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ZEHN HELDEN ─魔界の十勇士─  作者: 京町ミヤ
第2部《人間界》
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第89話

灰色のパーカーとジーンズから、オフショルの白いインナーに花柄のタイトスカートといった華やかな服装に着替え、陸は嬉々とした様子で歩いていた。


両手にはそれまで着ていた服と、新しく購入した服が入れられた紙袋を手にしている。

心から楽しんでいる陸の数歩後ろを歩きながら、宇宙もまた微笑んだ。


そして陸はふと、後ろから着いてきてくれる宇宙に話しかける。


「次は何処に行きますか?」


「何処でもいいわよ。でも、そろそろ時間的にもお昼だし、適当にご飯食べない?」


「それもそうですね。あ、宇宙さんのおすすめのお店とかありますか?」


「えっ。…………じゃあ、あそこのカレー屋さんとかどうかしら」


宇宙の指さした方に視線を向ける。

飾られているサンプルを見る限り、辛そうな物ばかりだが。ここまで買い物に付き合ってくれた宇宙への礼も兼ねて、承諾する事にする。


「いいですね。私カレー好きなんです!」


「そうなの?」


「はい。海ちゃんがよく作りに来てくれて」


「ひゅぅ〜海君料理も出来るんだ〜。スパダリじゃぁん」


そんな会話を交わしながら案内された席に向かい合って座る。店員に注文を済ませた所で、陸はハッと思い出した。


(海ちゃんに頼まれてたあの質問……してみなくちゃ)


急に黙り込んだ陸を見て不審に思ったのか、宇宙は覗き込むようにして陸を見つめる。


「どしたの?」


「あ、あの、宇宙さん……!」


「うん」


「宇宙さんの……本当の目的はなんですか……!?」


「──────」


パチパチ、と目を瞬かせて、宇宙は黙り込んでしまった。陸のした質問には主語がない。故にどの件についての話をしているのか理解していないのだろう。


「…………何の話?」


案の定、心当たりがない、と言ったふうに宇宙は笑む。


「殲滅隊を設立して、人工的な魔人の人数が揃ったその後……宇宙さんはどうするつもりなんですか?」


「………………」


今度はキッパリと内容を述べた。そして沈黙を貫く宇宙に、陸は更に畳み掛ける。


「以前、宇宙さんは言いました。強面で実力もある海ちゃんが総隊長。医療知識もあるくぅちゃんが司令官兼バイタルチェック係。そして……機械いじりが得意な私が魔石管理係だと。

宇宙さんは? 宇宙さんはどんな役職につくんですか?」


「それは……」


「皆が前向きになっている中、宇宙さんだけはどこか後ろ向きな気がします。この質問は海ちゃんに頼まれたっていうのもあるけど……それ以前に私は──」


「──に、」


勢いよく立ち上がって、宇宙はテーブルを叩いた。テーブル上に置かれていたグラスが揺れ、中に入っている水にも波紋が広がる。

周辺にいた客や店員の視線を集める事になったのだが、当の本人が気にしている様子はない。


「陸ちゃんには絶対分からないわ!!」


「えっ……」


「どうしてこのタイミングで聞くの……? どうして今なの……!?」


宇宙は悔しげに、そしてどこか悲しげに眉を顰めて声を震わせる。

そのただならぬ雰囲気に、陸はただ彼女の名を呼ぶ事しか出来なかった。


「宇宙さん……?」


「っ、ごめん、暫くほっといて!」


そう言い残して、宇宙は走り去って行ってしまった。陸はどうしていいか分からずに、その場に硬直してしまう。


(ほっといて、って言われても……。でも……話したくないみたいだったし……)


少し軽率だったか、と後悔した。

いくら頼まれたからといっても、もう少し柔らかく聞くべきだった、と。


宇宙がそれまで座っていた場所を見つめて、溜め息をつく。

とりあえず、注文した分のカレーは食べなくてはならない。……宇宙の分も。


──そういえば彼女、激辛の大盛りカレーを注文していなかったっけ……。


そんな嫌な予感を抱きながらも注文した品が運ばれてきた以上、陸には食べる以外の選択肢は残されていなかった。


ひとまず宇宙の事を後回しにして、目の前に聳える真っ赤な物体を口に運ぶ事にする。


案の定、口の中で繰り広げられる辛さの暴力に、陸は咳き込み悶絶した。






※※※※※






ヒリヒリとした痛みを感じながらも何とかカレーを完食した陸は、一人研究所への道のりを歩いていた。


「まだ辛いよぉ〜お水沢山飲んだのに〜!」


その件だけは宇宙に怒ってもいいだろうか、なんて思いながら歩いていた陸の前方に、見慣れた後ろ姿が映った。

指通りの良さそうな銀色の髪をした青年・ディツェンバーだ。


「あ、ディツェンバーさん!」


「! あぁ陸さん。凄い荷物だね」


陸の姿を視認したディツェンバーは、陸の手から紙袋を持って隣に並び立った。


「そ、それ私の荷物だし……」


「重いでしょ? 僕は所謂居候みたいなものなんだから、この位は頼ってくれてもいいんだよ」


「で、でも……」


過去の話とはいえ、魔界の王だった彼に雑用を押し付けるのは如何なものなのだろうか。

そんな陸の思いは伝わっていないらしく、ディツェンバーは頬笑みを浮かべるだけだ。


「ほら。帰りましょう」


「…………ありがとうございます」


結局、折れてしまった。

ディツェンバーに礼を言い、陸はふと脳裏を過ぎった疑問を口にする。


「ディツェンバーさんは、これからどうするんですか……?」


「僕かい?」


えっとね、と悩む素振りを見せた後、


「なーんにも考えてない!」


と、陽気に笑った。


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