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第5話 辞めることってできないかなぁ?

「ただいま」





 玄関では何故か姉ちゃんが立っていた。


何かちょっと機嫌が悪いみたいだ。そんな機嫌悪そうにしてたら妖艶で優雅なアイドル、桐生水沙が台無しだぜ。




 でも正直、今は姉ちゃんよりも日曜に決まったデビュー現場を成功させる事の方が大事だ。


今日が木曜だから早速、台本と音源を確認しなきゃな。と、思いつつ俺は姉ちゃんの横を通り過ぎようとしたら、思い切り肩を掴まれた。えっ、何?





「連くん、お話があります」


「話?なら別に後でも…。今日はもう遅いし」


「今しないとダメな話なの!」





 姉ちゃんにそう押し切られて、俺はそのままリビングに連行された。ああ、早く音源と台本確認したいのに…。





 リビングで俺と姉ちゃんが向い合せになった。


改めて見ると姉ちゃんの出るところは滅茶苦茶出て引っ込んでいる所は引っ込んでいる、正に理想のスタイルだ。我が姉ながらこのスタイルを維持できているのは凄く感心する。「エロ女神」なんて呼んでいる輩もいる様に確かにその体は人の寄っては情欲を誘うものかもしれない。そのスタイルは今も成長中の様でやたらと「ブラが合わなくなっちゃった~」とか俺に言ってくる。俺に言ってもどう仕様もないだろ、そんな事。


 まぁ別にそれはどうでもいい。


俺にとっては単に姉だしな、ただ今後スーツアクターとして体型を維持する為にも色々姉ちゃんに聞いた方が良い事もあるかもしれないなと思った。




 俺がそんな事を考えていると真剣な表情で姉ちゃんが口を開いた。





「連くん、アクションチームに入ったって本当?」





 真剣な表情で何を言うかと思ったら何だそんな話か。





「うん、そうだよ」





 俺もさも当然という風に答えた。


と言うか俺、姉ちゃんに言ったっけ?父ちゃんと母ちゃんには言ったからその経由で知ったのかもしれない。


 わざわざ姉ちゃんに面と向かって言う様な事でも無いと思うし。





「それさ、辞めることってできないのかなぁ?」


「はぁ!?」





 いきなりそんな事を言っている姉ちゃん。急に何言い出すんだこの人は?





「何で?」





 俺は純粋に問い質したかった。どうして姉がそんな事を言うか理解できなかったからだ。


 俺は正直、RAMに所属できて心から良かったと思っているし、それで毎日が充実している、そして今度の日曜は叶さんが与えてくれたデビュー現場なんだ。何としてもやりたい。


 それにこれは俺個人の話だ。姉ちゃんが横から口を出す必要なんかない。というか姉ちゃんにとって俺がRAMに所属する事にメリットも無ければデメリットも無いはずだ。





「何でって…。それは勿論連くんと一緒にいたいから……」


「いや、今でも一緒にいるじゃん」


「…っ!!…もう本当この子はぁ……」





 姉ちゃんが顔を覆っている。というか、俺より姉ちゃんの方が忙しいじゃん。


 ウチに帰ってくるのもいっつも遅いし仕事先で泊まり込みとかの日もあるし。それ自体は超人気アイドルグループの宿命なんだろうなと思っているけど。




 姉ちゃんの言いたい事がイマイチよく分からない。





「とりあえず姉ちゃんが何を言いたいのかよく分からないけど、俺はRAMを辞める気は無いよ。俺も折角見つけたやりたい事なんだ。姉ちゃんはアイドルやってるのに俺には辞めろは割に合わないよ」





 俺はまっすぐ姉ちゃんの目を言ってそう言った。そこに俺の迷いはない。


姉ちゃんがアイドルをやって弟がスーツアクターをやっちゃいけない、そんな話があるか。





「う~ん、そんなにその仕事が大事なんだね?」


「うん、大事。姉ちゃんだってアイドルの仕事大事でしょ?」


「それはそうなんだけど…。もう何で分かってくれないかな……」





 口をつぐむ姉ちゃん。でもしばらくして開き直った表情になった。





「分かったよ。連くん。今回のこれは私の我儘。私は好きな事やって弟にはやらせないはおかしいもんね。でも、代わりに条件があります」


「条件?」





 俺は首を傾げる。


正直、姉の言う事に着いていけていない。





「私が家に居る時は今まで以上に一緒にいる事!勿論寝る時もです!という訳で今日は一緒に寝るの!」


「いや、俺今から台本と音源の確認が…」


「寝るの!」


「いやだから…」


「寝るの!」


「……はい」





圧倒的な姉の圧に俺は折れた。


仕方ない、台本と音源の確認は明日やるか……。

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