次の試合の打ち合わせ
皇帝の姉を囲うことになった。
と言ってもだ。仮にも王族。
「ファンクライア様のお世話をしております、侍女のターミルです。なにかあれば全て私にお伝えください」
俺の泊まっている宿に来ることになったのだが、侍女も付いてきた。
「ああ。試合前のアピール等の打ち合わせの時にまた声をかける」
「はい。様々な制約もあります。その時は私も立ち会いますので」
トロール族のマネージャーをやっていたバァゼルが宿に来て交渉。
次の試合の件。
「次はお前の格を上げる戦いで、賭もお前に乗る。だが相手は問題だ。なにしろ斧使いでな」
「斧か。闘技士としては珍しい。俺の大陸では見たことが無かったな」
剣を使う闘技士はそれなりにいた。またハンマーや弓というのもいた。
だが斧はいなかった。
理由は「演技しにくい」というのがある。
剣も難しいのだが、斧は基本的には振り下ろす動作が基本。
剣はまだ払ったり、受けたり、斬撃以外の動作も観客には伝わる。
だが、斧を使っての防御や振り下ろす以外の動作は観客に対して説得力がない。
そして、斧を普通に振り下ろされれば、鎧つけてようが大怪我は免れない。
「こっちでも珍しいよ。またこいつがよくシナリオ崩しをしでかすやつでな。だからこそ、割と倍率が拮抗するんだ。あんたさえ良ければこいつと組ませたい」
「無論構わん。そいつと打ち合わせはいつだ?」
「明日。試合は五日後」
それに頷き
「それで構わん。ただ試合まで短いがアピールは大丈夫か? 一応俺もアピールは考えている。宣伝に使ってくれ」
「ターミル。五日後に試合がある。そのアピールにファンクライアさんを使いたいのだが」
「ええ。そうされてください。奥様の復讐は大掛かりにされないと意味が無いのです。それで奥様なのですが、あなたから手を出されないでください。あくまでも奥様からされます。あなたが見た目とは全く違い紳士的なのは理解しています。その上でのお願いです」
「俺は教育を全く受けてないものでな。皇族の取り扱いなど知らん。そうしてもらった方がいい。ただ、あくまでも闘技のアピール。盛り上がるようにはお願いしたいが」
それにターミルは笑顔になり
「大丈夫ですわ。皇帝の姉が隣の大陸の闘技士に夢中になったなんて、闘技に来るような庶民から見たら最高の娯楽ですから」
次の対戦相手との打ち合わせ。
斧使いのジャミルデン。
「俺の斧に当たれば、まあ諦めてくれ。俺は決められた通りにやるからよ」
軽薄な感じの人族の男。
試合の取り決めを破ったこともあると聞いた。この大きな斧を想定外の動きで振られればそれは恐ろしくもなるだろう。
だが
「闘技において多少の怪我は付き物だ。それを理解せずに上がるやつはいない」
恐らくだが、この大きな斧にビビって相手は動きがおかしくなるのでは無いだろうか。
だが、俺は剣などに十分慣れている。
武器を恐れていては闘技士など不可能。
ジャミルデンとの技の取り決めを見るが、気になる事はある。
「打撃技中心だが、これでいいのか?」
闘技の華は投げ技。
これは見た目が派手だし、ダメージも受け身さえ取れればそこまででもない。
しかし打撃技は見た目地味な割に、ダメージが溜まっていく。
一度俺は互いに殴り合う試合をやったことがある。
あれは、盛り上がったのだが、体格の大きい同士が身体を大きく揺らして殴り合うからこそ盛り上がったわけで、斧使いに同じことをやって盛り上がるか?
と言われると違う気もする。
「投げられたら斧が危ないだろうが」
手を離せばよかろうに
「まあいいだろう。良い試合をやろう」
試合前の訓練。
ラン、フル、レムが着いてくる。
俺は街の中にある有料の訓練所というところに行った。
ここには身体を鍛えるための道具が置いてある。
噂を聞いてきたのだが
「これか」
腕と足を鍛える為の重り。
通常では手には入らないぐらい重い物質で出来た塊。
今回は打撃技中心。そうなると腕と足の張りを強くしたくなったのだ。
「これどれだけ重いんですかー???」
レムはその塊を持とうとするが持ち上がらない。
「お前の身体よりも重いと思うな。これぐらい太れ」
「はーーーい」
ゆっくりとその重しを持ち上げていく。
うむ。これは重い。
「もちあがったー」
「すごーーーい♡」
ランとフルの歓声に
「一個では足りんな。両腕に持って練習だ」
両腕に重りを付けて、正拳を放つ。
「はっっっ!!!」
声を出してひたすら続ける。
早くも汗だくになっていくのだが。
「お拭きしまーす♡」
「ご主人様様の匂いだーーーいすき♡♡♡」
ランとフルが拭いてくれ、レムも水などを用意してくれている。
「……これでいい。 レム、水を頼む」
「どうぞー♡」
中々いい訓練が出来たとおもう。明日もここだな。
「腹が減った。飯を食いにいくぞ」
『わーーーい!!!』
3人楽しそうにハシャいでいた。




