第2話 力の証明
男の背について一階の広間を歩く。周りに居た団員達も先程の会話を聞いていたらしく、修練場に行こうなどと言っている者も居る。後ろからついて来ているであろうジートが何も言わないということは、ジート公認の観戦ということになるのであろう。
広間を抜けて廊下に入る。そこからしばらく一直線の道を歩き、突き当たりを左に曲がる。すると、廊下の先に扉が見えた。
扉は外に繋がっていたらしい。外に出ると、大きな建物が見えた。恐らくあれが修練場なのであろう。
男が修練場の扉を開けると、中から調査団員達の声や木剣を打ち合う音が聞こえた。
内部は思った以上に広い。どうやら木剣や槍などの近接武器のみの区画や、魔法のみの区画などに分かれているらしい。その中のひとつの区画に男が近づいて行く。
「勝負はここでやる。武器は木剣だ。お前の使う力ってのが何に分類されるのか分からねえから、魔法も使える何でもありの実戦形式でやる」
「分かりました」
男が傍らの木剣置き場に近づいて行くので、俺も近くにあった木剣置き場へと足を向ける。そこで俺は観客席にいつのまにか大勢の団員達が居ることに気づいた。その中にはリリア、ジート、レイアも居るようだ。
「やり辛いなあ……」
観客の多さに顔をひきつらせる。今日はどうにも大勢から見られることが多い日だ……。
観客席から目を離し、立て掛けられてある木剣達を見る。恐らく毎日使われているのであろう、使い込まれている跡が見える。しかし手入れは行き届いているようで、表面は修練場の明かりを受けてつやつやと光沢を帯びていた。
その中から手近な木剣を一本選び、男の元へと歩いて行く。残念なことに、周囲で鍛錬をしていた団員達もいつのまにか手を止めている。彼らも俺達の勝負を観るつもりらしい。
再びやり辛さを感じつつも、男の正面、少し離れた位置に立つ。俺が位置につくと、男は話し始めた。
「まだ名乗ってなかったな。俺の名はウェイド・ブランディール。勝負を受けてくれて感謝するぜ、アイル・スタイン」
そう言ってウェイドは口角を上げてにっと笑った。
「ルールは簡単だ。どちらかが降参するか、戦闘不能になるか。なあに、安心しろ。殺しはしねえからよ」
余程自信があるのであろう、ウェイドは余裕の表情だ。
最初は俺の剣の実力のみで戦ってみる。調査団員なのだから単純に剣だけでは勝てないだろうが、俺の剣でどこまで戦えるのかを知るには良い機会だ。
そこで俺とウェイドの間、俺の右斜め前にひとりの女性が来た。
「それでは、魔法などによる周囲の被害を防ぐために結界を張らせていただきます」
そう言うと、女性は俺とウェイドの周りに結界を張った。
ウェイドは何でもありの勝負だと言った。つまり、ウェイドは魔法が使えるということだろう。どんな魔法を使うか分からないが、十分に警戒をしておく必要がありそうだ。
「準備は出来ましたか?」
女性が俺とウェイドを見る。
「ああ、いいぜ」
「はい」
「……それでは、勝負の開始の合図をさせていただきます」
ウェイドが右手の木剣を右後方で下段に構える。それを見た俺は左足を前に出して足を広げ、右手の剣を下げて右後方に構えた。
数秒、張り詰めた空気が辺りを包む。すぐに対応できるよう、視線を固定せずにウェイドの全身を漠然と見る。
固唾を飲んだ、その直後。
「始め!」
女性の凛とした声が辺りに響き渡った。
それと同時に、ウェイドの右手が動いたのを俺の眼が捉える。
「敵を切り裂け!ウィンドスラッシュ!」
短い詠唱の後、ウェイドが右後方から緑色の光を帯びた木剣を水平に振り抜いた。風の斬撃が俺に迫る。
「っ!」
右に飛び、風の斬撃を回避する。飛翔する斬撃が俺のすぐ横を通過して後方に消えて行くと、結界にぶつかってズガアアアン!という音を立てて魔力を拡散させた。
「ウィンドスラッシュ!」
すでに詠唱を終えていたのであろう、ウェイドが間髪入れずにもう一撃繰り出す。
「っの!」
不意を突かれた俺は右足で乱暴に地面を蹴ると、左に転がるようにして斬撃を回避した。
「かかったな!」
いつのまにか距離を詰めていたウェイドが木剣を振りかぶる。すかさず剣をかざして俺はその攻撃を受け止めた。
「ぐっ!」
ギリギリと嫌な音を立てて木剣がせめぎ合う。俺は左手を木剣に添えて何とかウェイドの木剣を押し込まれないように堪える。
そこでウェイドはいきなり俺の剣を勢い良く弾いて俺を後退させた。よろめく俺を逃さないよう、すかさず左足を俺の右脇腹に叩き込む。
「うおら!」
「がっ!?」
予想もしていなかった蹴り技に対処出来ず、重い一撃に俺は吹き飛ばされた。そのまま無様にゴロゴロと転がって行く。
「なんだなんだぁ?こんなもんかぁ?」
左手をついて起き上がると、とんとんと右手の剣を肩に当てて嗤うウェイドの顔が見えた。
「もっと楽しませてくれよな。ヒーローさん……よっ!」
言いながら、ウェイドが地面を蹴って俺に迫る。
「ほらよ!」
素早く立ち上がってなんとかウェイドの袈裟斬りを木剣で迎撃する。俺の剣を弾くと、ウェイドはすかさず剣を振るって来た。
「ほらほらほらほらっ!」
「っ!」
俺の剣を何度も弾いては攻撃を仕掛けて来る。剣を受けるので精一杯で攻撃する隙も無い。
このままじゃ防戦一方だ……!
「おら!」
「ぐっ!」
受け損ねた木剣が俺の腹部を捉える。その衝撃で俺は後方に吹き飛ばされ、いつのまにか接近していた結界に背中から叩きつけられた。
「がっ!」
「おいおい?もう終わりか?」
痛みに顔を歪めながら、木剣を支えにしてよろよろと立ち上がる。ウェイドは残念そうに首を振って言った。
「もちー!っとやるとは思ってたんだがなあ……しょうがねえ、もう終わりにするか」
そう言ってウェイドは右肩に乗せていた木剣をだらりと力なく下ろした。俺との勝負がつまらなくなったのか、ゆらゆらと右手を動かして近づいて来る。
「クソッ……」
どうやら単純な剣の実力だけでは到底敵わないらしい。だとするならば、やはり魔力強化に頼るしかないようだ。
大丈夫……大丈夫……大丈夫……
深呼吸をする。まだ試したことは無いが、魔力強化は上手く使えば相手を圧倒することが出来るはずだ。魔力を少しだけ使う感覚で発動すれば……
ウェイドが近づいて来る。ウェイドに悟られないように、ギリギリまで発動を待つ。
「終わりだ!」
ウェイドが剣を大きく振りかぶる。
そこで俺は剣を水平に構えた。
ーーここだ!
直後、轟音とともに俺はゼロ距離の高速突進攻撃をウェイドに浴びせた。水平に構えた木剣がウェイドの腹部に沈む。
「ぐっ!?」
一瞬のことであったが、ウェイドと共にそのまま結界内の中間地点程に到達する。なんとか魔力消費を抑えた俺は足でブレーキをかけながら止まったが、ウェイドは吹き飛んで向かいの結界に叩きつけられた。
「ごばっ!!」
ウェイドが吐血しながら鈍い声を出す。そのままずるずると結界伝いに落ちて尻餅をついた。
時が止まったように、修練場内がしんとする。
直後、観客席の団員達が驚嘆の声を上げた。
「はあ……!はあ……!はあ……!」
俺は水平に構えていた木剣を下ろすと、荒い息遣いで何度も肩を上下させた。
やれる……!やれるぞ……!魔力強化を上手く使えば勝てる!
「がはっ!がはっ!」
どうやらさっきの一撃ではウェイドは倒れないらしい。さすがは調査団の団員と言ったところか。
「……っ!てめえ……!」
ウェイドが口元を袖口で拭いながらよろよろと立ち上がる。
「ぶっ殺してやる!」
叫び、ウェイドは走り出した。もう一撃お見舞いするべく、俺は右手の木剣を左後方に引く。
「……はっ!」
ウェイドが魔力強化の有効範囲に入ったところで、一瞬だけ魔力強化を発動させてウェイドに迫る。左後方に引いた木剣を勢い良く振り抜くと、今度はウェイドの体ではなく木剣を狙う。
「おお!」
振り抜いた斬撃は見事にウェイドの木剣に命中した。側面から攻撃を浴びせた木剣が真ん中でへし折れて吹き飛んで行く。高速移動の勢いを保持した俺も足で減速しながらウェイドの後方へ抜ける。
一瞬の静寂。折れた木剣がくるくると空中で回転し、やがて落下音がした。
直後、その音がまるで合図であったかのようにわあっ!と観客席から歓声が聞こえた。
「うそ……だろ……」
後ろでウェイドが膝から崩れ落ちて信じられないとでも言うように呟く。
観客席を見る。リリアは安堵の色を滲ませ、レイアは手を振ってくる。ジートは俺に親指を立てて見せた。
「勝っ……た……のか……」
まだ状況が理解しきれていない頭で呆然と呟く。
鳴り止まない拍手と歓声を、俺はただただその身に浴び続けた。
読んでいただきありがとうございます!
今までで一番戦闘らしい戦闘を書けたはず……
楽しんでいただけていれば嬉しい限りです。
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