船での訓練
今日は宿の中で酒を飲み、飯を食うことにした。
一部屋で4人が過ごせる広く大きい宿。
昨日の王宮ほどではないが、ここならばレムの初めてをするに、思い出にもなるだろう。
「飲みながらやるぞ……」
そういって俺はいつものように酒を飲んでいく。
今日はランとフルが酒と食事の世話をしてくれ、レムが俺の横に座る。
「そう言えばお前、酒飲めるのか?」
食ってばかりで酒を飲んだところ見たことがない。
年齢としてはいくつなんだろうな。
まあ身体的には飲めそうだが。
「飲んだことないです。飲んで良いのでしょうか?」
「飲んだことがないのか? 俺は飲みながらするのが好きなんだ。飲め」
人族は割と酒に弱いと聞いたことがある。
ランとフルは飲み過ぎても寝るだけ。
俺は酔っ払って意識を失うこともない。
「キャハハハハハハハハ!!! おもしろーーーい!!! 顔が歪んでるーーーー!!!!!」
レムは酒を少し飲んだらすぐに酔っ払いこれ。
ずっと笑いながら、俺の顔をぺちぺち叩いてくる。
「……デアグレン様、取り押さえましょうか?」
ランの言葉に
「別に。好きにさせろ」
楽しそうにしているならまあ、それでいい。
後は抱く話だが
「多分朝にはなにも覚えていないんだろうな」
俺は大笑いしながらほっぺをつねってくるレムを放置しながら酒を飲んでいた。
「……あたまいたーーーい」
翌朝。レムは頭を抱えてのた打ちまわっている。
「あれだけモノを食うのに酒は弱いんだな。中々珍しい体質だ」
「なにもおぼえてませーーーーん」
まあそれも良い。
「デアグレン様、どうします?」
「お出かけされるなら、私達のどちらかが残ってレムといますが」
ランとフルは本当に気を使ってくれる。
「ああ、そうしてくれるか。少し街を歩きたい」
「デアグレンさまーー♡♡♡」
ランと二人で歩いていると、ランはいつも以上にべったりとくっつき、大きな胸を押し付けてくる。
「柔らかくて最高だぞ、ラン。俺はこういう肉が好きだ」
そう言って胸を触ると
「あん♡♡♡」
ランが嬉しそうにして、キスをしてくれる。
ここはまだ街中。周りの連中もなにかこっちを見ているが気にはしない。
しかし、俺もランとフルを囲ってから気分が随分変わったな。
今までは闘技士としての葛藤が強かったが、この二人が俺に甘えてくれるようになってからは、自信というか、闘技士としてのやる気がまして来た。
またこうやって周りに見せつけるのもいい。
「しかし、賑やかで良い街だ。遠征が終わったらまた来ような」
「はーーい♡♡♡ ここ、オシャレな服や宝石が沢山あって好きです♡♡♡」
オシャレな服か。実際にランとフルが着ている服は金貨一枚する。
金貨一枚と言えば、一般的な平民の家庭の衣食住すべてが50日ほど過ごせる金額。
「ああ、沢山金を使え。俺は着飾ったお前らが大好きだからな」
ランとフル、そしてレム。
彼女たちを連れて隣の大陸に移動する。
ラウルブグと共に船に乗り込んだのだが
「気持ち悪いですーーー」
レム。
船酔いしている。
酒もダメだし、こういうのが苦手なのかもしれないな。
「デアグレン、船で揺られているだけでは身体が鈍る。訓練に付き合ってもらえないか?」
ラウルブグからの申し出に
「それは有り難い。是非やろう」
俺たちは常に鍛錬は欠かさない。
だが、闘技士に必要な鍛錬というのは殆どが「基礎訓練」と呼ばれるもの。
騎士達がやる訓練とは殆ど中身が違う。
闘技士は殆どのケースで相手の攻撃を敢えて受け止める。
そうなれば肉体を鍛えあげ、耐久力を付けることがもっとも求められる。
闘技士に必要なのは体力。
華やかな技はその次だ。
だがラウルブグはそこは既に完成されている。
後必要な鍛錬というのは相手と組み合ってやる技の改良。
俺のようなデカい相手に訓練するのは貴重な機会なのだろう。
俺からしてみても、ラウルブグのような歴戦の闘技士との訓練で得るものが多い。
俺とラウルブグは船の上で組み合いを始めた。
ラウルブグは身体が柔らかい。
組技を得意としているラウルブグだが、それが故に観客からは地味と言われたりもする。
これだけの実力者なのに中々メイン試合が組まれなかったのも
「戦い方が地味だから」とは言われていた。
闘技士が難しい理由はこれなのだ。
実は「強い戦い方」というのは見た目地味なのだ。
相手を押さえつけ、抵抗できないように関節を極める。
離れて殴り合う、蹴り合う、投げ合うなどリスクが高すぎて話にならない。
1対1の戦いならば真っ先にするのは押さつけと、相手が抵抗出来ない用な関節の極めだ。
ラウルブグには強力な蹴りや、噛みつき攻撃もある。
だが、もっとも強いのはこの柔らかい関節を活かした組み合いだ。
これをされてしまうと抵抗も出来なくなる。
普通に戦うならばラウルブグに勝つのは難しい。
なのだが、それを「闘技士」というカテゴリーで考えると欠点が大きくなる。
それは見た目が本当に地味なのである。
闘技士は関節技も使う。
フィニッシュホールドとして使われることもある。
だが、それは見た目が派手な技。
実際に有効で強力な技は本当に地味。
今ラウルブグが俺にかけているのが足4の字固め。
足と足が絡み、関節を締め上げる。
逃れようとすればするほど締まり、逃げようがない。
なのだが
「ごしゅじんさまーーー。部屋に戻っていまーーーす」
レムが当たり前のように訓練中の俺達に近づき、そのまま去っていく。
特に凄いことをやっている感が見えないのだ。
これは闘技でもそうで、関節技が長引くとブーイングが酷くなる。
しかし、本当に1対1の勝敗を求めるならばこのような関節技が最強に近い。
俺はそう思っている。
ラウルブグもそうなのだろう。だが
「……うーむ。やはり地味だよな……」
ラウルブグも分かっているようだ。
「かけられている側が痛さをアピールしないと伝わらないからな」
闘技士というのは本当に考えることが多い。
派手な技、見せる技。それの開発を求められる。
「俺からもいいか。投げ技の開発をしたいのでな」