第1話 登校
「杏っ!」
学校へ続く坂道をぼーっと歩いていた私ー三枝杏は突然後ろから抱きつかれて大きくつんのめった。
「もう、茜。驚いた〜!」
「ごめん、ごめん」
謝罪の言葉とは裏腹に意地悪な笑顔を浮かべているのは木暮茜。
私の小学生の頃からの親友で、今、つまり中1のクラスも一緒だ。
今日も一緒に登校するはずだったんだけど、茜が「遅れるから先行ってて!すぐ追いつく!」なんて言うもんだから、のんびり1人であるいていたのだ。
茜が遅れるなんていつもなのにね。
「いや〜、朝から走ると疲れる疲れる」
爽やかに水筒をがぶ飲みする茜だが、実はその中には温かい梅こぶ茶が入っている。
彼女いわく、「校則にかからないギリギリのライン」らしい。
「しかし、明日から夏休みだね。今日も授業は午前で終わるなんて素晴らしい」
茜が言うとおり、明日7月22日から晴れて夏休みに入る。
先週まで定期テストだったんだから、分相応のご褒美だよね。
夏休みはどうしようかな。今のところ予定が0なのは何かの間違いであって欲しい。
「ちょっと杏?私の声聞こえてる?」
「ごめんごめん、ちゃんと聞こえてる。あと明日遊ぼ」
「うん!もちろん!」
そんなことを話していたらもう学校が見えてきた。
この坂道を登れば私たちの学校、「高崎市立文華中学校」だ。