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ラウルブグとの戦い

「どうするんだ? これ」

 ラウルブグが掴み合いになりそうな女達を指差す。


 まあどうしろと言われても


「簡単だろう! あれは前座! つまり互いの相手、どちらが勝てばその前座が優れているということだ!」

 俺は叫ぶ。


 この戦いはラウルブグの勝ちだ。

 つまりミカエルが囲っているという合唱団が勝ちという判断になる。


 そうでなければ暴動になるかもしれない。あの合唱団はこの国の宝だろう。安易に負け扱いは出来ない。


「それもそうだな! ではやるぞ!」

 狼の頭をもち、二足歩行する獣人であるウォーウルフ。


 その大きな口に噛まれれば致命傷となる。

 既にラウルブグとは試合の打ち合わせは終わっている。


 それをその通りやればいいだけ。


 俺は

「うおおおおおおおおおおおっっっっ!!!」

 叫び突進。


 ラウルブグのその大きな頭にむかって思いっきり走りながら腕を振り回し、ランニングラリアットを食らわせる。


「ぐっっっっ!!!!」

 ラウルブグは技を受ける直前に顎を引きダメージを最小限にする。

 だが俺の身体の大きさでラリアットをくらえば当然吹き飛ぶ。


『うおおおおおおおおおおっっっっ!!!!!』

 初手でラウルブグを吹き飛ばした事に対する大歓声。


 だがラウルブグは吹き飛んだ際もしっかり受け身を取っている。ダメージは殆どない。


 一流の闘技士に求められるものというのは、強い攻撃力ではない。


 如何に相手の技を受け、それを分かりやすい形で観客に見せ耐えられるかだ。


 ラウルブグは一流の闘士。

 ランニングラリアットの攻撃をしっかり受け、またその威力が観客に伝わるように吹き飛び転がった。


 だが実際はダメージは殆どない。


「一気に叩き込め!!!」

「やっちまえ!!!」

 観客達の声援を聞きながら俺は、倒れているラウルブグに向かって、走りながら跳躍する。


『デアグレン!!! 追撃のボディプレスだー!!!』

 実況の絶叫。

 あれ? そう言えばさっきまで実況がなかったな。なんだろう。


 ラウルブグは倒れた状態から、俺のボディプレスに合わせ起き上がり、顔面に蹴りをくらわせてくる。


『ラウルブグ!!! カウンターのサマーソルト!!!!』

 円を描くような、強烈な蹴り。

 それに仰け反り吹き飛ぶが、これも事前に打ち合わせ通りなので、俺もしっかり顎を引きダメージを最小限にしている。


『うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっっっ!!!!!』


 観客はこの二撃で完全に出来上がっている。

 だがまだまだ。


 俺もラウルブグもほぼダメージなどない。


 俺は近付いていたラウルブグの脚を掴み、そのまま振り回して壁に向かって投げ飛ばす。


『デアグレン!!! サマーソルトを受けた直後にも関わらず、そのままラウルブグを掴んでジャイアントスイング!!!』


 実況は最低限。

 だが

『うおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!!!』

 観客は大盛り上がりだ。だから変に煽る実況は要らないのかもしれないな。


 解説者もいないのは凄い。

 試合でなにが起こっているかは見て理解しろということか。


 逆を言えばメイン試合ならば、二人の攻防だけで観客をわかせろ。


 そういう話なのだろう。


 壁にぶつかったラウルブグだが、壁に当たる際の受け身も見事。


 俺は、追撃しようと走りこむが、ラウルブグは姿勢を低くしたまま


『ラウルブグ!!! 迫るデアグレンにタックル!!!』

 一気に飛びかかってくる。


 そのままラウルブグは俺の腰にしがみつき、巨体の俺をそのまま抱え上げ


「ぐおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!!」

「くらえっっっっ!!! これがウォーウルフの力だぁぁぁぁっっっ!!!!」


 ラウルブグはそのまま持ち上げた俺を脳天から叩き落とす

『ラウルブグ!!! ここでパワーボムが炸裂!!! 巨体のオーガー相手にこれはすごいっっっ!!!!』


『うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおっっっっ!!!!!!!』


 まだ始まってからそんなに時間は経っていないが、双方が速攻を心がけたスピーディな試合。


 素早いラウルブグに合わせた戦いを打ち合わせしたが、期待通りこの展開に観客達は大喜びしている。


 俺は頭を抑え倒れている状況。ラウルブグはそのまま倒れている俺に向かい大きな口を開く


『ラウルブグ!!! ここで噛みつき攻撃か!!! ラウルブグの噛みつきはオーガーをも食い破るか!!!???』


 実況の煽りに大騒ぎになる観客。


 俺は、近付いてきたラウルブグの口に、思いっきり腕を振り回し、その口の中に攻撃を加える。


「ぐっっっっ!!!!!」

『デアグレン!!! 反撃!!! 大きく口を開けたラウルブグに正拳突き!!! ラウルブグが怯んだ!!!』


 俺はラウルブグの頭を掴み、脇に抱える。

 そのままラウルブグを持ち上げ地面に向け思いっきり叩きつける


『デアグレン!!! ブレーンバスター!!!!』


『うおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおっっっっっっ!!!!』


 大騒ぎになる会場。

 俺の大技に盛り上がりは凄いことになる。

 しかしこの試合では俺の負け。


 頭を抱え苦しそうにしているラウルブグだが、実際はまだかなり動けそう。


 トドメをさそうと近づく俺に


「なめるなぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

 ラウルブグは跳躍する。


 ウォーウルフは脚力が異常。

 ウォーウルフの攻撃で強烈なのは噛みつき攻撃と、蹴り。


 ラウルブグは跳躍したまま蹴りを俺の顎に思いっきり当てる。


「がぁぁあああああっっっ!!!!」

 これはキツい。

 俺は吹き飛んだがこれは演技でもなんでもない。


 俺としてはしっかり防御をしたつもりだが、それを貫通するレベルで衝撃が通った。


 ラウルブグはあっと言う間にこちらに移動し


「トドメだ!!!」


 そういうなり、オレの背中に乗り脚を掴んで思いっきり持ち上げる。


『バックブリーカーだ!!! ラウルブグ!!! 腕の力だけでなく! 脚も絡め思いっきりしならせています!!! これは痛い!!!!!』


「ぐうぅぅぅぅぅっっっっ!!!!!!」

 俺は苦痛に歪んだ顔で呻き声を出す。

 見た目は痛々しいほど腰が反り返っているから、その苦痛は観客にも伝わっている。


『うぉぉぉぉおおおおおおおおっっっっ!!!!!!!!!!』


 なのだが、実際はラウルブグの腕の力はそうでもない。この腰のしなりは自分で上げたりしているのだ。


 こういうストレッチ技は見た目は派手だが、痛みはそうでもないのが多い。

 求められるのは演技力。


 ラウルブグも必死な形相で俺の脚を固め、持ち上げているし、俺も必死に抵抗しようとしている。


 そしてこの闘技においてはルールが決まっており、一定時間、同じ技から抜け出せなければ、その瞬間に勝ち負けは決まる。


 今回はバックブリーカーによる時間経過によってラウルブグの勝ち。


 そしてその後にウロポロスが「そんなルール聞いていないぞ。ミカエルの時はそんなもの無いだろうが」とイチャモンを付け、再試合を取り付ける。


 それに観客は盛り上がりまた客を呼ぶ。

 そういう仕掛けというかストーリー。

 だからこそ俺達はそのストーリーを成立させるために必死に抵抗をするし、それを止めようとする。


「ぐぅぅぅぅぅぅっっっっ!!!!!」

 見るとウロポロスは既に飛び出せる姿勢をしており、ゼミラも準備が出来ているようだ。


 観客に見えない位置で、俺とラウルブグも指でサインを送りあう。


 最後、ラウルブグが思いっきり腰をしならせ


【カーーーーンッッッ!!! カーーーーンッッッ!!!】

 鳴り響く鐘の音。


『この合図は!!! 試合終了の合図です!!! しかしデアグレンは白旗をあげていません!!! どういうことでしょうか…………というかミカエルーーー!!! なんで解説にこないのーーー!!!!!』

 何故か実況から泣き言。


 試合終了の合図にもざわつきは収まらず、実況の泣き言にも驚きざわめく。


 ウロポロスとゼミラも出てきてなにか話をしようとするが、真っ先に音声拡大装置を手にしたのは、何故かニフェルアリュア。


『まだ試合は終わってないだろうが!!! 田舎はルールもわかんねーのか!!!!!』

『うおおおおおおおおおおおおっっっっっっ!!!!!!!!!』


 すると何故かアン・ミカエルが会場に入る。

 それに

『キャアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』

 女性の歓声が響き渡る。


 アン・ミカエルは若い女性に人気があると聞いてはいたが、確かにこの声援を聞くとそれが分かる。


『ルールの分からない田舎ものはお前だ。都会の闘技はな。一定時間動きがない技は強制的に試合終了と決めているんだ。ラウルブグのバックブリーカーはしっかり決まっていた。あれ以上時間かけても抜けだせない。そういう判断だ』


『はあ!? あんな技が長時間かけっぱなしなんて出来ないだろ!? 受けてる方は力を抜けるが、かけてる方は常に力がいるんだぞ! 舞もそうだ! 力の抜けるタイミングのある舞と、常に力を入れ続ける必要のある舞ではやれる時間が倍半分どころではない! 現にあの狼の体力は限界に近かった。そんなもの踊り子の私ですらわかるぞ!!!』


 割と闘技に詳しいニフェルアリュアに感心しながら聞く。確かにそうなのだ。よく理解しているな。


 だがその正論にアン・ミカエルは顔色一つ変えず

『それはお前が体力無しの虚弱女だからだ。私は空飛ぶ相手に一時間戦い続けたこともある。あの技を一時間かけろといわれても余裕だ』

 そう言ってミカエルは纏っていた上着をとり、その腕を剥き出しにする。


『キャァァァアアアアアアアアッッッ!!!!!!』

 大声援。


 ミカエルの腕は異常な程に盛り上がっていた。

 アン・ミカエルはファッションセンスも優れていると評判だった。

 それはこの腕を隠すためらしい。


 女性にしては異常な程の盛り上がりのある腕。

 それが不自然に見えないように、普段は上着を羽織ってそれを隠す。


 その腕を敢えて晒し

『文句があるなら次も戦うと良い。相手は私でもいいが、まずはラウルブグさんと再戦もいい。私はいつでも戦うぞ? 楽しみに待っている』

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