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船の上で攫われるレム

 闘技士として求められることと、自分が拘ることは割とすれ違う事が多い。


 ラウルブグはそのファイトスタイルから葛藤が多く見える。


「関節技が最強なのは分かるんだがな」

「まあ闘技士は人に見せるモノだからな。街中の喧嘩とはまた違う」


 俺はラウルブグを持ち上げて、そのまま地面に叩き落とす技をかけているのだが、実際はたたき落とささない。


 それよりも、落とす際の見栄えを改良したいのだ。


「投げ技も、雪崩れ込むように投げると観客からは良く見えんのだ。タメが必要になる。そういう点でDDTは優れていると思うが」


 DDT。アン・ミカエルが開発し、この技で彼女は闘技士の頂点にたった。


 威力は高い。だがそれだけではない。

 DDTにはストーリーがある。

 ディストラクション・ディスラプション・ティルヴァイスというのが正式な名前。


 当時ティルヴァイス王国に滅亡させられたファーリスト王国。その生き残りの女騎士ミカエルは、王国を復興するために、そして滅ぼしたティルヴァイス王国を倒すために、この技にそう名付けた。


 ティルヴァイス王国の猛者をこの技で仕留める。

 技と物語が一体化していた。そしてなによりその技は美しかった。


 ミカエルのDDTは基本的に跳びながら放つ。

 上空に舞い上がり、高度から相手を地面に叩きつける。


 観客がどこに座っていようが、舞い上がった段階で必ずみれるし、その滞空時間で観客は興奮する。


 観客はミカエルの構えから叫び始める。

『ディストラクション・ディスラプション・ティルヴァイス!!!!』

 滞空時間も長く、その観客からの叫び声と技が合わさるのが恒例になっていた。


 見た目が派手で、観客がその技を見る時間も長い。そしてなにより技そのものが、物語を綴っている。


 そんな理想的な技なのだが、そのままでなくとも似たような技を開発していきたい。


 そのために関節の柔らかいラウルブグを抱えて色々試しているのだが


「うーーーん。技に説得力がないです。なんかそのかけ方だと絶対逃げられそうですし」


 ラウルブグのマネージャーのゼミラ。

 彼女はラウルブグと一緒に移動してきたのだが、彼女は闘技について詳しい。


 アドバイスをお願いしていたのだが

「やはりそうか。難しいな」

 簡単には作れない。

 それでも練習を続けるしかないのだが。


 俺はラウルブグを下ろし、船の上に寝っ転がる。


「着くのは何日ぐらいだっけ?」

「10日ぐらいですねー」

 ゼミラはラウルブグに近づき汗を拭っていく。


 ゼミラとラウルブグは仲が良さそうに見えるが、恋仲にも見えない。


 まあ色んな形があっていいが。

 俺は近くにいたランとフルを目で追い


「おい、ラン、フル。行くぞ」

『はーい♡♡♡』



 二人を抱きかかえ用意された船室でいちゃつく。

 運動してまだ汗がへばりついているが、ランとフルはそれを嬉しそうに拭ってくれる。


「男らしい匂いがしますー♡」

「興奮するー♡」


 そう言ってくれるのは嬉しい。一方でレムは

「おええええええっっっ!!!」

 端っこで吐いていた。



「……船、慣れたか?」

「……やっとですー」


 3日たってレムはようやく船に慣れて吐かないようになった。


 俺もそれを待っていて。

「痩せすぎだ」

「すみませーーーーん」

 3日でレムは激やせした。


 普段あれだけ食いまくっていたから、レムは急激に肉が付いた。


 この3日でその分を吐き出すように急に痩せたのだ。


「とりあえず食え。太れ」

「はーい……頑張りまーす」



 船の上だと食糧はそこまで無い。

 だからレムに食わせる食糧もそんなに無い。


「船から降りないと太れないな」

「わたしもー。船だとそんなにたべれませーん」


 ガリガリに戻った訳ではないが、線が細くなった。

 一気に大きくなった胸はあまり変わらないが、腕周りや足が一気に細くなっている。

 好みではない。


 なのだが、ゼミラに呼び止められ


「攫われるかも知れないから部屋に閉じ込めておいた方がいいですよ。船の中で隠されると捜すのは大変ですからね」


 レムの事だと思うが

「……あんなにガリガリなのにか?」

「オーガー族の美意識は知りませんが、船に乗った当初は人族から見てやや太り気味。今は殆ど理想型の身体になっています。あなたの世話をしているぐらいだから、性的な訓練も受けていると思われる。そうなれば娼婦の売り物としては極上ですよ。ちゃんと注意を払った方が」


 そうなのか。

 言われてやっと分かるな。

 今が人族から見て理想型か。


「わかった。閉じ込めておく」


 部屋に戻るとレムがいない。

「ラン、フル。レムは?」

「また気持ち悪いって、上にいきましたー」

「分かった。ランはついて来い。フルはここにいて、レムが戻ってきたら部屋から出すな」


『はーい』



 ランと二人で甲板を探す。

 いつもレムは甲板の端で吐いているからなのだが


「おい、いつも吐いてる娘を見なかったか?」

 近くにいる船員に聞く。


 すると少し顔をひきつらせ

「……い、いえ。すみません」


 ビビらせてしまったか。

 なにしろこの巨体。しかも闘技士だ。いきなり話しかければ怯えるか。


 俺はまた他の人間を探そうとするが


「……???」

 ランはそのまま立ち止まり首を傾げ

「……なにか知ってない??? なんでそんなに怯えてるの???」


 ランの言葉にブルブルと震え出す船員。

「……そうか、知っているのか。吐け。俺は闘技士。傷付けることなく激痛を与える技などいくらでも知っているぞ?」


「……い、いえ。直接知っているわけではなく……その。船長が……」


 船長。

「ご主人様、マズいです。船の中で船長に隠されたらどうにも探しようが無くなります」

「そうか。ならば押しかけるのみだ。しかしよく攫われそうになるやつだな」


 俺は船員を引きずり、船員室に向かった。

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