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酒と女と旨い飯

「金にならんことは害悪だ。だが金になるならそれは正義だ」

 ウロポロスは頷きながら金貨を数えている。


「……俺は構わんが、ラウルブグも行くのか?」

 ここにはラウルブグとマネージャーのゼミラ、そしてミカエルとニフェルアリュアもいる。


「一人で連戦するわけにもいくまい。ラウルブグは闘技の猛者。デアグレン、お前も一流の闘技士だ。この二人ならば俺も安心して送り出せる。幸いゼミラも納得してくれたからな」


「はい! ラウルブグ! あなたが前から言ってた未知の敵との戦いですよ! 遠征費も保証! 文句ありませんね!」


「……それは構わんが……デアグレンと三戦はしなくていいのか?」


「ああ、これからの遠征で十分元は取れる。ちゃんとゼミラには約束の三戦分の金は渡した」


 それにニコニコしながら契約書を見せるゼミラ。

 それで機嫌がいいのか。


「それでだ!!! ミカエル!!! なんでお前は好き勝手に物事進めるんだ!!! ああいうのは本来は打ち合わせが必要なものだぞ!!!」

「まあ、でも相手もいいと仰られたのでしょう?」

 ウロポロスは俺の戦いの最中に、魔法を使った遠距離会話装置でアーチェウロウタ帝国の関係者と連絡を取ったらしい。


 突然の申し出で向こうは当然戸惑ったらしいが、会話している最中にニフェルアリュアが『私が侮辱されたんだ!!! 受けろ!!!』と騒いで承諾をもらったと。


「……それで? 遠征という訳か? まあ俺は良いが具体的には……」

「細かいところはこれからだ。ただ基本的にはいつもと変わらん。雑魚相手に強さを見せ付け、強敵には負けることもあろう。それはラウルブグもそうだ」


「……まあ、ゼミラが良いというなら従おう」

 ラウルブグの言葉に


「ちゃんとお金はバッチリですから! 遠征頑張りましょう!!!」


 ウロポロスからは多額の金貨を受け取った。

 せっかくなので贅沢をしよう。そう思い 3人を連れて高級な料理店に入ろうとすると。


「……その、闘技士であるデアグレン様は構わないのですが……」

 ランとフルを見ながら話をされる。

 高級料理店にはゴブリン族は入れないと。

 まあウロポロスもよく嘆いていたな。入れない店は割とあると。


「そうか。楽しく食事出来ないならば別にいい。他の店に行く」

「……申し訳ありません」

 頭を下げられるが、頭を下げるぐらいならば断らなければ良いのにな。


「デアグレンさまー」

「私達のせいですかー」

 二人が少し悲しそうな顔をしているので


「なに。俺はあの店に怒ったり恨んだりはせんが、お前らと一緒に飲めなければなんの意味もない。それだけだ」


 そう言って二人の頬に口付けする。

『えへへー♡』


「そのうち見つかるだろう。とりあえず歩くか」



 少し歩くとさっきよりも店構えが良い店があった。

「おい、入っていいか?」

 入口にいる男に話かけると笑顔になり


「はい。こちらは地元の果実と肉をメインに出す店となります。酒は果実酒を多く取り揃えておりまして」


「それはいい。強い酒もあるか? 4人だ」



 この店は個室が用意されている店だった。

 俺は真ん中の席に座り、両脇にランとフルを抱える。


 レムは少し離れたところに座るが

「おい、お前も近くだ。酒をつげ」

「は、はい!」


 するとレムはなぜか椅子に座らず、俺の足元に跪く。


「……まあ、いいか」

 疲れたら椅子に座るだろう。


「おい、酒と肉と果実をどんどん持って来い」

「はい! すぐに!」


 店員に呼びかけると、テーブルを埋め尽くす程の肉と果実、そして大量の酒が並べられる。


「話が早いな。素晴らしいことだ」

 そのまま目の前の酒を飲んでいく。


「デアグレンさまー♡ どうぞー♡」

「果物おいしいですよー♡」

 ランとフルがキスをしそうな距離まで口を近づけ果実と肉を差し出してくる。


「ああ、お前らいい匂いするな。おまえらも遠慮なく食え」

『はーーい♡』


 足元に跪いているレムにも

「酒を注いだら、後は好きなもの食ってていいぞ」

「本当ですか!!! ありがとうございます!!!」



 酒と肉と女。

 闘技士として色々葛藤のある俺だが、そんな葛藤があろうと続けようと思う程、この3つは最高すぎる。


 俺とランとフルは基本的に酒を飲むのだが、レムはひたすら飯を食べまくる。

 テーブルから物が減る度に注文していたら


「……あの、お客様。かなり頼まれていますが……」

 店員が言いずらそうにくる。


「なんだ? 金か? 先に払うぞ?」

 安酒屋は前払いが多いが、ここは後払い。これだけ頼めば心配にもなるだろう。


 俺は金貨の詰まった袋をテーブルに置き

「金貨100枚もあれば足りるだろう。まだまだ食って飲むぞ。持って行け」


「ひゃっ!!! ひゃくまい!? ……ほ、本当に金貨ですね。いや、失礼致しました。10枚頂き、残りは後ほどの御清算にさせて頂きます……」


 多分だが、オーガー族というだけで「話を聞かずに踏み倒しそう」とか思われているんだろう。

 基本的には粗暴だからな。俺が変わり者なんだろうが。


「気にするな。こうやって旨い酒と飯が食えれば文句などない」



「くー♡」

「すー♡」

 ランとフルはもう寝た。俺に甘えるように抱きついている。


「……すげー食うな」

 ここに入ってからどれぐらい経ったかは分からんが、5刻(5時間)は過ぎてると思う。レムはその間ずっと食ってる。


「美味しいです!!! 私はこのために生きてきたって感じです!!!」

 この食ったものはどこに消えていくのか不思議なぐらいだ。


「こんなに食うのによく今まで我慢できたな」

 あんな劣悪な環境では飯もロクに食えなかっただろう。


「屋台の手伝いしていたのでつまみ食い繰り返してました」

 なるほど。


 レムはあの極貧生活でまともに教育もされていなかったにも関わらず、言語が滑らかで機転も利く。


 恐らくだがレムの知能が元々高かったのだろう。その知能で仕事の最中にそっと食糧を摘まんだりしていたと。


 しかしランとフルは何度も抱いたが、レムはまだ抱いていない。

 別に積極的に抱く対象でもないが


「……まあ好きに過ごせ。楽しければなによりだ」

「はい! ご主人様に仕えられて幸せです!!! こんなに美味しいもの食べ放題とは流石に思いませんでした!!!」


 そう言いながら笑顔で果実を頬張っていた。



 結局あの店では50金貨支払うほど飲んで食った。


 朝方になるまで俺は飲んでいたからな。


 なのだがその噂がすぐに街に広まったらしい。

 昨日闘ったデアグレンは一晩で50金貨飲み食いしたと。


 俺からしてみれば散財もまた仕事だ。

 金貨を貯めるような生活でもない。盗まれれば終わりだしな。


 それに派手に使えば名声も上がる。

 このオーガは金遣いが荒い。粗暴なイメージがより上がる。



「出発日はまだ先だそうな。船で行くからな。せっかくだ。この都でノンビリしよう」


『はーい♡♡♡』


 試合までは買い物などを控えていたのだが、試合も終わった。四人で服などを買いに行くことにした。


 宝石店に入ると

「あら。デアグレン」

「……買い物か」

 ニフェルアリュアが店にいた。


「ええ。そろそろこの『い な か く さ い』街から出るので。お土産を」

 田舎くさいというのをわざわざ強調して言うのだが、本当にそう思っていたら宝石など選びに来ないだろうに。


「そうか。俺達も買い物だ。さあ好きなものを選べ」

『はーい♡』

 ランとフルはすぐに宝石を手にとり、レムは宝石を持ってきて渡したり、戻したりする。


 するとニフェルアリュアは不思議そうな顔をして

「……そこの娘、なんでゴブリン族の世話なんてしてるの?」


 なんで、か。それにランとフルは無関心というか無視をしている。

「自分の常識を疑った方がいいぞ。踊り子なら世間の常識を覆してきてなんぼだろう」


 帝国の国属の踊り子。その地位にいるためには努力という生ぬるい単語では済まされないほど苛烈な訓練と才能が必要。だがそれだけではたどり着けない。


 言われた通りにやるだけでなれる訳がない。

 国属の踊り子希望者は何人もいる。

 その中から這い上がるためには「こうすべき」という訓練から自分で「こうすればより良い」というなにかを掴まなければ、その候補生から抜け出せない。


 闘技士も似たようなものだ。

 だからそう伝えたのだが、ニフェルアリュアはその言葉に思慮深そうな顔をして


「……あんた、オーガー族なのになんでそんなに頭が回るの???」

 なんで? と言われてもな。


「オーガー族とか、ゴブリン族とか。そら種族には傾向がある。それは事実だ。だがその種族の中にも異端者はいる。それだけの話だ」


 ニフェルアリュアと話をしているとレムが笑顔で


「私はお腹いっぱい食べさせてくれるご主人様が大好きですし! ランさんとフルさんも優しくて大好きです! それだけです!」


「…………そう。変わり者ね」


 そう言ってニフェルアリュアは宝石を選ぶことに戻った。

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