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前座で喧嘩

「お久しぶりですね。お元気そうで」

ファーリスト王国にいる、闘技士の絶対王者アン・ミカエル。


彼女は嬉しそうにウォーウルフのラウルブグと話をする。


「ああ。久しいな。戦ったのは三年前か。相変わらずでなによりだ」

ラウルブグも親しげに話をするが


「あなたとは戦いませんからね?」

マネージャーのゼミラが釘をさす。


「私はいつでも。最近はあまり試合を組んでもらえないのです」

「ああ。絶対王者は無駄な試合はせんのだ」

ウロポロスがミカエルの言葉に頷く。


「ラウルブグも、デアグレンも本来ならばミカエルと戦うに十分な実力なんだがな。そちらが良ければ組む……」


「お断りします」

笑顔のままゼミラが即断する。


「……いや、向こうがやりたいなら……」

ラウルブグが言いたそうにするが、ゼミラは笑顔のままラウルブグに顔をくっつけ

「お こ と わ り し ま す か ら ね」

威嚇する。


「それは残念ですね。是非良い機会に」

ミカエルは髪をかきあげる。


「相手はデアグレンさん。成金ゴブリンさんがお世話してる方ですよね? 私はその方でも良いですよ?」


「デアグレンはこれが初めてのメイン試合だ。そのメイン試合が終わってから判断する。三連戦盛り上がったら考えなくもないがな」


親しげに話をしている中に一人だけ黙っている女性。


ウロポロスはそちらを見て


「今回、デアグレンのアピールに来てくださった『踊り子』ニフェルアリュアさんだ。新生ファーリスト王国には初めて来られたのこと。盛り上げて頂こうと思ってな」

「ニフェルアリュアです。どうぞよろしく」


よろしく、と言いながら笑いもしない。

ゼミラは少し首を傾げ


「ニフェルアリュアさんは私でも知っています。隣の大陸にある国の認定踊り子だと思っていましたが」


ゼミラの言葉に、初めてニコリと笑い

「ええ。わざわざ隣の大陸から『本物の舞』を伝えに参りました」

=====================


いよいよ試合。

メイン試合ということで、多少は緊張するかと思っていたが、そうでもない。身体も動く。


「……ニフェルアリュアと、ミカエルが揉めてな……」

試合前にウロポロスが来たので激励かと思ったが憂鬱そうな顔で話をする。


「ニフェルアリュアが? なんでミカエルに? 踊り子が闘技士と揉める意味がなかろうが」


「簡単に言うとだ。このファーリスト王国はこの大陸においては文化の最先端を誇っているのだ。一方でニフェルアリュアは隣の大陸でもっとも文化的と名高いアーチェウロウタ帝国の認定踊り子。滅茶苦茶にプライドが高い。当たり前のように張り合う。んで、ミカエルが『そうですか。その割には服装は洗練されておりませんのね』とニフェルアリュアを挑発しやがってな。ニフェルアリュアも気が強いから、ミカエルが囲ってる取り巻きの女に『うわっ、田舎くさっ』と罵声浴びせてそいつとなじりあいだ。俺はこの試合の後が心配で心配で……」


なんだそりゃ。

踊り子が殴り合うなんて聞いたこともない。


「とりあえずその件は任せる。俺にはよくわからん」


入場口。

既にニフェルアリュアが闘技場の真ん中にいる。

ここからでも見て分かるぐらいに笑っていた。

ただ、その笑顔は凶暴に見える笑顔。

闘技士が醸し出すかのような雰囲気。


そして音楽が鳴り響く。

それに合わせニフェルアリュアが躍動し、闘技場狭しとばかりに舞い踊っていく。


「すげえな」

一応前座という話なんだが、これもう闘技の前座なんてレベルを超えている。これだけで人は喜び喝采するだろう。


俺の試合はこれを凌駕できる興奮を生み出せるのか。少し不安にはなるが


ニフェルアリュアは舞を終え頭を下げる。

その瞬間

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!!!!!!!!!』

大歓声。


ニフェルアリュアはなんか『とうだ!』

みたいな顔で一方向を見ている。

こっから誰を見ているかは見えないのだが、ウロポロスの話から聞くに恐らくミカエルだろう。


するとラウルブグ側のアピールで十数人の女性が入ってくる。


彼女たちは踊るようには見えない。合唱だろうか?


『Ah~~~♪♪♪』

人の声だけ。それなのに楽器が奏でられているかのような重厚な音。


『美しきこの都』

『誇らしきこの都』

『この都で繰り広げられる雄々しき戦い』


歌詞はこの街を称え、観客を称え、これから行われる戦いを称える。


「……ミカエルは相手を否定するアピールが嫌いだと聞いていたが、こういうのも確かにいいな。だが、これだともう合唱がメインだと思うんだが……」

戦いの前のアピールというのは、これから起こる戦いを盛り上げるために行うのだ。


客を盛り上げ、また来たいと思わせるためにやる。

だから勝ち役のヒールが観客を馬鹿にして、「次こそはコイツを負けさせろ!!!」と賭けさせる。

そういう効果があるとウロポロスは言っていた。


この前座はあくまでも

「戦いの前に行われる豪華な演出」に過ぎない。


俺がそう思っていると、合唱団は歌い終わり、大歓声の中頭を下げる。

そして帰り際、突然全員がこちらを指差し

『ブーーーース』


ハモる。

観客は呆気に取られるが


「はあ!? ブスはお前らだろうが! 田舎もの!!!」

ニフェルアリュアの絶叫。


ニフェルアリュアに向けて言ったらしい。ウロポロスが慌てて闘技場に飛び出し


「お前ら!!! ここで喧嘩をするな!!! これから試合……」

「やかましい!!! 田舎ものにブス扱いされて黙ってられるか!!!」


「ブスはブスだー!!!」

「誰が田舎ものだー! ここは都会だー!!!」


そして観客から

「いいぞー!!! たたかえーーー!!!」

「殴り合えーーー!!!!」

大盛り上がり。


まあアピールとしてはこれで成功な気はする。


俺も闘技場に出ると、ラウルブグと困惑顔で出てきた。

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