美人コンテスト
目的地の帝国までは馬車で10日ほど。
「前は馬車で平気で飯食ってただろうが」
「なんか苦手になりそうですー」
港町で食わせて多少肉は付いたが、船に乗る前から考えると全然だ。
移動中に太らせようとしたのだが、馬車に乗ってる最中はあまり食おうとしなくなった。
あの揺れがトラウマになってしまったようだ。
これだと俺も困る。
「次の街で何日か滞在しよう。食え。太れ」
その街は帝国の一番端の街。
この帝国は隣国との関係も良いらしく、国境の境の街だと言うのにノンビリとした雰囲気が漂っている。
しかしだ。
「すげーーーーデカいな」
「おっきい街ですねーーー」
国境の街。
この街は大きな崖に挟まれて作られている。
崖と崖の間に城壁があり、ここまでなら要塞というか、国境を守る街としての役割として理解はできる。
問題はこの街、デカすぎる。
城壁の奥に街もある。そこが本来の街だったのだろう。ところがなんだか知らないが、城壁の手前側にも巨大な街が出来ているのだ。
「ここヘルパスト・ガーデリングはこの大陸最大の都市です。帝国の首都よりも大きい。理由はですね、実質三つの国の都市が混ざり合って出来上がった街だからです」
馬車の人間が教えてくれる。
「三つ? 二つなら分かるが」
城壁の手前と、その奥で国が違うと言われると理解はする。だが三つとは?
「城壁から見て北側がアーチェウロウタ帝国です。そして今私達が立っている南側。こちらはウラバルド王国。もう一つは東側、あの大きな塔があるあたり。あそこから東はリブウド公国という、小国の領地になっています。元々はここはリブウド公国の領地だったのです。アーチェウロウタ帝国の南進で、ヘルパスト・ガーデリングを失いました。ところが、小国にも関わらず猛将に率いられたリブウド公国は同盟国のウラバルド王国と連合して何度も奪回戦を繰り広げ、最終的に停戦。当時は王国だったリブウドは帝国配下になることで戦争は集結。ただ公国とはなったが独立は守られた。その結果がこれです」
なるほど。まあ色んな経緯があったのかーぐらいしか分からんが。
「これだけデカい街なら飯も旨いだろう。お前ら、食いまくるぞ」
『はーーーい♡♡♡』
「ガーデリングコンテスト???」
取りあえず宿を決め、料理屋を決めようと街の案内所に行くと、突然
「そこのお嬢さん! ガーデリングコンテストの出場者でしょう!? ちゃんと受付は終わってますか!?」
とレムに向かって声をかけられたのだ。
「済まないが我々は旅の者だ。ガーデリングコンテストと言われても分からん」
「ああ、失礼。今この街では年に一回のコンテストが開かれるのです。街の代表どころか大陸の代表を決めるコンテスト。お嬢さんはその出場者かな? と」
「何のコンテストです?」
レムの問いかけに
「美人コンテストです」
「まあ大陸一の美人を決めるコンテストに出るような女を侍らせているというだけで箔がつくから俺としては良いが」
攫われるリスクは上がるかもしれないが、まあ今でも酷いからな。それにどうせこのあと太らせる。
今は人族的には丁度いい体格なのだろう。
だったら出てもらうのもいい。
「ラン、フル。衣装とか手伝ってやってやれ」
『はーーい♡』
「ごしゅじんさまー。私は別に出なくてもー……」
「どうせこの後もっと肉を付けてもらう。今が人族にとっての理想型らしいからな。今見てもらえ」
レムは人族の中でゴミ溜めのような環境で、這いつくばるように生きてきた。
そんな女が、例え予選落ちだろうがこういうコンテストに出るというのはなにか愉快な気がする。
俺も生まれて両親に殺されかけ逃げ延びた。
最底辺の環境から這い上がった。
俺には闘技士の誇りがある。
レムにもそういうものがあればいい。
そんなつもりで出すことにしたのだが、これがまた想定外すぎた。
ランとフルはレムの為に本気で衣装選びをし、元々頭がまわり器用なレムは、周りを良く観察し、周りに合わせた振る舞いをするようにしていた。
予選はあっさり勝ち残り本戦へ。
「本戦は明日だそうです」
「……滅茶苦茶早いな……」
予選なのだが、1000人ぐらいが代わる代わる舞台に立ち、数秒で合否が出る。
あんなので分かるのか?
というレベルの審査だった。
「まあ箔が付けばいい。気軽に行け」
「はい! 明日終わったらいーーーーっぱいご飯食べます!!!」
翌日。
街の真ん中にあるスタジアムでコンテストは行われた。
予選を勝ち抜いた百人ぐらいの女性がいるが
「レムは堂々としているな」
なんというか、他の女性達は緊張しているような仕草をしているのに、レムは欠伸をしたり、しゃがんで食べ物の絵を指で書いたりしている。
堂々というか適当というか。
100人から10人選ばれる。
アピールによって審査が決まるらしい。
他の女性達は喋ったり躍ったりしているが、レムはどうするのだろう? そう思って見ていると
「私は踊り子ニフェルアリュアさんの踊りを見て感銘を受けました! 拙いですがここで舞います!!!」
そう言うなり、レムは踊りだした。
音楽などない。
ニフェルアリュアも伴奏なく踊り周りを惹きつけていた。
レムの踊りは確かに拙い。
だが、とても楽しそうに、身体いっぱいを使って舞っていた。
周りはその光景に絶句している。
どんな評価かは知らない。
だがレムは踊り終わり
「ありがとうございました!」
笑顔でアピールを終わった。
「あれはいいな。今度前座で舞ってもらおうか」
「そんな、ご主人様の前座には拙すぎて恥ずかしいです。あれは『どうせ落ちるし』という感じだからやったんですよー」
レムは少し照れながら言うが
「笑顔で踊っていたのが良かった。俺は笑いながらなにかをするのが好きだ。お前が楽しそうに食うのも好きだし、笑顔で舞うのもいい。それだけだ」
「……あ、ありがとうございます! ご主人様に着いてきて幸せです!!!」
俺達の中で話は終わったので帰ろうとしたら、役員に止められた。
「ちゃんと会場を見てください!!! レムさんは勝ち残っています!!! でてください!!!」
大歓声の中レムが最後に出てくる。
勝ち残ったのは10人。
もうこの段階で十分過ぎるのだが
『それでは、勝ち残った皆様から最後のアピールを!!!』
またアピールやるのか。
同じネタをやるわけにもいかないだろう。
他の女性はやはり違うアピールをしている。
レムの番。レムは首を傾げ
「あーーー。唄をうたいまーす」
唄。
レムの唄など聴いたことがない。
なにを唄うつもりだ? そう思っていたら
『Ah~~~♪♪♪』
その声に思わず仰け反る。この唄、まさか
『美しきこの都』
『誇らしきこの都』
『この都で繰り広げられる雄々しき戦い』
ミカエルの合唱団が歌った曲。レムはあれを丸暗記していたらしい。
しかしあれは何人もの合唱だ。レム一人で唄えるものでは本来無い。
それを一人で唄えるように調整して略している。
(……こいつ、どれだけ才能あるんだ?)
たまたま拾っただけの女。
だが国認定の踊り子の動きを丸暗記し、合唱団の唄も一度聴けば憶える。
知能が高いというよりも……
「以上です! ありがとうございました!」
レムは歌い終わり笑顔で頭を下げた。
審査結果。
まず三位が発表になった。
これに三位の女性が激昂。
「なんで!!!??? カーレスハイムの下は構わない!!! なんでこんなどこの誰とも分からない女の下なの!!!???」
レムを指して怒鳴っている。
するとレムは笑顔になって
『その服、肌面積多過ぎませんか。布が足りねーなら分けてやるぞ』
噴き出す。
これ、合唱団がニフェルアリュアを馬鹿にしたときに歌ったやつじゃないか。
「はあ!? なんだお前!?」
『ド田舎のクソブスは早く故郷の牛小屋にかえれ~~~♪』
なんでこんなのをちゃんと憶えてるんだ。
そのやりとりにスタジアムは
『うおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!!!!』
大騒ぎ。滅茶苦茶盛り上がってる。
そしてレムは
『優勝なんて興味ないが、お前より上は愉快痛快♪』
なんか新曲まで生み出してる。
本当に器用だな、こいつ。
結局コンテストはこの混乱もあったのか、レムは二位。
「箔付けには十分だな」
「良かったです!」
ハシャぐレムと一緒にスタジアムを出て
「じゃあ食うぞ! 太れ!」
「はーーーい!!!♡♡♡♡♡」