第2話 部室
「部室寄ってくー?」
上靴に履き替えながら、茜が聞いてきた。
んー。そうだなぁ。
時計は……。8時20分か。
あと10分で朝の会始まっちゃうけど……。
「行こっか。先輩いるかもしれないし」
「よっしゃ」
急ぎ足で渡り廊下を渡り、A棟からB棟へ。
B棟の1階にあるのは生徒会室とか、演劇部とか、囲碁将棋部とかの部室。
そこから2階に上がってすぐの所に「なんでもない部」と大きな貼り紙があるちっさな部屋がある。
そこがら私たちの部室だ。
「お!電気ついてるよっ!先輩いるね!これ」
茜が嬉しそうに声を上げ、ドアに手をかけて勢いよく開け放つ。
「こんちゃー!先輩、今日もいい天……あ」
あーあ。
ニッコニコだった茜が一瞬にして固まった。
茜の元気な挨拶と共に元気にドアが外れたのだ。
「あああっ!大丈夫?壊れてないかな、これ」
「もー。ドアを開けるときは普通手加減するんだよ」
「ふふ。大丈夫。外れただけでしょ」
教室の奥に座り、落ち着いた声で笑うのは立花美咲先輩だ。
「良かった。2人とも、顔見せに来てくれたのね」
「本当はもっと早く来れるはずだったんですけどねー。誰かさんが忘れ物しちゃって」
「あら。茜。何忘れたの?」
「下敷きです」
「なによ。その取りに帰るレベルのものではない忘れ物」
なーんて話しながら私たちも先輩と机を挟んだ椅子に座る。
よっこいしょ……と。
美咲先輩は、3年生で私たちの2コ上だ。
高い背に、長くてきれーな黒髪、切れ長の目。
とにかくかっこいい先輩なの。
正直、こんな「なんでもない部」の部長で収まってていい人じゃないんだよね。
先輩は運動も勉強も凄いんだから、もっとキラキラした運動部の部長とか、生徒会とか、向いてると思うんだけどなぁ。
けど、その「なんでもない部」の創始者が美咲先輩なんだから、それも不思議な話だ。
せっかくだから、なんでもない部の他メンバーも紹介しようかな。
つまり、わたしと茜だ。
ここにいる3人しか部員はいないからね。
わたしは三枝杏。
この高崎市立文華中学校の1年5組、出席番号14番。
好きな食べ物はホイコーロー、嫌いな食べ物はキノコ全般。
私、お父さん、お母さんと高校1年のお兄ちゃんの4人家族。
誕生日は7月6日。つい最近、晴れて13歳になったの。
特技は…竹馬かな。あと缶けりもすっごく強い。
つづいて、茜についてね。
改めて、フルネームは木暮茜。
もうみんな何となく分かってるかもしれないけど、元気で変なやつ。
出会ったのが小2の時だから、かれこれ5年以上の付き合いだ。
好きな食べ物はおはぎと焼きおにぎり。嫌いな食べ物はないね、多分。
「虫とか以外なら何でも食べれる!」
って小学校の給食のあまりを食いつくしてたから。
そしてあんだけ給食食べたのに帰り道で花の蜜吸って回るんだもん。
いろいろすごいよ。
特技は100マス計算。
といっても数学ができるわけじゃないんだよ。
計算が速いのは100マス計算限定。
ね、いろいろとおもしろいでしょ、茜。
あ、まずい。もうすぐ朝のホームルームの時間だ。急いでいかないと。
――え?なんか活動したのかって?
机囲んで水筒片手にティータイム過ごしただけだよ。
言っておくと、「なんでもない部」は本当に「なんでもない部」なので活動と言ったらいっつもこの水筒ティータイムくらいなの。
「よし、帰りましょ。杏、茜」
「はーい」
「先輩!授業頑張ってください!」
「2人もね。また放課後」