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皇族のアピール

 俺が囲っている女の中に皇族がいる。

 その噂は僅か五日で街に広まった。


「すごいぞ!!! 客の数がすごい!!! お前に乗って大正解だ!!!」


 バァゼルが興奮しながら迎えてくれる。

「そうか。賭け金と倍率は大丈夫か?」

「そっちの大陸のマネージャーがどうやっているかは知らんが、こっちは賭け金の割合取りだ。倍率は俺には関係ない。ただ、前回のように裏の人間に情報流せばそら色々補填はかかるんだがな。今回はそれもしない。もうボロ儲け確定だよ」


 バァゼルはニコニコしながら

「ジャミルデンはちゃんとやるはずだがな。怪我はしないでくれよ。もう次の試合も決まっているんだ」



 試合のアピール。

 既に会場は満員。外にも人は溢れているらしい。

 この会場でなにが語られるのか。みんなそれを楽しみに下世話な顔をしている。


 皇族のスキャンダルは庶民の最大の娯楽。

 それがここで見られるのかもしれない。


 そんな期待の中ゆっくりと、フードに包まれた女性が入場してくる。


 あれ以来俺は侍女のターミルを通してしか会話をしておらず、ファンクライアとは最初の時以外の印象はない。


 なにを言うのだろうと真ん中で待っていると、それに付き添うようにランとフル、レムの3人がこの前使っていた笛を持って入ってくる。


 笛? また同じようなネタをやるのか?

 と思っていると、ファンクライアはゆっくりと、そのフードをとる。


『ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおっっっ』

 唸るような歓声。

 本当にそうなのか? というどよめきに近い。


『……ファンクライア・ディルフィン・ロア・スロイトです。このような形で皆の前に顔を出すのは強く不本意なのですが』


 侍女のターミルが音声拡大装置を持ち、小声のファンクライアの声を増幅させている。


 会場からは大きなどよめき。これからなにを語られるのか。


『こうなった理由から言いますと、まず私の夫であるガリルヴァンテがあまりにも粗【ピーーーーー!!!】な上に早【ピーーーーー!!!】で、マトモに【ピーーーーー!!!】が成立しないのはおろか、こいつ【ピーーーーー!!!】【ピーーーーー!!!】で、いい加減にしろよこの【ピーーーーー!!!!!】となっておりまして』


 前と同じようなネタ。

 だがこれは多分下品だから以上に、普通に不敬だからだと思う。


 前回も来ていた観客達は前回のレムのアピールでこのネタを知っていたため、既に手を叩き大笑いをしている。

 皇族の不敬ネタは影でヒソヒソ喋って楽しむもの。


 このように大掛かりな場で皆で笑いあいながらやるものでは本来ない。


 なのだが

『また弟の【ピーーーーー!!!】に言っても【ピーーーーー!!!】そらあいつも粗【ピーーーーー!!!】だから仕方ないにしても、なんでよりによって囲ってるのが男【ピーーーーー!!!】【ピーーーーー!!!】ケツに【ピーーーーー!!!】詰め込んだって子供はできねーぐらい教育係りから習わなかったのかアホンダラ。皇族根絶やしにするつもりか。ぐらいの不満がありまして』


 笛の音で隠れているが、これは明らかな皇帝批判。

 しかも「あいつも男を囲っている」と聞こえる。


 俺はこの帝国に来たばかりで実際にどうなのかは分からない。


 だが観客達はそのあたりを正確に読み取っているのか、絶叫し吼えまくっている。

「こいつ、いいやがった」みたいな感覚だと思う。


 本来皇族への公然な批判は逮捕案件。

 なのだが言ってるのがその皇族の姉なのだ。

 それと、肝心なところは笛で隠されている。


 このようなやり方は吟遊詩人が王政批判の時によくやると聞く。


 隠語などで肝心なところは分からないようにする。

 一見は王家を讃える歌に見えるが、実際は批判の歌など。


 こういう婉曲的な批判は理解をするのに教養がいる。


 しかしこれは単に笛で隠しているだけで、伝わってしまう。

 これ本当に大丈夫なのか? と流石の俺も心配になってきたのだが。


『そこで私は決心しました。もう我慢の限界。夫が心を入れ替えないのならば、そこにいる粗暴で汚らわしいオーガーの闘士、デアグレンに【ピーーーーー!!!】【ピーーーーー!!!】してもらいます。粗暴と言いましたが、彼は実際はとても誠実な闘技士でまだ手は出されていません。ただ、本当に粗暴だなー、と思うのは、こいつの取り巻き』

 そう言ってランとフル、レムを指差し

『【ピーーーーー!!! ピーーーーー!!!】【ピーーーーー!!!】【ピーーーーー!!!】流石に見ていた私も呆れ果てまして。何発【ピーーーーー!!!】【ピーーーーー!!!】多分一度抱かれれば私も壊れるとは思いますが、まあ全部あの粗【ピーーーーー!!!】が悪い』


 会場はドッカンドッカン受けてはいるのだが、よく考えたらこのアピールは単に皇族のスキャンダルの話であって、闘技のアピールにはなっていない気がするんだが。


『まあそう言うことです。後はターミルよろしく』

 そう言って侍女のターミルに音声拡大装置が渡される。


 そして

『奥様の仰られていることは全て事実です。私はこの目で見ておりました。その上でなぜ彼の元に来たのか。それについてお話します』


 ターミルが闘技のアピールに繋げてくれるのか? と思って見守っていると


『まあ分かりやすく言うとデ【ピーーーーー!!!】以外には理由が無くてですね。だってどうせやるなら【ピーーーーー!!!】でしょ? と奥様と話をしてこうなりました。とりあえず私がお試しで味わったのですが、【ピーーーーー!!!】【ピーーーーー!!!】【ピーーーーー!!!】』

 味わったって、俺はターミルに手など出していないのだが


『まあそんな訳でして。私達は強い男についていきます。彼が敗れれば強い相手に乗り換える。その程度の関係に過ぎない。まあその間に【ピーーーーー!!!】壊されたあげく【ピーーーーー!!!】してそうですけどね』


 最後下品な話にして、アピールは終了、らしい。


 いやこれでいいのか俺も判断に困るが、観客達は盛り上がっているし、バァゼルもニコニコしている。


 もう試合していいらしい。


 ジャミルデンは既に構えている。

 まあアピール長かったからな。これ以上引き伸ばしてもしかたあるまい。


 俺も構え、ジャミルデンに突撃した。

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