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病んだ帝国

「この大陸でやること?」

 ファンクライアは皇帝の姉。そして俺を使って復讐をすると言っていた。


 その事なのだろうが。


「ええ。私からもしましたし、ターミルからも話はされた通り、私は夫と帝国に復讐を成し遂げます。そのためにはすぐに帰られては困ります。今回のアピール後、共に帝都に来て頂きますから」

 帝都。帝国の首都。


「それは構わない。俺も急いで帰る用事は無いからな」

 それにレムだ。あいつを船に乗せるとまた酔いで痩せる。


 最近また爆食いで体重を戻してきていて好みに近づいてきている。


 それならば無理に急いで帰る必要もない。


「そうか!!! 帝都でも試合を組めるからな!!! 早速その準備に行ってくる!!!」

 準備???


「おい、待て」

「ちゃんとこいよーーー!!!!」

 そのままバァゼルは飛び出して行ったが、日にちも、対戦相手も決めずにあいつなにをしに帝都に行ったんだ。


 一方でファンクライアはバァゼルの動向を完全無視しており、当たり前のように俺に話しかける。


「明日の試合が終われば、私は体重を大幅に増やし始めます。あなたの好みの限度が分からないのでちゃんと止めてくださると嬉しいです」


「……そうか。わかった。楽しみにしている」



 バルバレイ戦。

 話した限りでは、バルバレイは実力のある闘技士。


 こっちの大陸に来てから武器ありの武人やら、素人やら、狼やら。変則的な相手ばかりだった。


 素手同士。闘技士の実力者と真剣勝負するのは恐怖以上に楽しみという感情が湧き出てくる。


 真っ向勝負のぶつかり合いは、普段の闘技以上に緊張し興奮する。


 前日に狼との連戦とかアホじゃないか? と思ったが、俺の身体の動きを実戦で確かめられたのは大きい。


「明日が楽しみだな」



 翌日。


 この街に来てから日は短いのに、すっかり慣れたこのスタジアム。


 俺はゆっくと入場口から入る。

 バルバレイも同じように急がず、一歩一歩踏みしめてくる。


 お互いすでに上半身は裸。

 布をまとっていたら、そこを掴まれ投げ技に持ち込まれやすい。


 闘技士は他の連中と比べ投げ技が得意。

 二人ともそれを警戒しているのだが。


『さあ!!! 皆様!!! 大変にお待たせしました!!! ただ今より!!! この大陸最強の闘技士!!! バルバレイと!!!

 皇帝の姉をも虜にする魔性の巨人!!! 隣の大陸からやってきたデアグレンの勝負を行います!!!!!』

 実況の言葉に

【うおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!】

 会場は大きく盛り上がる。


 ウロポロスが仕切っているせいか、今回は実況はいるし、解説者もちゃんと座っている。


『今回は試合実況を、わたくしランファンが! そして解説には元闘技士の英雄! ミールサレンさんに来て頂いております!!!』


 ミールサレンと呼ばれた男はゆっくりと頭を下げる。


『いよいよ始まりますこの試合!!! まるで世界最強を決めるかのような高揚感もあります。闘技士として戦い続けたミールサレンさんから見て如何でしょうか!?』

 実況者の振りに


『ええ。まずバルバレイは良く知っています。彼は正真正銘の猛者。この大陸最強というのはハッタリでもなんでもありません。今現在、彼に勝てる闘技士を探してこいと言われても、私は困ってしまいます』


『ミールサレンさんは闘技士育成もされていますからね! それではバルバレイがやはり有利と!!!』


 それにミールサレンは首を振り


『昨日の試合を見学しました。はっきり言いますが、このデアグレン。モノが違います。動きがシャープで隙がない。訓練された狼相手に、間合いで圧倒していました。獣相手に間合いを組むというのは難易度が高いのです。本能のままに襲いかかってくる獣は、色々頭で考える人族達の思考を遥かに越えた速度で襲いかかってくる。デアグレンは頭だけではなく、本能でも狼を圧倒していました。正直若い頃の私でも勝てなかったと思いますね……しかも昨日は明らかに手を抜いていましたから』


 間合いか。流石元闘技士。

 間合いの重要性をよく分かっている。


 実況と解説者が話をしている間にゆっくりとファンクライアが現れる。


 ターミルが側にいるがそれ以外はいない。この二人は音声拡大装置を手にして


『親愛なる帝国の民にお話します。この帝国の病みを』


 ファンクライアの発言に実況と解説は黙る。

 これからなにを話すのか。観客達は黙って聞いている。


『皇帝に子が出来ません。正妃もいる、妾もいるのに誰も孕まない。それは皇帝が不具だからではありません。そもそも行為をされていないのです。私のされた仕打ちは皆様にも伝わっている。それをあのバカな弟は! あの可憐なミアハルレットにも味合わせている!!!』


 ミアハルレット。その名前に観客達はざわめく。


『正妃ミアハルレット! 彼女は皇帝の妻になるべく幼少から様々な教養を身につけた偉大な女性です!!! その女性に恥をかかせ! 見てみぬ振りをするこの帝国!!! 男色を恥とは言わぬ!!! 直せとも思わぬ!!! だがな!!! 相手に恥をかかせたまま!!! なんの手助けもしないのは違うだろうが!!! これは皇族の問題だけではない!!! それを止められない貴族も悪い!!! 私も何度も!!! 何度も!!! 仲の良い貴族に相談した!!! だがなにも変わらなかった!!! だから私はこうしたんだ!!! 私が見せ付けてやる!!! 男女の行為の凄まじさを!!! 夫に対する怒りだけではない!!! これは帝国を正すための行為だ!!!』


 ファンクライアは俺を指差し

『この試合で彼が勝てば!!! 私はすぐに彼好みになるように急激に太る!!! 彼の逸物を喜んで咥える肉豚になり果てよう!!! その姿をもって!!! この病みゆく帝国に警告と変えよう!!! バルバレイ!!! この大陸が!!! 帝国が正しいというならば!!! 全力で戦え!!! お前が敗れれば!!! 私はこの大陸を代表する恥となる!!! デアグレンに犯されながら街を歩く豚になろう!!! それを止めたければ勝て!!!』


 ファンクライアの絶叫に


【ウワァァァァアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!】

 観客達からの絶叫。


 アピールとしては十分。ならば


「バルバレイ。そちらのアピールはいるか?」

「……いや、十分だ。戦おう」

 俺たち二人は頷きあい、構えた。


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