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第1話 第四支部

俺の意識が戻ってから二日後、俺は無事回復し、いつも通りの生活に戻ることが出来た。

さらにその翌日、リリアからラウトが戻ったと聞いた俺は、今、調査団第四支部の前に居る。


「でかいなぁ……」


街一番の大きさを誇る調査団第四支部の建物。大きさだけではなく、装飾も洗練されていて、美しい外観であると有名である。


多くの調査団員が出入りする入り口に向かって階段を上って行く。建物の中に入ると、幻思世界に居た団員のシュナイダーが前方に居ることに気づいた。


「あの、すみません」


駆け寄って声をかける。彼は後ろで結わえた長い黒髪を揺らして振り向いた。


「ああ、君か。勲章を受け取りに来たのか?」

「はい」

「勲章って……シュナイダー、そいつが例の?」


シュナイダーと話していた、茶髪を短髪にした男が口を開く。


「ああ。彼が今日勲章を授与される冒険者、アイル君だ」

「マジかよ!?まだ子供じゃねえか!すげえな、坊主!」


男は驚嘆の声をあげて俺の全身をジロジロと見た。


「あ、あの、この人は……?」

「彼の名はクライス。私と同じ第三小隊のメンバーだ」

「クライス・ベイトだ。よろしくな」


そう言ってクライスは俺に右手を差し出してきた。


「ア、アイル・スタインです。よろしくお願いします」


慌ててその手を握りながら俺も自己紹介をする。その様子を見ていたシュナイダーがクライスに向けて口を開いた。


「クライス、話の途中で悪いが私は彼を案内して来る」

「おう、また後でな。坊主もまた会おうぜ」


クライスと別れると、シュナイダーに連れられて多くの調査団員とすれ違いながら広間を横断する。


ーーなんか俺、見られてないか……?


周りの団員からやたらとじろじろ見られている気がする。何やらひそひそと話している者も居るようだ。


「気にするな。彼らは私達を救った君に興味があるだけだ。悪目立ちしているわけではない」

「救ったなんて、そんな」

「謙遜しなくていい。これから受勲するのだから、胸を張って居るべきだよ」


彼は俺を評価しているのであろう、真剣な横顔で言った。


「……わかりました」


彼の言葉に(うなず)き、俺は周囲の目は気にしないように努めて彼の後に続いた。



「ここだ」


彼に案内されたのは、控え室だった。恐らく、勲章などを授与される者が待機しておく用途で使われている部屋なのであろう。


シュナイダーがノックをすると、中から女の声が聞こえた。中に通されると、そこには調査団の白い制服を身に(まと)ったリリアが居た。


「アイル、来てくれたのね。シュナイダーさんが案内して下さったんですか、ありがとうございます」

「気にするな。彼は私の恩人でもある。案内するのは当然だ。では、後は頼んだぞ」


そう言って、シュナイダーは部屋を出て行った。

リリアが俺を見て、申し訳なさそうな顔で口を開く。


「ごめんなさい、本当は私があなたを調査団に来る前から案内するべきだったんだけど……」

「大丈夫だ。体はもう何ともないから」

「そう……よかった」


安心したように言ったリリアから部屋の中に視線を移し、辺りを見回してみる。


「それで、俺はこれからどうしたらいいんだ?」

「十一時から授与式が始まるから、それまでにこの服に着替えて」


リリアに渡された服に目を落とす。なんとそれは、高そうな礼服だった。


「ど、どういうことだ?」

「授与式は講堂でやるみたいなの。調査団員に今回の件の報告も兼ねてということらしいわ」

「じゃあ、大勢の前で授与されるってことか……?」

「そういうことになるわね」

「なんだって……」


俺はガックリと肩を落とす。勲章を受け取ると言っても、支部長室かどこかに呼ばれるだけだと思っていたが、まさかそんな大人数の前で受け取らねばならないとは。


「私も驚いたけど、誇らしいことなんだから喜んだ方がいいわよ」

「そうかもしれないけどさ……」

「もう決まってしまったことなんだから、諦めた方がいいわ。それより、その服に着替えて準備して」

「わかったよ……」


渋々更衣室に向かう。俺はこういう式が苦手なのだ。

服を脱ぎ、ワイシャツの袖に手を通す。スラックスを履き、革靴も履くと、最後に黒いジャケットを羽織る。鏡の前に立って、自分の姿を確認してみた。


「似合ってないな……」


普段このような格好をしない分、違和感が物凄くある。再び肩を落としながら、更衣室を出て、控え室のドアを開ける。


「着替え終わったのね」

「まあ……」


リリアが俺の全身をジロジロと見る。やはり似合っていないのだろう。


「うん、悪くないわね」

「えっ、本当か?」

「ええ。もしかして、似合ってないと思って落ち込んでたの?そんな事ないから、安心していいわ」

「そうか……よかった……」


安堵のため息をつく。似合っていないのに大勢の前に出るのは気が乗らなかったのだが、リリアがそう言ってくれるならば少しは安心できる。


「そろそろ時間になるから、移動しましょう」

「わかった」


そう言って、俺は長い髪を揺らして部屋を出る少女の背を追った。



「うわあ、多いな」


裏口から覗いてみた講堂は、すでに調査団員達の白い制服で埋め尽くされていた。団員達は、舞台に向かって整然と並んでいる。


「こっちよ、アイル」


いつのまにか距離の開いていたリリアが、俺に声をかける。今は急ぐのが先だった。


「ああ、悪い」


リリアに返事をして、速足で彼女の背を追う。

目の前の角を曲がると、すぐに目的地に着いたようであった。リリアがノックをすると、中から男の声がした。その声を聞いたリリアはドアを開けて、俺の入室を(うなが)す。部屋の中に入ると、そこにはラウトと、椅子に腰掛けた見知らぬ男性と、その横には同じく見知らぬ少女が居た。


「失礼します」

「おお、来たか」


ラウトが言う。大男も他の団員と同じく白い制服に身を包んでいた。


「お元気そうで何よりです」

「リリア、案内ご苦労だったな。少年も御足労感謝する」

「い、いえそんな……」

「ラウト、彼が今回のヒーローなのかな?」


そこでもうひとりの男が口を開いた。男は黒髪で、他の団員と同じく白い制服に身を包み、机の上で手を組んでいる。


「はい。彼が今回の事件で多大なる貢献をした冒険者、アイル・スタインです」

「ほう。若いんだね」

「あ、あの、あなたはもしかして……?」

「僕はジート・ラウ。君の予想通り調査団第四支部の支部長さ」


予想通りではあったが、初めて見る支部長に少々驚く。どうやら思ったより若い人物のようである。


「ラウトから話は聞いているよ。なんでも、強力な力でサイクロプスを圧倒したとか。実に興味深いね。その力について聞いてもいいのかな?」

「それは……」


答えろ、と言われて簡単に答えられることではない。俺は何と切り返そうか考えを巡らせていたが、俺が答えるより先にジートが口を開いた。


「ふむ。色々と訳ありのようだね。わかった、これ以上は聞かないよ。その代わり」


そこで言葉を切ると、ジートは身を乗り出して目を輝かせながら俺に言った。


「解剖させてもらってもいい!?」

「かっ!?」

「ねえ!?いいよね!?ねえ!?ねえ!?」

「ええ、ええっと……?」


唐突な提案とジートの意外性のダブルパンチで俺はすこぶる混乱してしまった。オロオロする俺を助けてくれるらしく、今まで話を聞いていたジートの隣に居る少女が口を開いた。


「兄さん!またそんなこと言って!困ってるじゃない!」

「ご、ごめんごめん!どうにも知識欲が抑えられなくてね」


少女の言葉で我に返ったのか、ジートは椅子に座り直した。


「おほん。取り乱して悪かったね。紹介が遅れたが、彼女は僕の妹のレイアだ」

「レイア・ラウです。さっきはごめんね?兄さんときどきあんな感じになるの」

「あ、あんな感じ……」


先程のジートの様子を思い出す。あの目は本気の目だった。

いつか解剖されてしまうのだろうか……

そんなことを考えていると、思わず身震いをしてしまった。


「もうー!兄さんのせいで怖がられちゃったじゃない!せっかく歳の近い友達を作るチャンスなのに!」

「わ、悪かったよ。そんなわけだから、アイル君、レイアと仲良くしてやってくれ」

「わ、わかりました」


そこで、レイアはジートの隣から俺の方へ歩いて来た。身長は俺より少し低く、黒髪のロングヘアに赤いカチューシャを着けている。


「よろしくね、アイルくん。レイアって呼んでね」

「ああ。よろしく、レイア」


少女が笑顔で右手を差し出したので、その手を握り返す。


「ほんとはもっと話したいんだけど、時間もないからまた今度お話ししようね」

「そうだな。楽しみにしてるよ」

「うん。リリアも、また話そうね」

「ええ。待ってるわ」


どうやら知り合いなのであろう、レイアはリリアに声をかけるとジートの隣へ戻って行った。


ジートは壁に掛けてある時計を一瞥すると、立ち上がった。


「よし、そろそろ時間だ。リリア、アイル君の案内は頼んだよ?」

「承知しました。アイル、そろそろ行きましょう」

「わかった」

「アイル君、また後で」

「はい。失礼します」


そう言って、俺とリリアは支部長室を後にした。



緊張はしたものの、俺はその後無事勲章を受け取ることができた。ジートはさすが支部長というだけあり、さっきとは打って変わって舞台上では厳かな雰囲気で話していた。ジートの口から事件の概要を聞いた調査団員達は多少の動揺の色を見せていたものの、さすがと言うべきか、すぐに事態を受け入れてジートの話す今後の対応に耳を傾けていた。


集会が終わり、俺はリリアに連れられて調査団の入り口、一階の大広間まで戻って来た。とりあえずこれで帰れるらしい。

わざわざ入り口まで見送りに来てくれたジートが口を開く。


「アイル君、今日はご苦労だったね」

「いえ。勲章、ありがたく我が家に飾らせてもらいます」

「ははは、そうしてくれると嬉しいよ」


次いで、ジートの隣に居たレイアが声をかけてきた。


「アイルくん、また来てね。あと、ギルドとかで見かけたら声かけてくれると嬉しいな」

「わかった。そうさせてもらうよ」

「じゃあ、またね」

「ああ。リリアも、またな」

「ええ。気をつけて帰ってね」

「わかったよ」


まるで俺を子供扱いするように心配するリリアに苦笑してその場を後にしようとしたその時、入り口からこちらに向けてずんずんと歩いて来る人物がいた。俺の目の前で止まると、男は俺を見下ろして口を開いた。


「おい、お前本当に強えのか?こんなガキがサイクロプスを倒したなんて俺は信じられねえんだが」

「ええっと……?」


誰だ、この人は?目線は俺よりいくらか高い。濃い灰色の髪を無造作にかきあげ、腰には立派な剣を携えている。


「ちょっと、彼は……」

「てめえには聞いてねえよ。おい、どうなんだよ?」


リリアの言葉を乱暴に遮ると、男は俺に問いかけた。

男はどうやら俺が勲章を受け取るに足る人物であるのか疑っているらしい。つまり、男は俺の実力を知りたいのだろうか……?

俺が何も言わないでいると、案の定、男は俺に提案した。


「何も言わねえか……。おい、お前。俺と勝負しろ」


その言葉に、今度はレイアが声をあげた。


「なっ、勝負!?勲章を与えたのは調査団支部長よ!?アイルくんの実力が信じられないっていうのは、つまりあなたは支部長の決定を疑うってこと!?」

「そうだ!信じられねえよ!こんなガキ」

「そんな……に、兄さん……」


レイアは助けを求めるようにジートに視線を送った。ジートはしばらく考え込むようにしていたが、やがて意外な言葉を口にした。


「うん、いいんじゃない?」

「兄さん!」

「僕も個人的に興味がある。アイル君の力を見るには良い機会かもしれない」

「へへっ、分かってるじゃねえか」


ジートの言葉に、リリアが異論を唱える。


「支部長!彼は力を使うと体に負担がかかるんです!前回の傷が癒えてまだ数日しか経っていないのに……!」


リリアが異論を唱えたのは、俺の体を案じてのことだったらしい。確かに、その心配はある。しかし……


「わかりました。その勝負、受けますよ」

「へへ!そう来なくちゃあな!」


男が俺を侮るように嘲る。


「アイル!」

「ありがとうリリア。でも、勝負を申し込まれたんだ。冒険者として、逃げるわけにはいかない」

「でも!」

「大丈夫だ。この力は使いこなせるようにならないといけない。そのためには、勝負から逃げてちゃダメなんだ。……上手くやってみるよ」


リリアから視線を外し、男を正面から見据える。


「場所は調査団にある修練場だ。もちろん、今から行けるよな?」

「はい、いいですよ」

「いい返事だ。ついてこい。案内してやるよ」


そう言って男は歩き出した。


大丈夫、策はある。やってみる価値はある。


俺は男に勝つための策を持って、その背中について行った。

久しぶりの投稿です。読んでいただきありがとうございます。


少しずつ次の話の持って行きかたを思いつき始めたので、これからまた投稿していくと思います。楽しんでいただければ。

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