女からの依頼
今回の報酬はかなりの金額になった。
バァゼルはすぐに契約書を作り今回の報酬を決めた。
観客料と賭け金がかなりの額になり、裏社会への補填を入れても相当な黒字になったらしい。
俺には500金貨。
とりあえず祝勝会でもやろう。
宿に戻り荷物を置くと
「おい、100金貨で店を貸し切れるところあるか?」
高級宿は料理店などとも繋がっている。
俺のオーダーにすぐ店を紹介された。
こういう貸切は事前に予約するものなのだが、一部の店は突然のオーダーにも応じる。
その代わり高い。
本来店を開いたときの総売上の二倍程度は取られる。
俺の提示した100金貨は相場より相当高い。
なので紹介された店もかなりしっかりした店だった。
問題は
『いらっしゃいませーーー♡♡♡』
女。
ここは女店員を侍らせて楽しむ店のようだった。
店には女の店員が5人ほどいる。
店は貸切だから、この5人は俺の接客だけやると。
「まあ、たまにはこういうのもいいだろう。レム、お前は俺の世話とか良いからとにかく食え。ラン、フル。好きなだけ酒を飲んで、眠くなったら寝ていいぞ」
『えーーーー。ご主人様と一緒にベタベタしまーーーす』
ランとフル。
「それもいい。好きに過ごせ」
「わーーー!!! すごーーい!!!」
「お酒つよーーーい!!!」
女達の嬌声。
貸切で食い放題、飲み放題。
レムの飯の量と、俺の酒の量は半端なく、来る先から空にしていく。
「おい! 貸切の金が足りなくなったら追加してもいいからな! どんどん酒と飯を持って来い!!!」
そう言いながら近くに寄ってくる女達に金貨を押し付ける。
「あん♡」
「金貨嬉しい♡」
「くーーー♡」
「くーーー♡」
ランとフルは結局速攻で寝た。
ここの酒強いんだよな。恐らく強い酒でとっとと酔いつぶして金を浮かそうという考えだったと思うんだが。
「お肉お代わりですーー!!!」
レムも元気いっぱいに食いまくっている。
「お客様、とても紳士的で優しいですね。 この三方が慕う理由も分かります」
この店の女がニコニコしながら言う。
「紳士的? 俺はまともに教育も受けたこともない男でな。紳士の要素はないぞ」
「立ち振る舞いに人を傷付ける動作がありません。どれも他人のことを思って行動されているように思えます」
その店員はニコニコしたまま
「もしお客様が良ければ、ご紹介したいご婦人がいるのですが」
ご紹介したいご婦人。
その言葉に大きな違和感を覚える。
「ご婦人? 娼婦を勧めるのならば話の流れからして分かるが、敢えて婦人と限定するのか?」
「はい。実は私はそのご婦人からある依頼を受けていまして。その依頼条件に当てはまる方を探していました。そして今日の試合と、このお店での立ち振る舞いからして、あなた様なら間違いないと」
話がよく分からないが
「まあ会う分には構わんぞ。次の試合までは暇だからな」
「はい! 明日お伺いさせて頂きます!」
酒の席の戯言程度に思っていたが、翌日本当にその女は来た。
もう一人横にフードを深く被った女がいる。この女が依頼人だろうか?
高級感宿には来客室が必ずある。
そこを借りて二人を通すと
「……見た目、体格は完璧です。後は信頼出来るかですが」
フードの女はくぐもった声で言う。
「信頼が、というならば取りあえず話ぐらいはしてほしいがな。全てを語れなくとも、なにを依頼したいのかぐらいは語れるだろう」
「それでは私から代わりにお話させて頂きます。この方の素性はまだ明かせませんが、高貴な方とお思いください。そしてこの方は夫から酷い扱いをされております。そしてその復讐として、ある演技をされようとしています。簡単に言うと、粗暴な男に強姦され快楽堕ちをして、その男の奴隷として言いなりになってしまっている。そんな演技を成り立たせるためには、本当に粗暴な男では困るのです。実際に手を出されては困る。また傷つけられても困ります」
「なるほどな。確かにそういう演技をしたいならば闘技士である俺は打ってつけだろう。俺もそうだが、闘技士は実際粗暴なだけでは試合は出来ん。ある程度は演技が出来ないと無理なのだ。だが、その夫とやらが恨んで刺客を送ってきたり、抗議をされに来ても困る。俺はあくまでも闘技士。闘技に集中するのが仕事なのでな」
「……なるほど。頭は回るようですね。闘技士にはアピールが必要と聞いています。今回もガーデリングコンテスト準優勝の娘をアピールに使い盛り上げたと。私はきっとそのアピールに使えます。夫からの嫌がらせや刺客? そのようなモノが送り込まれるようならば、そもそもこんな事を考えません。そちらの心配はされないでください」
「……あなたはこの街で有名なのか。あなたを囲っているだけで、アピールになると」
「ええ。アピールになります。私の名は」
ゆっくりとフードを被った女は立ち上がり
「アーチェウロウタ帝国、当代の七代目となる皇帝アヴェンス・グロアリア・デア・アーチェクロウタの姉、ファンクライア・ディルフィン・ロア・スロイト。嫁入りをしているため苗字は変わっていますが、皇帝の姉です。嫁入りをした貴族の夫は男色にハマっており、私には一切手を付けずに、未だに子がおりません。男色は構わないが、子を為すのは貴族の仕事。嫌でもいいからやってくれと言ってもやりません。
既に婚姻から七年経って我慢の限界。単なる浮気ではこの屈辱は晴れません。あの男には徹底的に恥をかいてもらいます」
フードを取ったその人族の女は、確かに王族と聞いても納得するような、威厳のある出で立ち。
「……恥? まあやらせたい事はわかった。俺はオーガー族。好みの女性は人族から見ればやや太り気味とも呼べるぐらいの体格だ。積極的にあなたに襲いかかるような事はない。アピールに繋がるならば喜んでやろう。だがな、皇族ともなれば色々マズくないか? 逮捕されても困るぞ」
「ご安心ください。それはない。あのバカな弟にそのような心があるならば、こんなことにはなっていませんので」




