斧使いとの戦い方
斧使いとの戦い方。
やったことは無いが頭の中にイメージは出来ている。
相手は巨大な斧を構え、振り下ろしてくる。
それをどう観客に見栄えするように対処するか。
一番簡単なものは避ける事だ。
斧は振りかぶらないと威力が出ない。
そのまま腕の力だけで振ってもいいが、斧の威力とは、その重い刃を振りかぶり、叩きつける事に意味がある。
つまり、避けてしまえば、次の攻撃までにラグが出来てしまう。この間に反撃してしまえばいい。
だがこれでは一方的な戦い方になるし、なによりもジャミルデンの見せ場が無い。
闘技士とはあくまでも互いの良いところを見せ合い観客を興奮させるのが仕事。
前回のようなガチ勝負だとそうはならないが、今回はシナリオが決まっている。
相手が振り下ろししてくる斧。
それ目掛けて
『うおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!!』
顔面目掛けて跳び蹴りを繰り出す。
下手をすれば斧の餌食になるのだが、速度は見定めている。
「くっっっ!!!」
ジャミルデンは思わず仰け反る。
巨体が顔面目掛けて飛び込んでくれば、当然怯む。
まあそういう技から始まると伝えてもいるからな。
そのまま俺の足を少し下げ斧の柄に
【ガンッッッッ!!!】
『うおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!』
柄を蹴って斧を弾いた。
ジャミルデンは素手となる。
俺はそのままジャミルデンを掴もうとするが
「舐めるな!!!」
そのままジャミルデンは低い姿勢のままタックル。
「ぐっっっ!!!」
斧を自在に振り回すには筋力と脚力が必要。
ジャミルデンの腕力は凄まじく、演技抜きで倒れそうになる。
そのまま片膝をつき転倒を防ぐと、ジャミルデンはその隙に斧の場所まで行く。
当然これを見逃すのは不自然過ぎる。
俺は突進し背後から相手の腰を掴み
『うおおおおおおおおおっっっっ!!!』
バック・ドロップ
闘技の華、投げ技の中でもこのバック・ドロップは愛用者が多い。
特に俺のような体格のデカいヤツが放つと見栄えがいいからな。
だが実際の威力は?
というと、マトモに受ければ相当に危ない技。
首へのダメージは種族問わず深刻になる。
そうならないために受け身をする。この受け身のやり方が重要になる。
ここでは背中から受ける。
見た目は瞬間的で、どこから落ちたかなど観客には分からない。
そのため、ダメージを分散できる背中で受け身を取らせる。
俺もそのつもりで力の加減を変えて放つ。
仰け反っているので直接は見えないが、手応えとしては背中だ。
しっかり背中から落ちた。
「ぐぅぅぅぅっっっ!!!!」
ジャミルデンは痛みに喘ぎながら、起き上がりまだ倒れている俺の顔面に思いっきり蹴りを入れる。
「このっっっ!!!」
ここまで打ち合わせ通り進んでいる。
いよいよここからが殴り合い。
顔面を蹴られ、怒り狂った俺が
「くらえぇぇぇぇぇっっっ!!!!」
思いっきり殴り飛ばす。
「ぐぇぇぇええええっっっ!!!!」
ジャミルデンは吹き飛び、倒れ込む。
そこはたまたま斧がある場所。
もちろん狙って殴ったんだが。
ジャミルデンの格を落とさず、俺の勝ちとするにはどうするか?
それは殴り合いに持ち込むこと。
あくまでジャミルデンは斧使い。斧を使えず殴り合いとなれば当然不利と見られる。
とは言え、俺と殴り合えば例え演技をしても見た目は一方的に見えてしまう。何しろ体格が違うからな。
だから斧のすぐ側で戦闘をし、斧を掴んだり、振りかぶったりするようにする。そうすれば「これが決まれば逆転できる!」という見る方の楽しみというか、分かりやすい図式を作り出すことが出来る。
あともう少しで、斧の斬撃が決まれば逆転できたかもしれない。
そんな図式を観客に見せ付けられれば、闘技としては成功。
ガチ勝負ではない、シナリオのある闘技とはこういうもの。
俺はワザと隙を見せるような大きなモーションで殴り始めた。
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闘技場の入退場口。そこから皇族のファンクライアとターミルが試合を見守っていた。
「粗暴で野蛮。オーガー族の特徴は様々聞いていたが、逸物がデカい以外は全部外れていたね。あの男ほど知的で紳士的な人族を探す方が難しいと思うけれど?」
ファンクライアはターミルに扇であおがれながら試合をじっと見ている。
「……あの? 奥様? 逸物って……見られたので???」
「寝てる時に見た。いびきがデカいから分かりやすい。ゴブリン族の女二人抱えて、すげえでけーな、色々と。と思いながら」
皇族の筈なのに汚い言葉を使うファンクライア。
「レムという取り巻きにもしっかり時間を与えていると聞いた。夫も抱くまでに時間が必要だ。それまで我慢してくれ、などと言ってくれていればこうはならなかったんだけど」
ファンクライアは苦笑いをする。
「確かに普段のデアグレン殿は紳士的です。自分には教養が無いと言いながら、だからこそ接し方に節度があります。侍女の私にも一度たりとも失礼な物言いはされていません。しかし、この闘技を見ていると、その……」
会場では殴り合っているデアグレン。
叫びながら相手を殴り、相手も斧を構え振り回したりと、大立ち回りをしている。
会場は大盛り上がりをしているが、ターミルから見れば、野蛮で粗暴な試合。
「騎士団長に聞いたことがある。闘技士には強いやつが沢山いる。兵士として採用者したりはしないのか? と。すると苦笑いをしてこういった。『魅せる戦いと、人を殺す戦いは全くの別物です』と。デアグレンのあの戦いは『粗暴』ではない。観客に伝わりやすい戦いを演じているのだ。あれは魅せる戦い。頭が良くなければ無理だろう」
ファンクライアは腕組みをしたまま
「あの馬鹿に目にモノを見せてやる。その為にもデアグレンのような男は最適だ」




