バルバレイとの戦い(上)
身体の大きさは俺の方が大きい。
基本的に闘技は体格の大きいやつが有利。
だが猛者との戦いとなればそんな単純な話で終わらない。
身体が大きければその分隙も多くなる。
猛者の死角からの一撃は、致命傷になりかねないのだ。
俺は慎重に構えながら前進する。
だがバルバレイの動きは
「くっっ!!!」
速い。とにかく速い。
人族にしては身体が大きい方なのに、その速度は見たことが無いような速度。
低い姿勢でつっこんできて、あっというに足をとられる。
片足を両腕で挟むように掴まれ、逃げられないように脇腹あたりまで奥に挟む。
『おお! これはバルバレイ!!! 得意な形になりました!!! これは速攻のドラゴンスクリュー!!!』
『まるでドラゴンが羽ばたくような躍動感で相手を投げ飛ばす技です。巨体のデアグレンにはかなりダメージがいくかと』
実況と解説の声を聞きながら
「いくぞぉぉぉぉっっっっ!!!!」
俺の片足を抱えた状態で、バルバレイは倒れ込む。足をキメられている状態で抵抗すれば関節を捻ってしまう。
俺はその流れのまま思いっきり倒される。
【うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっっっ!!!!!!】
思いっきり地面に叩きつけられる。
そう言えば真剣勝負が多かったせいか、こっちに来てからはあまりダメージを受けていなかったな。
久しぶりのマトモな痛み。
だが、足は捻っていない。
これならばまだ戦える。
俺はすぐに跳ねるように起き上がり、追撃しようとしてきたバルバレイに突進していく。
「くそっっっ!!!」
やはり速い。だが、向こうも突進していたせいか避けきれない。
俺はそのまま抱き付くようにバルバレイの足につかみかかり、そのまま両腕で掴んだ状態で、バルバレイを回転しながら振り回す。
『おお!!! デアグレン!!! すぐに反撃!!! これはなんという技でしょうか!?』
『ジャイアント・スイングですね。オーガー族の闘技士はたまに使いますが……しかし、デアグレンの場合は回転が速い! こんな速い回転初めて見ました!!!』
解説者が興奮している。
そうだ。ジャイアント・スイング自体は凡庸な技。
相手を振り回して、壁にぶつけるだけ。
だが、俺のジャイアント・スイングは
「これがぁぁぁぁぁぁっっっ!!! 本物のジャイアント・スイングじゃああああああああっっっ!!!!!!」
高速回転で勢いをつけ、そのままバルバレイを投げ出す。
バルバレイは手で頭を防御し、身体を丸くして出来るだけ背中で受けようとする。
綺麗な受け身だ。流石訓練しているだけある。
だが、普通の握力、普通の回転でやった訳ではないジャイアント・スイング。バルバレイは地面にあたりながら、そのままスタジアムの壁に叩きつけられる。
「ぐあああああああああああっっっっ!!!」
これは痛いだろう。だがこんな程度で気絶はしないし、勝負は終わらない。バルバレイの受け身は余りにも綺麗だった。
壁に当たったとは言え、あれならばダメージを最小限に出来たはずだ。
ならばと追撃をかける。
俺は走り込むが、バルバレイもすぐに立ち上がり
「くそっっっ!!!」
バルバレイはそのまま後ろに振り向くように身体を回転させ、蹴りを放とうとする。
やはり動きが速い。こんな短時間で後ろ回し蹴りの構えが出来るのか。
「ちっっっっ!!!」
俺は途中で勢いを緩め、間合いをとる
【うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっっっ!!!!!!】
後ろ回し蹴りを放たず、バルバレイと俺はにらみ合うが、そのことに観客は大騒ぎをする。
『ミールサレンさん!!! 凄い試合ですね!!! 試合開始して僅かですが、凄い動きが続いています!!!』
『ええ。闘技士に求められるのはタフであること。この二人は本当にタフです。強烈な技を受けてもすぐに立ち上がり技をかけてきますから……一流同士の戦いですね。私も興奮しています』
バルバレイは一流だ。相当強い。
俺の全力で勝てるかどうか。
俺は向こうの大陸でようやくメイン試合を任されたばかりの男だ。
大陸最強という名を背負ってきたバルバレイとは本来格が違う。
だが、勝負を諦めるつもりもない。
俺の全力を出す。全力を出して無理ならば仕方ない。それだけの話だ。
間合いをとったままバルバレイは少し笑い
「強いな。ラウルブグとやらも試合を見たが強かった。世界は広い。俺もこの試合が終わったら武者修行でもしにいくかな」
武者修行か。
「それもいい。歓迎するぞ」
共に二人は互いに向かって走り込んだ。




