お前が弱いのが悪い
二人は武器が無くなると戦意を失ったのか動かなくなった。
まだ全然時間はある。
「武器を拾っていいぞ。かかってこい」
だが二人は固まったまま。まあこれなら仕方あるまい。元々素人に戦わせるのが間違っていたのだ。後はバァゼルに任せよう。
そう思った時
「オーガーーー!!! まだ終わってはおらんぞ!!! 先程は油断したがな!!! 次こそこの槍で貫いてくれよう!!!!」
レゼンアルド。
さっき倒れた後に奥の医療室に連れていかれたらしいが、復活したらしい。
なのだが、今回は鎧とヘルムを外している。
フルフェイスだったから分からなかったのだが
(……想像より老けてるな)
髪はほぼ白髪。
髭も白くなっている。
50代と言っていた。まあ人族の50代はもう初老から老人の域。
それでいながらあれだけ動けた事を賞賛すべきなのだろうな。
「俺は構わんが」
するとレゼンアルドは、二人に向かい
「3人がかりでやるぞ!!! お前等は武器を拾って脇から突っ込め!!! やつの攻撃は正面の儂が受け止める!!! やつは素手だ! 離れて戦えば攻撃は当たらん!!!」
将としてのレゼンアルドは優秀だとバァゼルは言っていた。
実際にそうなのだろう。バァゼルの指示は的確。素人が恐れるのは
「攻撃されること」
それが無い。攻撃は俺が受ける。お前等は脇から離れて戦え。
そう言われれば、「安全なところから攻撃出来る」となり攻撃しやすくなる。
武器を持った3人から離れて戦われれば俺も苦戦は必死。
なのだが
「乗馬抜きでもその槍か?」
長槍を腋に抱えこんでいる。
馬に乗っていないのならば、剣の方が有効だとは思うが、離れて戦うのを徹底するならば確かに槍だ。
槍の突撃歩兵の威力はすさまじい。
勢いで突っ込むので、そこまで訓練もいらない。
3人は武器を構える。
俺も腕を構えて相手の動きを見る。
まず素人二人から動くことは恐らくない。
レゼンアルドの動きに合わせてくるはずだ。
そして素人である以上、その動き始めは恐らく遅れる。
つまり
「いくぞぉぉぉぉっっっ!!!」
レゼンアルドは吼えると同時に突撃してくる。
やはりというか、二人の動きは遅れる。
俺は素人二人は無視してレゼンアルドの方に向かい走り出す。
「なっっっ!!!」
突撃するように扱う長槍は突然の方向転換が難しい。
ほんの少しずらすだけで威力は半減する。
歩兵の槍兵は敵が密集している陣地に突撃をする。先頭の兵が避けても後ろの兵士に当てればいい。
一方で騎馬兵。こちらは馬上から槍を振り下ろすように突き出す。
落下速度もつき、その速さは人間では反応出来ないレベル。
だからこそ馬上の槍兵は恐ろしい。のだが。
既に初老の人族が走って突撃する槍の勢いならば、俺ならば容易に対処できる。
だが、元いた場所にいたままだと、挟み撃ちを食らう恐れはある。
素人の攻撃とは言え、動きを邪魔されれば、槍に貫かれるかもしれない。
そうならないために、レゼンアルドに向かって走り出す。
槍の矛先は俺の動きに合わせブレる。
そのブレた矛先に向かい、思いっきり蹴りをいれる。
【バァァァァンッッッッ!!!】
「ぐおっっっっっ!!!!」
レゼンアルドは槍を腋に抱えていたので、槍が蹴りで弾めば、当然本人も吹き飛ぶ。
体勢が崩れた槍使いははっきり言って恐ろしくない。
俺は思いっきりレゼンアルドの腹を蹴飛ばし、倒れ込ませる。
「ぐぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!」
そして素人二人に向かうが、向こうは、既に足を止めていた。
レゼンアルドへの攻撃でもう戦意は失った。
勝負は終わった。
そこにファンクライアがゆっくりと近付く
「……お、お嬢さま……」
「お嬢様。まだあなたの中で私は小娘か。あの頃に戻りたい。夫が選ばれた時に出奔すればよかった。そんな思いはいくらでもあるが、もう今更だ。私はあのバカに復讐する。私の事は忘れなさい。なにしろ今日から」
ファンクライアは俺を指差し
「こいつの肉便器にされるんたからな。お前が弱いのが悪い。さらばだ」
【うおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!!!!!!】
観客の大歓声の中、ファンクライアに手を引っ張られ俺は退場した。




