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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者(?)復活

作者: 藪地朝陽

言い伝えや都市伝説といったものは長い時間が経つと事実と内容が大きく異なってしまうという内容です。ラストに50年後の話を追加しました。

ある王国にこんな言い伝えがある。


王国には勇者がいる。その勇者は凄まじい力を持ち、剣だけでなく強力な魔法の使い手でもある。そして、勇者はその力を以て悪しき帝国の魔帝を滅ぼした。その後、勇者は戦いを終えた後に自身を封印するように頼んだ。後の世に再び王国の危機が訪れた時に再び王国の救いになれるようにと。勇者は今でも王城の地下に眠りについているという。




現在、その王国は……………隣に存在する帝国との戦争の真っ只中だった。両国の戦力は殆ど互角。しかし、帝国は魔法を扱うことに長けた者が多くいる。王国にもいないことはないが、数は圧倒的な差がある。このままでは王国の敗北は時間の問題とも言える状態だった。魔力が蓄えられた魔石が少なくなっている今、自力で魔法を扱える者は貴重だからだ。


国王は頭を抱えていた。どうすれば帝国に勝つことが出来るか? 彼の頭の中はそれで一杯だった。


そんなある日、宰相が国王にある提案をした。


「陛下、こうなれば勇者を復活させる時かと」

「………? 勇者だと? 勇者というと、王国に伝わるあの言い伝えの?」

「はい。言い伝えによれば……勇者はおよそ300年前、絶対的な力を持って数代前の魔帝を滅ぼしたとあります。その勇者の力を使えば、長きに渡る帝国との戦争を終えることができますぞ」

魔帝というのは帝国の皇帝の別名だ。魔法を使うのに長けた皇帝だから魔帝とそう呼ばれている。


「しかし、勇者は今王城の地下深くに封印の眠りについている。封印を解くのにも相当な魔力を用いる。この戦争中に迂闊に貴重な魔力を消費するというのは……………」

「言い伝えによれば勇者は魔法にも長けているとのことです。これなら帝国にも勝てるやもしれません」

「……………うむ。分かった。勇者を蘇らせよう」



ーーーーーーーーーーーーーーー

それからおよそ1ヶ月程経ち、勇者の封印されている棺桶が地下から謁見の間に運ばれて来た。棺桶には強力な魔法で封印されており、解除に時間が掛かったが、やっとのことで昨日解くことが出来たのだ。兵士達が棺桶を立てると、扉がぎぃぃぃーーーーーーと大きな音を立てて開いた。そこにはある1人の男性が立っていた。


男は黒髪黒目の20代くらいの年齢だった。服は漆黒という表現が似合うような黒い鎧を身に纏っている。


国王が厳かにその男性に尋ねた。


「そなたが勇者か?」

男は答えなかった。ただジッと王を見つめるだけだ。周りにいる兵士達や宰相は不敬だと睨む。国王は特に気にした様子はなく、それを肯定と考えて命令を出した。


「そなたが勇者なら頼みがある。今我が王国は隣の帝国との戦争の真っ最中でな。そなたの勇者の力を以て帝国との戦を制して欲しいのだ」

「……………つまり、帝国によって滅ぼされないためにこの国を帝国から守れ(・・・・・・)…………というのが俺の仕事か?」

ここでようやく勇者が口を開いた。国王は頷いた。


「そうだ。やってもらえるか?」

国王の問いに勇者はニッコリと笑い、答えた。


「喜んで」

そう言うと、勇者は瞬時にドッチボール程の大きさの火の球を作り出して横の兵士達に放った。いきなりの勇者の攻撃に兵士はすぐに動けず、あっさりと焼き消されてしまった。今の攻撃で2、3人の兵士が簡単に殺された。しかも、救世主となったはずの勇者の手によって。勇者以外の誰もが動くことが出来なかった。そして、勇者はまた数人の兵士の首を剣であっさり飛ばしていく。やがて国王が絞り出すように声を上げる。


「ゆ、勇者よ。い、一体何を…………?」

勇者は国王の方に振り向くと良い笑顔で答えた。


「何って……この国を帝国から守っているんですよ」

勇者の答えに国王含め、その場にいる全員は訳が分からなかった。王国を守ることで何故その王国の兵士を殺しているのか? 勇者は言葉を続ける。


「帝国は戦争で王国を攻めている状況だ。そして、王国は帝国に滅ぼされたくない。なら、俺が帝国に滅ぼされる前に王国を滅ぼしてしまえばいい。それなら、帝国に滅ぼされることなんてないだろう。もう存在しないんだから」


勇者がドヤ顔で恐ろしいことを口にしている。その場にいる全員が恐怖で顔を歪めた。


「ゆ、勇者…………そなたは……………」

「ん? ああ、後、俺勇者じゃないから」

『え?』

その場にいる全員が同じことを呟いた。

「俺は元々は帝国から召喚された魔道騎士だよ」


勇者の話によれば、彼はおよそ300年前……帝国によって異世界から召喚されたらしい。しかし、魔帝の指示(帝国を隣国から守って欲しいという指示)に従って魔帝を殺し、帝国を殆ど壊滅状態にしてしまったのだ。今の勇者の理屈に従って。そして、勇者は自分が殺した魔帝の指示の元、単身で王国を攻め、遂にはそのまま封印されてしまったのである。


事実は王国に伝わる言い伝えとは大きく異なっていた。国王や宰相は愕然としていた。そんな様子を尻目に勇者はさっきの火の球とは比べ物にならない大きさと威力のものを作り出していた。


「まぁ、いいや。というわけで王の命令通り帝国に滅ぼされないようにするからさ」

国王が我に返って兵士達に命令して勇者を止めようとしたが、もう遅かった。


「よせ! やめろ!!」



ドガガーーーーーーーーーーーン!!!!!!!



凄まじい爆発が起こった。その爆発は王城は勿論、城下の街まで吹き飛ばされてそこにいた全ての人々を呑み込んだ。老若男女問わず何もかもだ。彼らは一体何が起きたのかも分からなかっただろう。


しばらくして煙が晴れてくると、建物は崩壊して沢山の骸が散乱し、見るに耐えない地獄絵図が広がっていた。そんな場所に勇者はただ1人、楽しそうに笑っていた。


「はぁーーー、やっぱり爆発系魔法はスカッとするなぁ。これでまた、沢山人をぶっ殺せるよ。ここに来る前は何人か殺したせいで死刑囚になっちゃったし、ここに来たら何百年も封印されたしなぁ……… でもまぁ、いいか。王国でちょっと遊んだら、帝国にでも行ってまた魔帝をぶっ殺そうかな。前みたいに(・・・・・)


そう言うと、勇者は高笑いした。





ーーーーーーーーーー

「………と魔道騎士様は悪しき王国を滅ぼし、帝国に勝利をもたらした。そして、彼は帝国の平和のため、帝国の危機に対して救いになれるようにと眠りについた…………とされている」

「わーー! お祖父ちゃん、魔道騎士様って凄いんだね! 僕も大きくなったら魔道騎士さまみたいに強い男になりたい!」

「フォッフォッ、きっとなれるぞ。さて、外で遊んで来なさい。子供は元気に遊ばんといかん」

「うん、分かった!」

そう言って子供は外に遊びに行った。そして、残ったお祖父さんは一言ポツリと呟いた。


「魔道騎士様、いや『勇者』が封印されてもう50年か………… 既に真実を知る者は儂1人になってしまったのう。だが、その方が良いのかもしれんな。もう戦争などないだろうし」

そう言ってお祖父さんは窓から空を眺めた。よく晴れた青空の中、数羽の白い鳥が飛んでいくのが見える。お祖父さんはもう2度と戦争が起こらないことを祈りながらしばらく空を見つめていた。

勇者の簡単な設定です。


勇者

王国によって封印されておよそ300年の時を経て蘇った。しかし、その正体は約300年前に帝国が召喚した魔道騎士(帝国版勇者)だった。召喚される以前は連続猟奇的殺人を行なって死刑宣告された死刑囚。生粋の殺人狂。召喚によって非常に強大な魔法と剣の能力を得た。魔帝から現在の国王と同じような命令を受けて上記の理屈で殺害、多くの帝国民を虐殺した。その後、王国に行って王国民を襲った。王国によって封印された。しかし、魔帝を滅ぼしたという事実から『勇者』と呼ばれ、300年近く時が経ったことで真実とは異なるものとなってしまった。王国にも帝国にも特に興味はなく、ただ殺せれば良いという考えの人格破綻者。そして、また帝国を攻めて再び封印された模様。

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