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変わり者の船長

 船員室にとりあえず向かう。

 船長室に行くと言っても場所が分からんからな。


 船員室は船に乗り込む際に必ず案内される。なにかあればここに行けと。


 今回はなにかあったので来た。

「乗客のデアグレンだ。船長室はどこだ?」

 俺の声に一斉に振り向く船員達。


 俺が乗り込む前から既にざわついていた感が漂っていた。


 なにか揉めていたというのが分かる。


「……ほら! やっぱり!」

「……すぐに言わないと……」


 小声で言ってる連中の声は俺の耳には届く。


「俺が乗り込んで来るのは分かっていたようだな。レムを……いつも吐いてたやつを返しにもらいに来た。船長室にいるんだろう? 教えろ」


 船員達は顔を見合わせ


「……そ、その。船は団結が全てだ。長がいなくなれば船は沈む」

「あんたの怒りは分かるが、どうか……」


 怒る前から船長の命乞いか。

 まあ、そこまで低姿勢ならば妥協することもできる。


「航海優先なのは分かった。レムが無事ならば問題ない。案内しろ」


 船員達はいざという時に俺を止めるためか10人単位でついて来る。


 船員というのは、重い荷物を運んだりロープを引っ張りあげたりと、筋肉がないとやってられない職業。


 数人で取り押さえられれば俺でも動けなくなるかもしれない。


 案内された船長室。

 ドアを開く前に


『おええええええっっっ!!!!!!!』

『きたねえぇぇぇぇ!!!! だから吐くんじゃねーよーーーー!!!!!! 書類が汚れるわーーーーー!!!!!』


 二人の声。

 なのだが想像していたのとは全く違う声色に首を傾げる。


「……二人ともおんなの声?」

「……一人はレムですけど……?」


 船長室に案内されたと思ったのだが。だが一人はレムなのは間違いない。


 俺は扉を開くと、口を抑えて吐いているレムと、見た目は線の細い男性に見える人族。

 だが、露出した胸が女であることを主張している。


「はあ!? なに勝手にあけとんのじゃ!!! 鍵しめてただろ!!!」

 鍵。


 まあ確かに閉まっていたが、鍵など俺の腕力があれば簡単に壊せる。


「そこの……吐いてる女の持ち主だ。勝手に連れ去るな」


「……ああ。なんだ、もう来たのか。あまりにも好みだからチョッカイ出そうとしたら、こいつ吐いてばかりだから船長室に呼んだんだけど」


「……あなた船長なの……?」

 ランが不思議そうにいう。


 確かに女の船長なんて見たことないな。

「ああ。この方が船長、ヴァリアヴェンド様だ。……まあ性別はああだし、趣味趣向も壊滅的なんだが、船長としては間違いのない腕をしている」

 船員からのフォロー。

 慕われているのは分かったが


「特になにもされてないようだから不問にする。レムを返せ」

 なにもされていないというか吐いてる分迷惑かけた側な気さえするが


「えーーー。こんな美少女久しぶりに見たんだよ。貸してよ。だってあんた女何人も連れてんだろ?」


 こいつ女だよな? という疑問と同時に、そう言えばあのアン・ミカエルも女好きだったのを思い出した。


「こんなゲロまみれで貸されても困るだけだろうが。連れて帰るぞ」



 結局抵抗されなかったので、吐瀉物まみれのレムを連れて水浴び場に来た。

「まだ吐くものがあったことにビックリだ」


「食べたものが全部でまーーす。船はもうこりごりでーーーす」

 しかしこれでは帰れないだろう。まあ向こうに着いてから考えるが。


「とりあえず綺麗にしろ。服は……まあもう部屋から出ないから乾くまで裸でもいいが」


「そうしまーーーす」


 しかしこれが人族にとっての理想型の身体か。


「早く降りてまたいっぱい飯を食え。それが一番いい」

「はい!!! 陸が待ち遠しいです!!!」



「ご迷惑おかけしまして」

「なに、レムが吐いてただけだ。迷惑はお互い様だろう」


 船員から謝られるが、まああの船長も変わり者らしかったし、あんまり関わりたくもない。


「俺から言わせれば、人族の方が粗暴なんだがなぁ」



 港町。


 ウロポロスがいるのはもっと先の帝国だ。

 だがその前にレムの体調、というか太らせることにした。


 船で攫われそうになり、陸に降りても凄い声をかけられたのだ。


 とりあえず今のレムの体格はマズい。

 肉を付けさせる。


 ということで、その街の一番良い宿に泊まり、3人抱えて肉と酒と果実。


「レムは食え。どんどん食え」

「いただきまーーーーす!!! 陸だーー!!! 肉だーーーー!!!!!」

 ガツガツと食っていくレム。


 ランとフルはそれに苦笑いをするが


「デアグレンさまー♡ 私達はお酒飲みながら楽しくすごしましょー♡♡♡」

「あん♡♡♡ いっぱい揉みながら食べてください♡♡♡」


 ランとフルは本当に肉が柔らかくなった。

 デブとかそういう体格では全然ない。


 ただ、全体の肉が柔らかい。

 割とこの二人はそれを意識してあまり運動しないようにしている。


 柔らかい肉が気にいられているのを理解して、俺に媚びるようにその肉を大事にする。

 本当にそう言う一個一個の行動が愛おしい。


「お前ら本当に最高だな。今日は徹夜で飲み続けるぞ」

『はーーーい♡♡♡』


 俺は酒を飲み干しながら笑っていた。


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