ド田舎のクソブスは早く故郷の牛小屋にかえれ
二戦目。
俺とラウルブグのコンディションは悪くない。
試合を明日に控え組み合いの特訓をしたが、思った通りに身体が動く。
なのだが
「良いですか!? あなたは明日の試合はどちらの前座とかでもない! 闘技全体の前座としてやってもらうんです! そうでなければ3試合目にデアグレンが勝てば、あの合唱団が、引いてはミカエルが敗れたと同義になる! だから明日の前座においてはあくまでも中立!」
「……そんな叫ばなくても分かるわよ……」
「じゃあなんであの合唱団の衣装に酒をぶっかけたりしているのですか!? あちらが反撃してあなたの衣装を汚したら国際問題ですぞ!? 手だしができないからやっているのですか!?」
ニフェルアリュアとミカエルを慕う合唱団との抗争というか、嫌がらせはエスカレートする一方。
アン・ミカエルもニフェルアリュアを不快に思っているようで特に止めていないよう。
まあ俺から見れば
「試合の邪魔でなければいいんだがな」
「そうだ。俺達は良い試合をすれば良いだけだからな」
ラウルブグも頷く。
なのだがウロポロスは顔を曇らせたまま
「……心配だ」
頭を抱えていた。
試合当日。
『いいぞーーーー!!!! 服を脱がせーーー!!!』
『やっちまえーーーー!!!!』
『なぐりあえーーーー!!!!!』
今回の前座はどちらかの陣営の応援ではなく、試合全体のパフォーマンスというアナウンスがウロポロスよりあった。
そして先に合唱団が歌ったのだが、その歌詞がとんでもなく
『アルドウァ大陸(ニフェルアリュア出身の大陸)ってどこの辺境だよ。ちゃんと人族住んでんのか』
『その服、肌面積多過ぎませんか。布が足りねーなら分けてやるぞ』
『自分の国が文化的って、お前文化の意味分かってんのか。全裸見たいな格好で踊るのは文化じゃねーぞ』
それもまた歌が上手い。
こんな酷い歌詞なのに、何故か耳にスッと入ってくる。
そして歌い終わり、一斉にアッカンベーをした合唱団に向かい、ニフェルアリュアは靴を投げた後にそのままダッシュで合唱団の一人に跳び蹴り。
そこからの大乱闘になりそうだったのを、飛び出した警備の人間が押さえつける。
そしてこの観客の大歓声に繋がるのだが。
「……どーすんだこれ」
「……俺達も手伝った方がいいのか?」
警備の人間は全員女性だった。
ウロポロスは乱闘になるかもしれないと事前に用意させていたのだ。
ラウルブグのマネージャーのゼミラも手伝いニフェルアリュアを押さえつけている。
だが乱暴を働くことが出来ないのか、あくまで素手でやっている。
一方の合唱団もアン・ミカエルが出てきてなにか話をしていた。
そしてウロポロスが出てきて
『……えー。みなさん。本当にみっともないモノをお見せしまして……』
ウロポロスの発言に
『そんなことねーぞー!!!』
『美人同士の喧嘩をみせろーーー!!!』
観客からの煽り
『正直今回の件はこの国の合唱団、引いてはアン・ミカエルにも大きな問題がございます。そのため、責任を取らせる為に、この試合の勝者がアン・ミカエルと戦う権利を……』
『それより喧嘩させろー!!!』
『ぬがせろーーーー!!!』
観客からの大騒ぎ。
これ、試合になるのだろうか。
俺とラウルブグは困惑した顔のまま待つ。
観客が他のことに気を取られたまま試合といいのも困る。
これどうするんだ? と思っていると
「おもしれーーー!!!!! この田舎ものども!!!! 踊り子を舐めんなよ!!! そこのブクブク太ったビッチなんぞ10人いようが余裕じゃあああっっっ!!! かかってこいや!!!!!」
「だれが太ったビッチだーーー!!!」
「いなかものはやばんだーーー!!!」
「国へかえれーーーー!!!!」
また大騒ぎする女達。
そしてニフェルアリュアが警備をはねのけ、合唱団に突進しそうになったので
「おい! やめろ!」
俺が立ちふさがる。
ラウルブグも出てきて
「お前ら! 挑発するな!!!」
合唱団の方の押さえに回る。
「どけ!!! デカブツ!!! このクソビッチ共には制裁しないと!!! 言われっぱなしで! 恥ずかしくて国に帰れるか!!!!」
『ド田舎のクソブスは早く故郷の牛小屋にかえれ~~~♪』
「だから挑発をするなと言ってるだろうが!!!」
俺に抱えられ暴れるニフェルアリュアと、合唱しながらニフェルアリュアをバカにする連中に叫ぶラウルブグ。
あまりにもカオスな展開に観客達は手を叩いて笑い、煽りたてている。
そこにアン・ミカエルがゆっくりと真ん中に来て
『おい、そこのブス。あんまり調子に乗るなよ』
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっ!!!!!!!』
止めに来たのかと思ったら、音声拡大装置で煽るアン・ミカエル。
それに観客も最大の大盛り上がりをする。
「なんだと!!! この筋肉女!!! 誰がブスじゃ!!!!!!」
素声なのに、会場中に響き渡る大音量で叫ぶニフェルアリュア。
『彼女達は国の宝。引いては私の宝だ。喧嘩を売るなら私が買ってやる』
『うわぁぁぁぁあああああああああっっっっ!!!!!!!!!!』
観客からの大騒ぎに被せるように
「喧嘩売ってきたのはテメエラからだろうが!!!! この変態ビッチ共!!!!」
ニフェルアリュアの反論にミカエルは頷き
『そうだな。だから代理戦争だ。お前らの国から闘士を連れてこい。そっちの大陸にも闘士はいるだろう? とりあえず今日のところは私はラウルブグに乗る。お前はデアグレンの前座に来たのだろう? デアグレン側に乗れ』
「おもしれーーー!!!! デアグレン!!! そこの狼ぶちのめせ!!!!!」
ニフェルアリュアは当たり前のように命令してくるが、どうしたらいいんだ。これ。
ウロポロスも頭を抱えている。
しかしミカエルはそのまま
『勝者はそちらの大陸に行って戦うといい。そこで勝ち抜いたやつと私が戦おう。どちらの文化が優れているか。闘技も文化だ。喜んで喧嘩を売ってやる。かかってこい』
ミカエルの挑発に
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!!!!』
今日一番の盛り上がりになった闘技場。
『前座が長引いたな。さあ戦え。それとそこの踊り子』
ミカエルはニフェルアリュアを指差し
『舞は素晴らしかった。だが我が国の文化はお前の舞を越えている。街を観光して回るといい』
ようやく始まった試合。
あれだけの盛り上がりの後だから客の反応が気になったが、十分盛り上がった。
ウロポロスから
「予定通り時間制限により引き分け」というサインが来たので、俺達はシナリオ通りに技を掛け合った。
前座ほどの歓声は起きなかったが、引き分けの合図と共に観客達は一斉に立ち上がり拍手と歓声。
我ながら良い試合が出来たと思う。
ラウルブグも満足そうな顔をしている。
これで次は再試合……
「はあ!? なに勝手に終わらせてんのじゃ!!! 勝負はついてないだろうが!!!」
ニフェルアリュアが、女性達に羽交い締めにされながら叫ぶ。
それを見越していたのか、素早くウロポロスが現れ
『えーーー。ご覧の通りこの試合は規定通り再試合となります』
『ぶーーーーーーーーーーーー』
会場からのブーイング。
だが、普段よりかは少ない気もする。
『再試合ですが、そこのバカ……こほん、アーチェウロウタ帝国、国属のニフェルアリュア氏をここまで貶しておいてそのままという訳にもいきません。幸いにしてこの闘士デアグレンは私と契約しております。デアグレンにはアーチェウロウタ帝国に出向き闘技を行い、その結果の勝者が改めてここで戦うという形を取りたいと思います。そのためその再試合までは賭け金は保留。その分を他の試合に使用したり等はいつも通り可能と致します』
ラウルブグとの再戦は無しで、そのまま行くのか。再戦をしてから行っても構わないと思うのだが……
『なお、対戦相手のラウルブグも同じく同行致します』
その言葉に困惑するラウルブグ。
だが、マネージャーのゼミラはニフェルアリュアに馬乗りになりながら、ラウルブグに笑顔で指を突き立てていた。