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死後の世界を破壊する  作者: 田村宗也
第1章 死者の世界
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第6話 賽は投げられた

「寒くなって来たようだし、そろそろ部屋に戻りましょうか」

「あ、ああ……」


衝撃的な話の連続で酷使した頭を、どうにか切り替えて足に力を入れる。

屋上を出ると、リリアが振り向いて言った。


「あと、ラウトさんと話してたんだけど、もしかしたらこの世界にいる冒険者の中に、犯人の仲間か、犯人がいるかもしれないから、注意しておいて」


そう言って階段を降りて行こうとするリリアを俺は呼び止める。


「こんな大事な話、俺にしてもよかったのか?」

「ええ。ラウトさんに許可は貰っているわ。むしろ、アイルにも知っておいて欲しかった。あなたと出会ってまだ一日も経っていないけれど、あなたは信頼できる人だと私は思うわ」

「それはありがたいけど……なんで?」

「あなたは、たぶん嘘をつけるタイプの人じゃないもの」

「そ、そうか?」

「たぶんだけど。だって、私と初めて会った時にいきなり年齢を聞く上に、それを失言だと思ったのか顔をヒクヒクさせて。そんな人が嘘をつけるとはとても思えないわ」

「……」


何も言えない俺を置いて、リリアは身を翻し階段を降りて行く。向こうを向く直前に見えた彼女の横顔は、微かに微笑んでいた様な気がした。


部屋の前に戻ると、シエルと共に隣の部屋に泊まっているリリアが俺に声を掛ける。


「それじゃあ、また明日。おやすみなさい」

「おやすみ」


そう言って、俺達はお互いの部屋に戻った。

ドアを閉めて、ベッドに向かう。ベッドに腰を掛けると、どっと疲れが出てくるのを感じた。


「ふぅ」


小さく息を吐く。壁の時計を見ると、時刻は午後九時を回ったところだった。

ベッドに寝転んで、天井を見る。俺の思考は、自然とさっきの話に向かって行った。


ーー冒険者を殺すため……一体何のために……


まとまらない考えがいくつも浮かんでは消えて行く。

しかし、この問題は考えても仕方のないことだろう。俺はそう思い、無理矢理思考を止めて目を閉じた。



幻思世界に入ってから、二日目。寝癖をつけた俺は、部屋に備え付けられた手洗い場で顔を洗いながら、昨日の夜のことを思い出していた。


リリアの推論が正しければ、この世界には冒険者を陥れようとする者が紛れ込んでいる可能性がある。この隠れ家のメンバーの中に居るのか、どこかに潜んでいるのかは分からないが、どちらにせよ警戒はしておいた方が良いだろう。敵はモンスターと主だけではないという事だ。


うがいをし、寝癖を直すと、机に向かう。机に置いていた剣を腰に帯刀し、同じく机の上にある棍棒に目を落とす。


ーーいるのか、これ……


棍棒を背負ったまま行動するのは、少し骨が折れる。ここにこのまま置いて行くという選択肢もあるのではないだろうか。

俺はしばし逡巡していたが、やがて棍棒を持って行くことにした。背中に背負うと感じる重さに顔をしかめるが、一応使い道はある。


壁に掛けられた時計を見ると、時刻は午前九時半を回っていた。少し寝過ぎたか。

ドアを開け、廊下に出る。昨日とは違って、明るくなり、歩きやすくなった廊下を早足で歩く。階段を降りて一階の食堂に行くと、既に冒険者達で賑わっているようだった。

食堂の入り口近くで立ち止まっていると、横からにゅっと何かを差し出される。


「ほら、少年の分だ。今日はよろしくな」


そう言って肩を叩いて来たのはラウトだ。差し出されたのは、朝食の携帯食。


「あ、ありがとうございます」


肩に置かれた手にビクビクしながら受け取る。また背中を叩かれるのだろうか。


「おう。今日の事については十時から話すから、そのつもりでな」


そう言ってラウトは去って行った。どうやら背中をしばかれずに済んだようだが、去って行くラウトの顔には、今日の戦いに向ける真剣さが滲み出ている。


空いている席を探して食堂の中を進んで行くと、誰かが俺の名を呼んだ。


「アイルさん、こっちです!」


左斜め前を向くと、いくつもある机の中のひとつ、通路側に座ってこっちに手を振る空色の髪の少女が見えた。シエルだ。その隣にはリリアもいる。どうやら俺よりも先に食堂に来ていたようだ。二人の元に向かい、シエルの向かいの席に座る。


「おはよう、シエル、リリア」

「おはようございます、アイルさん!うふふ、お寝坊さんですね」

「うっ」


ばつの悪そうな俺を見て、シエルが微笑む。次いで、リリアが俺に声を掛けた。


「おはよう、アイル。昨日は良く眠れたようで何よりだわ。この状況だからこそ、睡眠は大切だもの」


そっとフォローを入れるリリアを見て、俺も同意する。


「そ、そうだよな。ちゃんと寝ないと、疲れが取れないもんな。それより、部隊編成ってどうなるんだろうな?」


これ以上突っ込まれまいと急いで話題を変える。恐らく俺の考えはバレバレだったのであろうが、リリアは素直に話について来てくれた。


「詳しくは分からないけれど、いつもなら四〜六人編成のパーティーをいくつか作るわね。ここにいる冒険者は大体五十人くらいだから、最低でも八パーティーは出来るんじゃないかしら」

「そうか……」


それぐらいのパーティーがあれば、サイクロプスにも勝てるのであろうか。相手の実力が分からない俺には何とも言えないが、調査団のメンバーを含めて五十人近く居るのだから、心強い。

シエルが気分を切り替えるようにポンと手を合わせた。


「とりあえず、朝食を食べませんか?私、もうお腹ペコペコです」


そう言ってお腹に手を当てるシエルを見て、俺は笑った。



「よーし、全員集まってるか?これから今日のことについて説明しようと思う」


朝食を食べ終わって数分後、ラウトが話し始めた。


「まず、部隊編成の事なんだが、前衛と後衛に分けようと思う。この中で、治癒魔法が使える者は手を上げてくれ」


周りの冒険者達数名が手を挙げる。リリアが手を挙げると、シエルも恐る恐る手を挙げた。


「へぇ、二人とも使えるんだな」


リリアについては凄腕の魔法士(俺の予想)であるから納得だが、シエルが魔法を使えることには驚いた。


「全部で四人か……悪いが、その中で調査団のメンバーは手を下ろしてくれ」


リリアが手を下げる。


「よし、下ろしたな。えーと……三人か。まあ、いいだろう。その三人は、後方支援部隊だ」


そのような感じで、ラウトはいくつかのパーティーを作っていった。後方支援を守る護衛部隊が十人、前衛が三十人、それぞれ五人ずつでパーティーを組む。

そして、残ったのは、二人。

俺と、リリアだった。


ーーあれ、なんか残っちゃったんだけど……?


他の冒険者同士は顔見知りも多かったらしく、すぐにパーティーが決まっていったが、俺は全く知り合いがいなかったため、最後まで残ってしまった。

ラウトが残った冒険者を呼んだので、ラウトのいる前に行く。


「残ったのは、お前らだな。よし、二人は遊撃隊とする。頼んだぞ、リリア」

「はい」


無事役割を与えられ席に戻るが、いまいち何をするのか分からず、リリアに問う。


「遊撃隊……?」

「臨機応変に行動する部隊ね。大人数の作戦ではこういうパーティーも必要なのよ」

「……そういうもんか?」

「そういうものよ」


リリアの反応からして、恐らく本当に必要な役割であるのだろう。そう信じたい。


「よし、これで部隊編成は決まったな」


そう言うと、ラウトは今日の作戦について説明し始めた。広場でのサイクロプス戦、時計塔でのこと、主との戦闘について。それらの話を聞いて、俺は気合いを入れ直す。


「よし、それじゃあ、準備はいいな?勇敢な冒険者達よ、死ぬなよ!?作戦開始だ!」


ラウトの掛け声に応える野太い声とともに、俺達の運命を決める作戦が始まった。

いつも読んで下さっている方、ありがとうございます。

初めて読んで下さった方、ありがとうございます。

初めて後書きを書いてみようと思います。

次からサイクロプス戦です。やっとです。

この回ではあまり物語が動かなかったので少し退屈に思われたかも知れませんが、次から結構動くはずです。たぶん。


最後に、もしよろしければ作品の評価や感想を頂ければ幸いです。特に何も起こりませんが、強いて言うなら作者のHPが回復致します。

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