第11話 たったひとつの方法2
俺の提案した作戦は、至ってシンプルなものだった。
作戦はこうだ。リリアの風魔法で俺の体を飛ばし、モンスターの頭上を飛び越え、魔力強化で瞬時にダグラスの剣に接近して、叩き折る。思い出の品を破壊することで、この世界は崩壊し、脱出することができるのだ。
しかし、この作戦にはひとつ問題があった。それは、魔力強化を短時間で二度使用することによって、俺の体にどのような悪影響があるのか全く予想ができないこと。一度目の使用で身動きが出来なくなったのだ。二度目の使用では、もっとひどい状況に陥る可能性もある。
しかし、今の状況では手段を選んではいられない。このままでは、俺もリリアも、他の冒険者もみんな死ぬ可能性が高い。それならば、リリアの治癒魔法と時間経過によって多少なりとも回復した魔力を使ってこの作戦に賭けるしかない、そう思って、俺はこの作戦を提案した。
「でも、ひとつだけお願いがある」
リリアが口を開く。ダグラスから視線を移すと、彼女の真剣な顔が目に入る。
「私も一緒に行く。あなた一人じゃ、動けなくなった時に困るでしょう?」
「……ああ、頼む」
今の俺は、普通に歩くのにも苦労している。危険を伴わせることになってしまうが、今の俺にとっては必要なことであると思い、リリアの申し出をありがたく承諾した。
「それじゃあ、準備はいい?」
「ああ」
俺の返事を聞くと、リリアは詠唱を始めた。対象の移動を可能とする風魔法。
「エアライド」
リリアが結びの魔法名を口にした直後、浮遊感と共に体が押し上げられている感覚を覚える。その感覚を感じたかと思えば、すでに目下にはモンスターの大群が広がっていた。
恐らく一秒間しか使えないであろう、魔力強化の射程にダグラスの剣が入るのを待つ。まだダグラスはこちらに気づいていない。
まだ。まだだ。あと少し……
今!
直後、体が光に包まれる。空を蹴って、ダグラスの剣に迫る。
ーーいける!
剣の側面から思いっきり重い一撃を叩き込むと、ガギィィィンという耳障りな音と共に、ダグラスの剣がへし折れて吹っ飛んだ。作戦通り、見事にダグラスの剣を破壊することに成功したのだ。
ーーやった!
例の通り自由の効かなくなった体を投げ出されながら、俺は胸中で歓喜した。そのまま地面を数メートル転がって行く。
ダグラスの顔が視界に入る。しかし彼は、なおも穏やかな顔のまま外を眺めていた。
ーー何だ?
リリアが俺の側に着地して、「大丈夫!?」と声をかけながらしゃがみ込む。次いで、ダグラスの方を見た彼女は、俺の気持ちを代弁するかのように口を開いた。
「どうして……?なぜあなたは、そんな顔をしていられるんですか……?」
そう。思い出の品が破壊されたのならば、既に世界の崩壊が始まっていなければならない。しかし、ダグラスの世界は一向にその気配を見せなかった。
「どうして?愚問だな、リリア」
ダグラスがゆっくりとこちらに顔を向け、穏やかな顔の訳を口にする。
「私が弱点を晒して呑気に外を眺めていたと本気で思っているのか?」
そこまで言うと、ダグラスは折れた剣を拾い上げ、顎に手を当てた。
「よく出来てるだろう?この世界なら、私はこんな物だって作れるみたいだ」
「まさか……!」
リリアが鋭く叫ぶ。恐らく、俺と同じ結論に至ったようだ。
「……そう。ダミーだよ」
ダグラスは、穏やかな顔で最悪の真実を告げた。




