第10話 たったひとつの方法
「お前ら!固まって応戦だ!孤立するなよ!?」
ラウトの鋭い叫び声に冒険者達が野太い声で応じる。モンスターの大群と冒険者達の境界はどんどん狭まり、そして、衝突した。激しい金属音と怒号が飛び交う広間の奥では、ダグラスが穏やかに外を眺めている。
「やっぱり、こうなるのね」
隣に居るリリアが、苦い顔で呟く。リリアが言っていたように、主であるダグラスとの戦闘は避けられなかったらしい。
前線から離れている俺達の元にはまだモンスターは来ていなかったが、あまりにもモンスターの数が多く、このままでは戦線を押し込まれジリ貧になることは明らかだった。
「俺達も……!」
言いながら足を踏み出すが、体に痛みが走り、立ち止まる。俺の様子に気づいたリリアが、心配そうに俺の背中に手を添えた。
「大丈夫?無理はしないで」
「あ、ああ……」
鈍い痛みに顔をしかめ、その痛みをもどかしく思いながらも、もう一度前線に目を向ける。冒険者達の隙間から見えるモンスターの数は、いっこうに減っていない気がする。こうしている間にも、戦線は押し込まれているのかも知れない。
モンスターを掃討することは恐らく不可能だ。たとえここにいるモンスターを片付けたとしても、主ならば無尽蔵にモンスターを召喚出来るだろう。
不意に、あることに気づく。佇むダグラスの足元には、壁に立て掛けられている剣が見えた。
この世界に来る時に見た、ダグラスの剣。
「リリア、頼みがある」
痛みに顔を歪めながら、俺は隣の少女に声をかけた。
「頼み?」
「ああ。この世界から帰るための、たったひとつの方法だ」
俺の話を無言で聞いていたリリアは、話が終わると躊躇うように口を開いた。
「でも、それじゃああなたはどうなるの……?」
「分からないな……俺も、やったことはないからな」
「そんな……」
リリアが暗い顔でうつむく。先刻リリアに心配をかけないと言ったことが思い出され、チクリと胸が痛んだ。
「……死にはしないさ」
嘘ではない。でも、約束出来るほどの根拠も無い。
それでも俺は、不安そうなリリアに、少しでも安心して欲しかった。
リリアは俺の気持ちが分かったのだろう。そして、この世界から帰る方法がひとつしかないことも。唇を引き結び、顔を上げると俺の目を真っ直ぐに見て言った。
「わかった。その方法に賭けましょう」
リリアの目には、先程とは打って変わって覚悟の火が揺らめいていた。その火に焚き付けられるように、背筋を伸ばして言う。
「ああ。頼んだ」
リリアから目を離し、世界の主を見る。彼は相変わらず穏やかに外を眺めていた。
賭けに勝つのは俺かお前か。勝負だ、ダグラス。




