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第29話 アイドルなお姉ちゃんと登校

 先々週、俺は初めてキャラクターショーのステージに立った。戦闘員を演じる俺の一挙一動で会場の子供達は怖がり、喜び、楽しんだ。

 あの子供達、観客の視線を浴びてのパフォーマンスは楽しかった。病みつきになりそうだった。今週末から来週末まではゴールデンウィーク、その病みつきになる感覚を毎日味わうんだ。勿論、毎日現場に入る事に対する不安や緊張が無い訳では無い。でも、あの子供達からの熱い視線はずっと浴びていたい。そう思えるものだった。


 なるほど、これは姉ちゃん達がアイドルとして活躍する事に通じているのかもしれない。

姉ちゃん達も沢山のファンの熱い視線を浴びながら、ライブやイベントをこなしている。

 俺が感じたものを姉ちゃん達が感じていると思えば、そりゃアイドルとして活動する事への意欲の原動力になるなと改めて思う。



 だが、今、俺は周りの生徒達から嫉妬の籠った目、奇異なものを見る目、憎悪を感じる目、そういった視線を浴びている。正直、この視線は浴びたくないものだった。


 何故そんな視線を浴びているかって?それは俺と姉ちゃんが腕を組んだ状態で登校しているからだ。しかも姉ちゃんは必要以上にくっ付いてきてその大きな胸を思い切りそれこそ変形する位に俺の腕に当てている。

 姉ちゃんに「やめてくれ」と言ったが「気にしなくて大丈夫だよ♡」と俺の心配をガン無視してきた。やっぱり俺と姉ちゃんは何か認識に齟齬がある。



 学校が近づくにつれ、生徒達の数も増える。それに伴い、俺達への視線はより多くなる。

「水沙様に彼氏が!?」「おい、あの野郎は誰だ!」「この怨みはらさでおくべきか!」とか聞こえる。


 あー、周りの視線が痛い。つうか俺、大丈夫かな。

何とかなるなる!とか星を護る使命を持った天使は言うが、正直何ともならない気がする。



「なぁ姉ちゃん」

「ん?何かな?」

「もう学校も近いからそろそろ腕離そうよ」

「何でかしら?」

「何でって…。周りの視線が痛いし怖い。それに変に勘違いされたら姉ちゃんにも迷惑がかかるだろ」

「迷惑なんてそんな事、私は思ってないわ。それに勘違いされても大丈夫。ちゃんと姉弟ですって説明すれば皆分かってくれるから」

「いや、それはそれで後が面倒なんだよな…」

「もう連くんは色々気にしすぎ。もっと毅然としてなきゃ」



 弟の心姉知らずとはこの事か。

 言わないとダメなんだけど言ってものれんに腕押しなだけなんだよなぁ。参ったぜ。そりゃないぜ。

 そんな暗い心持ちでいると一人の女子生徒が俺達に寄ってきた。

ネクタイの色が赤、という事は3年生。姉ちゃんと同学年か。縁英高校は学年毎にネクタイの色が違う。俺や穂希達1年は青、綺夏達2年は緑、姉ちゃん達3年は赤という様にだ。

っと、これは余談だな。



「おはよー、桐生さん」

「おはよう葉山さん」



 見た感じ姉ちゃんとは前から知り合いみたいだ。余り人に関心が無い俺と違って姉ちゃんはアイドルという職業柄もあるが人当たりが良く、コミュ力も高い。だから案外交友関係は広い、所謂陽キャ、スクールカースト的には最上位といった感じだろう。葉山さんと呼ばれた女性もショートカットで活発で明るそうな印象の人だ。この人もどっちかという陽キャなんだろう。


 しかし、姉ちゃんのキャラ変わりは凄い。俺の前だとただのポンコツだが他人の目がある所だとイメージ通り妖艶で優雅、大人びた余裕のある態度をとる。これは別にアイドルになったからそうなった訳では無い。昔から姉ちゃんは俺の前と俺以外の人の前ではキャラが変わるのだ。せめて俺の前でもそのイメージで接してくれたら俺も楽なんだが…。


 ほら髪をかき上げる仕草も様になっている。フワァって効果音が聞こえてきそうだ。その動作だけで周りから黄色い声援が飛ぶ。



「ねぇ、隣の人誰?ネクタイの色からして1年生だよね。まさか、年下の彼氏がいたのっ!?」



 一人でテンションを上げる葉山さんと言うらしい先輩の女子生徒。いえ、彼氏ではありません。あれ?そういえば姉ちゃんって彼氏いた事あんのかな?アイドルとしてデビューする前からやたら告白とかはされていたけど全部断ったという話はよく聞かされていたけどどうだったっけ?興味ないからあんまりちゃんと覚えてないぞ。

 姉ちゃんの方を見ると何だか満更でもない表情をしている。ひょっとして俺を利用して変な男が言い寄ってこない事でも狙っていたのか?それなら俺も理解できる。やはりアイドルは大変だ。



「いえ、残念だけどこの子は彼氏では無いわ。私の弟よ。連って言うの」

「へぇ~弟君かぁ~。確かにそう言われてみるとちょっと強面だけど、パーツパーツは桐生さんに似てるね。それにしても姉弟で腕を組んで登校とか仲良いんだね」

「えぇ、この子は昔からお姉ちゃんっ子でシスコンなの。昔からいつも私の後を付いてきてね。今日も私が久しぶりに朝から登校するからお姉ちゃんと一緒に登校するって聞かなくて。それでこうして来たという訳よ」



 おい!さらっと嘘吐きやがったぞ!この姉!何が俺がお姉ちゃんっ子だ。何が俺がシスコンだ。何が俺が一緒に登校したいって聞かないだ。全部逆だろ!逆!俺の記憶では姉ちゃんの後を付いていった事なんて一度たりとも無いぞ。姉ちゃんの事はあんまり覚えてないけど、自分の事はちゃんと覚えてるからな!アクマの紋章の前でも頭痛が起きないレベルでな!



「へぇ~シスコンなんだね、弟君」

「ええ。この子にも早く姉離れしてもらいたいのだけど絶対無理ね。だからこの子に何を言っても無駄よ。私の事が一番好きみたいだから」



 何か俺が初対面の人に物凄い勢いで勘違いされていく。3年生だから顔を合わせる機会はそれほど無いし、恐らく次会った時は顔も覚えていないだろう。でもこうして嘘に嘘を積み重ねられていくのは何となく癪に障る。

むしろ姉ちゃんがさっさと弟離れするべきだろう。

俺は姉ちゃんが好きなシスコンではない。どちらかというとロボコンの方が好きだ。ウララ~。



「でもそういう弟がいて羨ましいな。私は一人っ子だからさ、そういう兄弟愛的なものにちょっと憧れるんだよね~」

「そういうものかしら?それは隣の芝は青く見えるというものではないかと思うけど」

「あはは!そうかもね!あ、私は葉山千草(はやまちぐさ)って言います。弟君、これからもよろしくね~!」

「はぁ…」



 自己紹介をしたらそのまま去って行ってしまった。あの人には俺がシスコンだと勘違いされたままなんだろうな。あの人経由でその誤解が広まってしまったら…そう思うとゾッとした。



「姉ちゃ~ん……」

「どうしたの?連くん?まさか葉山さんに一目惚れとかっ!?そんな事無いよね…」

「そうじゃない。誰がシスコンだって?」

「え?そうじゃないの。お姉ちゃんは連くんが好き。連くんはお姉ちゃんが好き。そういう事でしょ?」

「シスコンって訳じゃないだろ俺は」

「大丈夫だよ。私は連くんがシスコンでも気にしないから。いやむしろ嬉しい、かな……」

「何でそこで顔を赤くするのさ…」



 何となく話が嚙み合わない確信があったのでこれ以上追及しても無駄だと悟った。

しかしこれだと高校生活も波乱含みになりそうだ…。

 俺は一人肩を落とした。


葉山さんは完全なゲスト枠になるかと思います。

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