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オーガー族の闘士デアグレン

本日から新連載です。

今日は四話投稿となります。

 生きていて良かったと思ったことは一度もなかった。


 最初の記憶は、刃物を振り下ろしてくる母親の姿。

 身体を捻り、叫びながら逃げ惑ったのを辛うじて憶えている。


 食糧が不足すれば子も食される。

 飢餓とは甘いものではない。自分が死ぬか、相手が死ぬか。


 弱ければ死ぬ。死にたくなければ弱者を殺すしかない。


 そんな世界で生きていた。

 俺は幼い頃に母親から殺されそうになったが逃げ延びた。


 記憶も曖昧な幼子が普通そんな真似は出来ない。

 俺は幼い頃から身体能力が高かった。


 だからこそ食糧にされそうになったのだろう。

 それから俺は森の中で獣と格闘しながら生き延びるようになった。


 そしてそんな俺を見つけた男。


 ゴブリン族のウロポロス。


 ある意味父親代わりだったかもしれない。

 だがコイツは俺に厳しかった。


 食糧を与え、言語を教え、そして生きる術を教わった。

 おかげで俺は今も生き残っている。

 感謝してもいいとは思うのだが



「デアグレン、いい面構えだそ。今日も凶悪に暴れろよ」

 暴れろ。


 そう俺の仕事は暴れること。

 ウロポロスはそのために俺を拾った。


 広く大きな闘技場。

 沢山の種族が大騒ぎしている。


 俺はこの闘技場に雇われた闘技士。

 同じ闘技士と戦うだけではない。時には獣や魔物とも戦う。

 そういった見世物。


 別に見世物が嫌な訳ではない。

 旨い飯が食えるのだ。そこは不満はない。

 命がけなのも今更。

 俺は森で何度も死にそうになった。


 それよりも嫌なのは


「……これは、勝っていいのか?」

 勝っていいのか。


 勝ち負けはやる前から決まっているのだ。

 純粋な戦闘ではない。


 獣や魔物相手は問答無用で勝ちが決まっている。

 だが相手が言語を解する場合は、どちらか勝かはウロポロスの指示に従わないとならない。


 これに逆らえば俺は闘技士をクビになる。

 今までもそうやってクビになった連中を見てきた。


 俺はウロポロスには逆らわない。

 こいつが負けろと言えば負けてきた。

 だがそのフラストレーションは限界に近い。

 ウロポロスは俺の葛藤を理解していないようにしか見えない。

「闘技士なら勝ちも負けも無いだろう」が口癖。


 だが、実力では劣るであろう相手にボコボコにされ、観客から「弱い」「臆病」と詰られるのは何度やっても慣れない。


 それでも俺は、あの森の生活には戻りたくない。だから今日も戦う。

 だが、いつか……


「今日は勝て」

 今日はか。だがいずれ負ける。

 俺は凶悪な面構えをしている。

 身体もデカい。


 そういう奴は正義役の闘技士にいつか成敗される役回り。


 だがその前には「こいつは凶暴で強いですよ」というのを観客にアピールしないといけない。


 俺はウロポロスの言葉に頷きゆっくりと歩いていく。

 闘技場。俺が食っていく場所。


 勝ち試合はいい。

 入る時の歓声が心地良い。

 例えそれが罵声でも。


「デアグレン!!! 今日こそ負けちまえ!!!」

「惨めに逃げ回れ!!!」


 観客からの声。

 この闘技は賭けの対象でもある。

 俺に向けられる「負けろ」という声は切実なものだ。


 俺が勝つ事で、この罵声を浴びせた連中は大損をする訳だ。


 ざまあ見ろ感が強い。だがこれが負け試合だとコイツらを喜ばせることになる。


 それが嫌で嫌で仕方ない。

 幸い今日は勝てばいい。


 俺は大きな身体を揺すり

「ウォォォォォオオオオオオオッッッ!!!!!!!」

 叫んだ。


 種族的な特徴もある剛毛。

 そして巨大な身体。


 俺はオーガー(巨人)族という種族。

 身体は他の種族よりもデカい。人間とは倍まではいかないにしてもそれぐらいはある。


 粗暴で狂暴と言われているが、他のオーガー族とマトモに話をしたことが無いから分からない。俺は少なくとも他の種族よりも粗暴でも狂暴とも思えない。


 これは全て演技。

 生き抜くための演技。


 だが、この演技に皆は熱狂してくれる。

 そして目の前にいる対戦相手も怯えている。


 相手は負け役が決まっている騎士。


 何故騎士が負け役などやっているのか。

 俺には分からない。だが相手はそれを承知でここに立っているのだ。


 であればこちらは徹底して悪逆を行うのが礼儀。

 そういう役回りなのだ。

 与えられた役回りも出来なければ廃業するしかない。


 俺にとって、それは『死』だ。



『さあ! 今日三戦目はオーガーの闘士デアグレンと! 亡国の騎士アレンバルド!!! こちら対戦倍率はデアグレンの1.6倍! アレンバルド5.4倍と差のある試合となっております! 解説のギャバダンさん。やはり体格差は大きいですか?』


 闘技場に響く声。

 魔法により闘技場中に声が鳴り響く。

 実況と解説。これは必ず試合につく。


 盛り上げるためなのだが、もう一つの役割は

「また見たいと思わせるため」


 単なる賭事だけでは弱い。戦い自体にストーリーを持たせ、エンターテイメントとすること。これで観客は「また来たい!」となる。


 だから実況も解説もいる。

 その解説者はウォーウルフと呼ばれる種族で、二足歩行する狼のような形状。

 何度かウォーウルフと戦ったがどれも強い猛者。だが、実況に座っているというのは基本的に引退した者。ギャバダンという解説者も年をとっているように見える。


『体格差は重要ですから。基本的にあの身体で押しつぶされれば技術もなにもない。素早く動き回るしかないですが、デアグレンは巨体なのに動きが素早いですから。アレンバルドが不利というオッズは正当な評価かと』


『なるほど。ですがギャバダンさんは巨体ではありませんがオーガー族を何度も破ってきた歴戦の勇者。対策も当然あったと思いますが』


 実況のフリに苦笑いし

『ウォーウルフは素早さが命ですから。実質裸で戦っていました。裸ならば掴まれ難い。だがアレンバルドは……まあ仕方ないですが鎧を着込んでいる。これでは掴む場所がたくさんありすぎて……。まあ、不利です。闘技というのは事前準備で全て決まると言っても過言ではありませんから……』


 事前準備で全て決まる。

 まあその通りだ。ここに上がった段階でもう勝敗は決まっている。


 目の前の騎士は怯えを隠そうともしない。

 そういう演技かは分からないが、戦う以上闘志は出してもらわないと。

 一方的な展開では闘技とは呼べない。

 事前に技の掛け合いを打ち合わせすることも多い。だが、この試合は成り行きでの戦い。


 相手は剣を持っている。

 本来剣は打ち合わせしないと、入りどころが悪ければ致命傷になる。


 またわざとらしい切り筋は観客にバレやすい。


 だから成り行きの戦いだと向こうも本気でかかってきて、こっちも本気で対処するぐらいでないと対応が出来ないのだ。


 闘技前にはパフォーマンスというものがある。

 昔は対戦相手をなじりあうというのが主流だったのだが、最近は歌や舞を披露するというのが人気になっていた。


 ただ俺に関しては粗暴で狂暴なオーガーという事から未だにそういうなじりあいをやらされる。

 ただ俺はそんなに会話が得意ではない。

 相手をこき下ろすというのは実際は知性と教養が求められる。

 俺にそんなものはない。

 だからやることは


「俺は最強だ! 好きなように攻めてこい! 俺がぶちのめしてやる!!!」

 俺が最強。俺は強い。俺が凄い。


 そういう「俺が」というアピールは単純。

 粗暴で狂暴というキャラな以上、こういう自己愛と自信に満ちたアピールはマッチしていた。


「……くっ!!!」

 相手は剣を既に抜いてこちらに構えている。

 それはいいのだが

「……………?」

 入場口にいるウロポロスの方を見る。

 相手からのアピールが無いのだ。


 普通両方やってから試合なのだが。

 するとウロポロスは俺の方を見ずに、アレンバルドに向き


『は や く や れ』

 と身振り手振りで指示している。


 アレンバルドを見るにどうも緊張と怯えで頭が真っ白になっているようだ。


 ならば


『あーーーー!!!!! 試合開始の合図前にデアグレンが動きました!!! そのままアレンバルドに突進!!!』


 俺のキャラは凶暴、極悪。ならば試合開始の合図前に暴れるぐらいでちょうどいい。


 するとアレンバルドはとっさに後ろに下がる。

 動きは俊敏。鎧を着ているのにこの速さは凄い。

 負け役とは言え、こんなオーガーにぶつけられるだけある。


 俺はそのまま拳を突き出し、相手を思いっきり吹き飛ばす。

「ぁぁああああああああっっっっ!!!!」

【ガンッッッッ!!!!!】


『うおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!!』

 吹き飛んで壁に当たるアレンバルドに、会場はどよめきと歓声。


 今のは『掌底破(オーガークラッシュ)』とウロポロスが名付けた俺の技。


 掌の手首に近い部分で相手を攻撃する。

 手の大きい俺がやると、そのダメージは重く相手が吹き飛ぶのだ。


 これを生身の身体に直接ぶつけると骨が折れたり、深刻なダメージを相手に与えるが、鎧などに当てれば、相手は吹き飛ぶだけで身体へのダメージにはあまりいかない。


 吹き飛びはするので見た目は派手で、相手は試合続行可能ということで、こういった闘技で求められる技。


『デアグレンの奇襲!!! アレンバルドが吹き飛びました!!! 気絶はしていないようですが大丈夫でしょうか!!!???』

 解説者の絶叫と


『……うん、まあ……なんか緊張していたみたいですし……』

 解説者のギャバダンは言いづらそうにゴニョゴニョしている。多分今の奇襲の意味を解説しずらいのだろう。


 俺はそのままアレンバルドにのしかかるように迫る。


 すると

「くっっっ!!! くるな!!!」

 吹き飛ばされても離さなかった剣。

 その剣で思いっきり俺に斬りかかる。


 咄嗟に腕を交差させる。

 剛毛、筋肉をアピールするために身体はほぼ半裸。

 だが腕には籠手をつけていた。

 剣はこの籠手で防ぐ。


 動きはよく見える。迫り来る剣を籠手でしっかり受け止め……


【ガンッッ!!!】

 想定以上の衝撃。


 適当に振っているように見えたが実際はかなり腰の入った一撃。

 籠手が無ければ骨にまで到達したかもしれない威力。


 一撃ぐらいは肉で受け止めようかと思ったが、これは無理だ。


「ぐううううううっっっっっ!!!!!」

 俺は叫びながら籠手を剣に押し付け、相手にのしかかるように体重をこめる。


「……や!!! やめろ!!!!!」

 アレンバルドは怯えた顔で…………

 あれ?


 間近に見てやっと気付いた。

 兜と鎧に身を固めていたから気付かなかったのだが、押し倒した時にずれた兜から見えた顔。そして男にしては高い声。


「……お前、女か?」

 別にそれに合わせたつもりはまったくなく。

 籠手で押していた腕が、そのまま鎧の胸当てのところにくっつく。


 その瞬間


「キャアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!」

 アレンバルドは思いっきり俺の顔をひっぱたいた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです! [一言] 追ってまいりますので、執筆頑張って下さい!!!
2023/06/06 22:22 退会済み
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