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死後の世界を破壊する  作者: 田村宗也
第1章 死者の世界
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第4話 作戦会議

「ようこそ、おれたちのアジトへ!歓迎するぞ、少年!」


ガッハッハと笑いながら、スキンヘッドの大男が俺の背中をバッシバッシと叩く。もうそれは結構な強さで。


「は、はい、ありが、とう、ござい、ます」


バッシバッシと叩く。もうそれはすんごい強さで。


ーー痛い……


あははと笑いながら、俺はひたすら背中の痛みに耐え続けた。


約二十分前。


シエルが俺達と行動を共にするようになってから三十分近く経過した時のことであった。建物の陰に隠れながら移動していた俺達は、十人ほどの冒険者の集団に遭遇した。


彼らの話によると、彼らは建物の中に隠れ家を作り、この世界から脱出するための準備をしていると言う。食料集め、情報収集、偵察など、いくつかの班に分かれて行動しており、自分達は偵察班だと言った。


隠れ家に案内すると言われた俺達は、多くの冒険者と合流出来る上に、休める場所も確保できるとあればついて行くしかないと考え、のこのこと隠れ家に来たのだが……。


そこには、うるさいおじさんがいた。


そして、現在。

相変わらず俺の背中を叩く大男を見て、リリアが口を開く。


「ラウトさん?」

「ん?」


ラウトと呼ばれた男は、俺を叩く手を止め、リリアの顔を見るや否や、驚嘆の声を上げた。


「おお!リリアか!まさかお前もこの世界にいるとは、驚いたぞ!」

「私も驚きましたよ。ラウトさんもこの世界に来てたんですね」


二人のやり取りを見ていたシエルが、疑問を口にする。


「あの、この方は……?」


シエルがそう言うと、ラウトはシエルの方を見た。シエルはびくっと体を震わせたあと、背中を叩かれることを危惧したのであろうか、身構える。


しかし、女の子に遠慮できるほどの紳士ではあるのだろう、ラウトはシエルの背中を叩きには行かなかった。リリアがラウトの紹介を始める。


「この人は、ラウト・オンケルさん。私と同じ調査団の一員で、第三小隊の隊長を務めている人よ」

「調査団の……小隊長!?」


俺は驚きのあまり声を上げた。調査団の小隊長ということは、彼は相当の実力者であるということだ。ラウトが肯定する。


「いかにも。おれは調査団アルバ支部第三小隊長、ラウト・オンケルだ。今はこの世界に来た冒険者を集め、脱出のための準備をしている」


そこでラウトは言葉を切り、同じ部屋に居た冒険者の一人に声を掛ける。


「シュナイダー、地図は見つかったか?」


黒い長髪を後ろで結わえ、黒いパーカーにグレーのジーンズという出で立ちをしたシュナイダーと呼ばれた男は、懐から四角形に折り畳んだ紙を取り出して答えた。


「はい。こちらがこの街の地図です」

「見せてくれ」


ラウトが言い、シュナイダーから地図を受け取る。ラウトは部屋の真ん中にある大きな長方形の机に地図を広げた。


「ここが現在地だな。広場、時計塔、役所……」


ラウトが街の施設を指差して行く。この隠れ家は広場から北西数ケイマルトに位置するようだ。


「この地図は役所にあったのか、シュナイダー?」

「はい」

「他に変わったものはあったか?」

「いえ、特にはありませんでした」

「そうか……」


そう言って、ラウトは何かを考え込む。数秒後、ラウトが口を開いた。


「恐らく、(あるじ)が居るのはここだろうな」


ラウトは地図の一点を指し示した。


「時計塔……?」


時計塔は、確か広場の近くにあったはずだ。


「ああ。主は大抵街の中心に近い所か、一番高い所にいる。モンスター達に意思を伝達しやすいからな。だが、中心に近い役所には何も無い。だとするならば、目指す場所は一番高い所。この街で一番高い建物といえば、時計塔だ」


ラウトが地図上の時計塔を人差し指でトントンと叩く。それを聞いて、リリアが口を開いた。


「確かに、その可能性が高そうですね。でも、時計塔に入るためには、恐らく……」

「ああ。たぶん、あのサイクロプスを倒さなきゃならねえ」


その言葉を聞いて、周りの冒険者達がどよめいた。


ーーあのサイクロプスを、倒す!?


俺の脳裏に、広場での一件が蘇る。

あのサイクロプスは、腕を振るだけで冒険者を吹き飛ばし、戦闘不能にさせた。それも、たったの一撃で。そんな化け物を倒さなくてはならないと言うのか。

どよめく冒険者達を制し、ラウトが続ける。


「まあまあ落ち着け。確かに、さっきの出来事を見た後じゃあ驚くのも無理はない。だが、あの男がああなったのは、正面から一人でサイクロプスに飛びかかったからだ。サイクロプスは、正しい戦い方をすれば勝てる相手だ」


そう言うと、ラウトは部屋の中をぐるりと見渡した。


「幸い、今この隠れ家には五十人近い冒険者が揃っている。その内調査団メンバーは六人。これなら、奴にも勝てる」


ラウトの言葉に、冒険者達は安堵の色を滲ませた。どうやら、冒険者達の士気を削ぐことにはならずに済んだようだ。

皆の顔を見渡し、ラウトが切り替えるように言った。


「よし、ここからが本題だ。まず初めに、共通認識を持っときたいことがあるんだが……」


そう言うと、ラウトは首から下げた懐中時計をタンクトップの襟ぐりから引っ張り出した。

そのデザインを見て、俺はぎょっとした。

大男が持つとは微塵も思えないような、ピンク色で、同じくピンク色のハート形がいっぱいにあしらわれた、それはそれは可愛らしいデザインの懐中時計だった。


「あ、あれは……?」


困惑して俺はリリアに問い掛けた。


「ラウトさんはいつもあの懐中時計よ。娘さんに選んでもらったんだって」

「なるほど……」


ラウトは娘を溺愛しているようである。

ざわつく冒険者を気にすることもなく、ラウトは続けた。


「えーこの世界に入ったのが、今から約二時間前の午後三時だ。そして、今は午後五時十二分。あと七十時間でこの世界から出る必要がある」


未だピンクハートのダメージが残っているが、今は話を聞くことに集中する。


「そのためには、あのサイクロプスを倒し、時計塔にいると思われる主の望みを叶えなきゃならねえ。主が何を望んでいるのかわからない以上、一刻も早く主のところに辿り着く必要がある。そこで、明日、時計塔に向かう。戦闘時の班分けは、基本的には連携に慣れているメンバー同士で組むこととする。まあ、今日は疲れてるだろうから詳しいことはまた明日だ」


そこで言葉を区切り、ラウトはもう一度部屋を見渡した。


「明日は午前十時にこの部屋に集合だ。今日の晩飯はこの部屋の出口で配るから、一人ずつ取って行ってくれ。ああ、あと、モンスターから身を隠すため、部屋の明かりはつけないようにな。それでは、解散!」



俺とリリア、シエルは、無人の店から頂戴したという食料に抵抗感を覚えながらも、それらを有り難く頂いた。


二棟ある隠れ家には、冒険者達が二人で一部屋使えるほどの部屋数があったが、作戦会議でもするのだろうか、冒険者達は仲の良い者同士で同じ部屋に入って行った。

リリアとシエル以外に知り合いの冒険者が居なかった俺は、男女で同じ部屋に泊まるわけにもいかず、一人で一部屋使うことにした。


部屋の明かりをつけようとランタンに手を伸ばすが、ラウトが言っていたことを思い出してやめた。暗がりの中、月明かりを頼りに辺りを見回す。部屋にはベッド、机、椅子など、一通りの家具が揃っていた。隠れ家に選んだのは宿屋だったようだ。机に腰の剣と、背中の棍棒を置く。


ーー結局ずっと持ってるなあ……


この世界に来る前は家に棍棒を置いてくるつもりだったのだが、成り行きでここまで持って来てしまった。

ベッドに腰掛け、ひとつ伸びをする。

壁に掛けられた時計を見ると、時刻は午後七時を回ったところだった。

まだ寝るには早いと思い、腰を上げて部屋を出る。

部屋を出ると、左のほうから誰かの話し声が聞こえて来た。少し気になった俺は、音が聞こえた方に足を向ける。


廊下を進むにつれて、声が鮮明に聞こえるようになって来た。廊下の角に差し掛かったところで、慌てて隠れる。どうやらこの角を曲がったところで話をしているようだ。


声の主は……リリアと、ラウト。


「おれも気を付けておくが、リリアも気を付けておいてくれ」

「分かりました」

「頼んだぞ」


どうやら、ちょうど会話が終わったようだった。足音が近づいて来る。


ーーやばい


急いで帰ろうとしたところで、リリアに名前を呼ばれた。


「アイル?」


ぴたっと立ち止まり、ぎこちなく振り向いて答える。


「あ、ああ、リリアか、どうしたんだーこんなところで」


わざとらしく答えると、リリアが怪訝な顔をしてじーっと俺を見た。背中に冷や汗が流れるのを感じながら、リリアの返事を待つ。

すると、リリアが仕方無いとでも言いたげな声音で、俺に言った。


「まあいいわ。今、時間大丈夫?」

「だ、大丈夫だけど……」


月明かりを湛えた唇で、言う。


「少し話さない?」

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