表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死後の世界を破壊する  作者: 田村宗也
第1章 死者の世界
9/15

第9話 主

「っ!」


痛みと疲れの残る体に(むち)を打ち、俺は必死で冒険者達について行く。冒険者一行は今、(あるじ)の元へ向けて時計塔内部の階段を駆け上っているところだ。


サイクロプスを撃破した俺達は、守護者の居なくなった時計塔の門を通過し、無事時計塔に乗り込むことに成功した。しかし、俺は先程の戦いの反動により、階段を上るのにも一苦労する体になってしまっている。モンスターが出現しないというのがせめてもの救いか。


長大な螺旋(らせん)階段を無心に駆け上る。数分後にはこの世界の王と対峙(たいじ)し、最後の戦いが始まるだろう。


後方支援部隊の更に後ろ、一行の最後尾につく俺の隣で、俺のことを案じて一緒に居てくれているリリアが口を開く。


「アイル、大丈夫?」

「あ、ああ、何とか」

「そう……でも、あなたはさっきぼろぼろになるまで戦ったんだから、主戦では後方に退避しててもいいと思う」

「……お言葉に甘えるよ、って言いたいところだけど、Aクラスなんだからたぶん一人でも人手は多い方がいいだろ?だから、出来るとこまでは頑張ってみるよ」

「……無理はしないで」

「……ああ。わかった」


さっきの俺の惨状を目の当たりにして、リリアが少ししおらしくなっている。本気で心配してくれているリリアを見て、少女の心根(こころね)の優しさに気づく。


ーー大丈夫。これ以上、リリアに心配はかけないさ。


心の中で優しい少女に、そして自分に向けて、そっと言い聞かせた。



前方を走る冒険者達が徐々に速度を落とす。最後の段を上がると、開けた場所に出た。

その広間の奥に、時計の盤面に空いている穴から外を眺めている人物の影が。


「ダグラス……なのか……」


ラウトが問う。彼がこの世界の主、ダグラス・ハイマンなのであろうか。


「……妻と、娘がいたよ。向こうの世界に置いて来てしまったと思っていたんだがな……。娘は私に向かって、いつもと変わらない笑顔を向けるんだ。それはもう可愛くてな」


外を見たまま男が言う。その横顔からは、男の真意を読み取ることは出来ない。


「どう思う?ラウト」


男が振り向いて問う。その顔は、あくまでも穏やかだった。


「どういう意味だ」


低く抑えた声でラウトが問い返す。男は、ゆっくりと腕を持ち上げ、ラウトを指差した。


「お前ならわかるだろう?」


男の言葉の意味が俺には分からなかった。ラウトの方を見るが、見えるのは彼の大きな背中だけで、表情を知ることは出来ない。


「……それでもお前は、私の世界を壊すと言うのか」


男の言葉にラウトが拳を握り締めていることに気づく。それも、血が出そうなほどに強く。

一度深呼吸をして、ラウトが答えた。


「……ああ。それでもだ。俺には調査団小隊長として、ここにいる冒険者達を元の世界に返す義務がある。だから、お前の望みを聞いてやることは出来ない」


しばし、二人が視線を交換し合う。男の顔は、まだ穏やかなままだった。

無言の時間が流れた後、男が残念そうに口を開く。


「そうか。それならば、仕方ないな」


男と冒険者達の間、広間の中央に、魔法陣が出現する。


「ダグラスさん!」


隣でリリアが叫ぶ。魔法陣からは何体もモンスターが出現し始めていた。


「リリア……お前もここに居たのか。だが、誰が居ようと、私の決意は変わらない」


出現したのは、モンスターの大群だった。恐らく、冒険者の数倍はいるだろう。

男が声を張り上げて俺たちに宣言した。


「私の名前はダグラス・ハイマン!私は、私の世界を守るために、戦う!」


直後、モンスターの大群が押し寄せて来た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ