女を囲う
勝ち試合ならともかく、負け試合だと街に出ると絡まれることが多い。
金を返せとか、弱いとか。
絡まれて反撃すれば大騒ぎになる。だから俺は負け試合の後はすぐに移動することにしていた。
荷物は最低限だ。
俺はすぐに街を出ようと手続きをしようとするが
「あ! 闘技場で戦ってたオーガーさん!!!」
ゴブリン族の子供だろうか?
小さい体で笑顔。
「ああ、見てたのか?」
「見てた! 強かった! 反則おかしい!!!」
そう言って万歳しながらハシャぎ回る。
するとゴブリン族が集まり
「ウロポロスさんのところの方だろう? お疲れ様でした」
「ウロポロスさんにくれぐれもよろしくお伝えください」
ウロポロスはゴブリン族。
ゴブリン族の中でも大世界一の成功をした男。
性格はともかく、その富を同族にも分け与えているのでかなり慕われている。
「ここはゴブリン族の集落か?」
ゴブリン族はウロポロスを尊敬している。そのウロポロスが使っている俺にも好意的な連中が多い。
「はい。ゴブリン族しかいない酒場もおります。是非お寄りください」
絡まれる心配が無いならば酒を飲みたい。
オーガー族は酒が大好き……なのかは知らんが、俺は酒が大好きだ。
酒場に移動するなり、デカい皮の椅子に案内され、そこに沈みこみように座る。
獣の皮の中になにか柔らかい毛でも詰めているのか、俺の身体を受け止め沈んでいく。
座り心地は良い。
「酒をくれ。金ならある」
そう言って金貨を投げる。
するとすぐにゴブリン族の女二人が俺の側にきて酒をついでくれる。
「おお、すまんな」
オーガー族の美意識としては人間よりもゴブリン族やオーク族、トロール族の方が魅力的に見える。
だがトロール族の女などに殆ど見ないし、オーガー族も俺は5人しか見たことがない。オーク族はそれら二種族よりかは多いが、女の割合は一割程度らしい。
女が多いのはゴブリン族。
だからオーガーはゴブリンの女を囲ったりする。
俺が酒に釣られたのもそういう理由。
二人の胸に金貨を押し付ける。
「あん♡」
「逞しくて素敵♡」
二人の女が寄りかかってきてお酌をしてくれる。
これは最高だな。次の試合は狼の日。まだ時間もある。数日はここにいてもいいかもしれない。
「ウロポロスが来たら言ってくれ。気が変わった。しばらくここにいるとな」
「分かりました。どうかおくつろぎください」
俺はそのまま女二人を抱えて肉を食らい、酒を流し込んでいく。
「足りなくなったら言え。金貨はまだある」
店主に金貨を三枚ほど投げるが
「いえいえ。勿体ないことです。我々の酒は恥ずかしいことに安酒。好きなだけお飲みください。金貨一枚でも十分ですが、三枚お預かりします。飲み放題、食べ放題ということで……」
それはまた気分がいい。
俺は両脇に抱えた女二人に微笑み
「眠るまでのむぞー!」
『はーーーい♡♡♡』
ゴブリン族の女二人と、酔いつぶれて眠るまで飲み明かした。
「……仮にも一流の闘技士が、こんな安酒出す居酒屋で酔いつぶれるな……」
起きると目の前にウロポロス。
「……いい酒だったぞ」
オーガー族は酒に強いのか、飲めば飲むほど元気になる。
目覚めもいつも快調。
ゴブリン族の女二人は半裸の状態で隣に寝ている。
「ここの集落の長がわざわざ来てくれたんだ。お前がここにいるから心配しないでくれと」
「……俺はここが気に入った。次の試合はキチンと仕上げる。それまではここに……」
「来たのはその話だ。ここの集落に止まったのはむしろ有り難い。フェルミエールを勝たせたのは次の試合のためだ。ところがだ! あのヘタレ! あの試合で恐怖を憶えてもうやりたくないと泣くんだ!!! 本当に見込み違いだ!!! ミカエルと比較した儂が悪いんだろうが!!! あいつは痛かろうが怖かろうが!!! 最後まで堂々としていたぞ!!!」
ウロポロスは怒っているが
「俺は闘技の痛みも苦しみも知っている。出たくないと泣くやつを出す愚かさもだ。出たくないなら出さない方がいい」
「そのとおりだ。フェルミエールは使えん。代わりにお前にやってほしい。今回は一切変更なく勝ち試合を約束する」
俺が知りたいことを真っ先に伝えてくる。
こういう機微があるから不満があってもウロポロスから離れられない。
「分かった。いつだ」
「四日後だ。いけるか?」
四日後。
「十分だ。準備する」
「助かる。このまま北上していってビッグマッチも予定しているんだ。頼んだぞ。打合せは明日だ。闘技場で待っている」
明日ということで、俺はこのままゴブリン族の集落で過ごすことにした。
「ちからもちー」
「すごーーーい」
ゴブリン族の子供達に頼まれて岩を持ち上げたりしている。
「カッコいい!」
「素敵です♡」
昨日一緒に飲んだ女二人も一緒に騒いでくれている。
中々居心地がいい。
なにしろ闘技士は一つの街に止まらないし、止まったとしても基本的に酔っ払いに絡まれる。
このゴブリン族の集落はそんなことが無いし、俺を尊重してくれる。
「この岩はここでいいか?」
無駄に岩を持ち上げたわけではない。通行の邪魔だから整備しているのだ。
ゴブリン族の集落は町外れの崖の手前にある。道の整備がそこまでされていないのだ。
「助かります。闘技でお疲れでしょうに……」
「闘技士はつねに鍛えるものだ。他にも力仕事があれば言え」
「……そんな。本当に有り難い限りで……お言葉に甘えてよろしいなら……」
結局昼間は道の整備、家の補修などをしていた。
俺は身体がでかいから家の上まで手が届く。
雨漏りを直したり、割と細かいこともした。
そして夕方にはまた居酒屋。
また当たり前のように昨日の女二人がお酌してくれる。
二人はランとフルと名乗った。
ゴブリン族は基本的には貧しい。だから痩せている者が多い。
しかしこの二人はややふっくらしている。
「お前ら柔らかくていいな」
俺は柔らかい肉が好きなのだ。自分は筋肉の塊。硬い肉だから余計なんだろうな。
「あん♡」
「お腹揉んじゃだめです♡ 恥ずかしい♡」
ふたりは恥ずかしそうに身をよじるが
「俺はこういう肉が好きなんだ。金ならいくらでもやるから太れ」
「太れなんてひどーい♡」
「俺は柔らかい肉が好きなんだ」
そう言って肉をかじり、ランとフルにも肉を与える。
「あん♡ 太っても見捨てないでくださいねー」
「デアグレンさまぁ♡ 私達一緒に移動したーい♡」
移動。
「本当か? 付いてきてくれるなら歓迎するが。馬車も用意するぞ」
「付いていきたいです♡」
「こんな集落出たいでーす♡」
それはそれは。
「長と話はするがな。俺は乗り気だ」
すぐに長を呼んで話し合いをするが
「……その。とても光栄なお話で。本人達も乗り気ならば止める選択肢はありません。ただ……その」
「貴重な労働力を引き抜くのだから金が必要だな。金貨何枚だ」
言いづらそうにしている長にズバズバと交渉。
仮にも生まれ故郷。そこから出て行きたいと言うぐらいだ。多分こき使われているんだろう。
ゴブリン族は男も女もなく肉体労働するからな。
ゴブリン族の女は、割と異種族と婚姻することがある。
人族とはあまり無いらしい(人族も女が多いから)が、女が少ないオーガー族、オーク族、トロール族はゴブリン族の女を求めることがそれなりにある。
とは言えトロール族はオーガー族よりも更にデカい。婚姻と言ってもまともな性行為にならないと聞いている。
オーガー族もデカいが辛うじて行為は可能な体格差。
だからゴブリン族の女が他種族の男に付いて回るのはそんなにおかしい話じゃないし、他のオーガー族でそういうやつを見たこともある。
俺も女を囲って戦うのも悪くない。なにしろウロポロスのおかげで金はある。
「……その。お気を悪くされないことを祈りますが……。なにぶんこの小さな集落。ここから二人いなくなるのです。金貨にすれば100枚ほど……」
金貨一枚あれば贅沢しなければ50日程度は食べていける。
100枚というのは割と大金だが、女二人を囲うのだ。人間の娼婦を買い取るのもその程度かかると聞いた事がある。
「この袋が100枚だ。数えろ」
ウロポロスは毎回100枚単位で一袋にしてくる。俺も数えたりはしていないが、あれほどキッチリしているウロポロスが誤魔化すとは思えない。
長はビックリした顔で数え始めるが
「……ひゃ、ひゃくまいです……あの。本当に……」
「よし、これでお前たち二人は俺のものだ。いっぱい肉を食え。酒を飲んで太れ」
『はーーーい♡♡♡』
俺は二人を両脇に抱きかかえ、また酒を飲みまくった。