより強いのか?
「ヴェリュビアエットというやつはな……」
バァゼルが喋りそうになったのを手で静し、皮肉気に口を曲げたファンクライアは
「愚弟の愛人ですわ」
ファンクライアの弟、今の皇帝は男に夢中で妃と性行為をしない。だから跡継ぎができない。
今は皇帝も若いから騒がれないがそのうち大問題になりそう。
皇帝の姉ファンクライアが嫁いだ夫も同様の趣味で七年一度も手を出されなかった。
もし皇帝が同じ事をすればこの帝国はどうなるか。
それの警告だとファンクライアは言っていた。そこまでは憶えていたのだが
「皇帝の愛娼と戦え? どういうことだ???」
皇帝が寵愛している男。
俺のイメージではナヨナヨした美形の男というイメージだったのだが。もしかして強いのか?
「愚弟もそうですし、夫もそうです。貴族、王族の男色は相手の筋肉美に惚れるのです。ヴェリュビアエットもそうです。筋肉隆々でナルシストの男。自分こそが世界でもっとも美しく強いと自信満々なのです。そしてそういうところに愚弟は惚れている。そいつをボコボコにすることで、弟の目を覚ますのです」
ファンクライアの言葉をつぎ、ターミルが喋り始める。
「そもそも奥様があなたのような人を求めていたのが、このヴェリュビアエットを引きずり出す人材。彼は自信過剰ですが、心から皇帝を愛しています。皇帝の姉をなんとかしたいと言われれば、彼が出てくる。いえ、彼を出すために『強い男』が必要だったのです。皇帝の前で良い格好したいでしょうし」
なんだそりゃ。
まあつまりだ。
「分かりやすくはあるな。ファンクライアは我が身を捧げ帝国の警鐘とし、ヴェリュビアエットはそうではない。帝国は病んでいないと主張するのか」
「そうだ!!! 帝国中が注目しているからな!!!」バァゼル。
それはいいが
「皇帝の姉を妾にして、皇帝の愛人をボコボコにする。俺はそんなことしでかして帝国から出れるのか???」
一人ならば強行突破もできるが、今は孕ませた女達が何人もいる。無理だ。
「そこはお任せください。そのために身の証しを外さなかったのです。あなたの無事は保証します。ヴェリュビアエットをボコボコにして」
ファンクライアは俺の瞳を強く見て
「夫の愛人、ガンラブドもぶちのめしてください」
試合。ヴェリュビアエットは既に入場していた。
筋肉美を見せ付けるためか、上半身は裸。確かに筋肉はついてはいるのだが
(……鍛えるための鍛えだな)
俺は仕事柄筋肉をよく見る。同じ闘技士でも得意とする戦法により筋肉の付き方は変わる。
種族によっても違うが、人族の鍛え方もよく知っている。機能的な筋肉の付き方には見えない。
別に魅せる筋肉が悪いとは思わんが。
俺も上半身を脱ぎ捨て、腰巻き一つの姿で闘技場に乗り込んだ。




